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押さえておきたい新薬情報~新型コロナウイルス感染症の発症抑制に限定された中和抗体薬
2022.10.12
2022年8月、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の中和抗体薬、エバシェルドⓇ筋注セット〔一般名:チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)〕が特例承認されました。免疫機能低下の人のウイルス曝露前の予防(発症抑制)に使用できる薬としては、国内初となります。
中和抗体薬には、ロナプリーブⓇ点滴静注〔一般名:カシリビマブ(遺伝子組換え)/イムデビマブ(遺伝子組換え)〕とゼビュディ点滴静注液〔ソトロビマブ(遺伝子組換え)〕があります。エバシェルドⓇは、治療と予防(発症抑制)の両方に適応があります。治療は、重症化リスク因子を有する軽症から中等症Ⅰの患者が対象ですが、まだ供給体制が十分でないとの理由で、「当面は、厚労省が所有し、ウイルス曝露前の投与(発症抑制目的)に限り、薬剤を配分・供給する」との事務連絡が、2022年9月1日付けで発出されました。
ロナプリーブⓇにも、発症抑制の適応はありますが、ウイルス曝露後の濃厚接触者や無症状の患者が対象になります。エバシェルドⓇは、ウイルス曝露前の「ワクチン接種が推奨されない者」や「免疫機能低下等により、ワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある者」が対象で、濃厚接触者への使用は認められていません。具体的には、免疫不全症や臓器移植後、免疫抑制薬や抗がん薬の投与により免疫機能が低下している人で、感染前に投与することで、発症を防ぐ効果が期待されています。なお、ワクチンは、「抗原」を注射して体内で「抗体」を作るものですが、抗体発現までに1~2週間の期間が必要になります。一方、中和抗体薬は、「抗体」そのものを投与するので、即効性があります。ただし、警告欄に「予防の基本はワクチン」とあるように、重症化予防(発症予防ではなく)に関しては、中和抗体薬よりもワクチンの方が高いと考えられています。
既存の中和抗体薬は、オミクロン株(B.1.1.529/BA.2、BA.4、BA.5系統)に対しては有効性が減弱するおそれがあります。新型コロナの回復患者由来の2種類の抗体より開発されたエバシェルドⓇは、ウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に結合することで、中和(感染阻止)作用を示し、ウイルスの宿主細胞への侵入を阻害します。1回の注射で発症リスクを76.73%低減し、オミクロン株(B.1.1.529/BA.4、BA.5では減弱)にも効果があります。消失半減期を延長するために、Fc領域にアミノ酸置換を導入した長時間作用型モノクローナル抗体で、その効果は、半年ほど継続するとされています。
商品名 |
エバシェルドⓇ筋注セット |
一般名 |
チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え) |
会社名 |
アストラゼネカ株式会社 |
警告 |
SARS-CoV-2による感染症の予防の基本はワクチンによる予防であり、本剤はワクチンに置き換わるものではない |
適応症 |
SARS-CoV-2による感染症及びその発症抑制 |
用法・用量 |
〈SARS-CoV-2による感染症〉 成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブ及びシルガビマブとして、それぞれ300mgを併用により筋肉内注射する 〈SARS-CoV-2による感染症の発症抑制〉 成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブ及びシルガビマブとしてそれぞれ150 mgを併用により筋肉内注射する。なお、SARS-CoV-2変異株の流行状況等に応じて、チキサゲビマブ及びシルガビマブとして、それぞれ300mgを併用により筋肉内注射することもできる |
関連する注意 (要約) |
〈SARS-CoV-2による感染症〉 重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者、症状発現から8日目以降に投与開始した有効性のデータはない 〈SARS-CoV-2による感染症の発症抑制〉 ワクチン接種が推奨されない者、ワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある者、濃厚接触者ではない者 |
副作用 |
重大な副作用(重篤な過敏症)、主な副作用(注射部位反応) |
薬価 |
厚労省が所有し、投与の都度、対象医療機関に無償譲渡 |
使用に際しては、添付文書を必ずお読み下さい。【2022年9月時点の情報】
COVID-19の重症度と治療の考え方
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軽症 |
中等症 |
重症 |
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中和抗体薬 |
エバシェルド筋注(発症7日以内) |
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ゼビュディ点静(発症5~7日以内) |
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ロナプリーブ注(発症7日以内) |
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抗ウイルス薬 |
ラゲブリオ(発症5日以内) |
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パキロビッド(発症5日以内) |
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ベクルリー点静 |
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免疫調整薬・ 免疫抑制薬 |
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デキサメタゾン |
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オルミエント錠 |
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アクテムラ点滴静注 |
COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14版を改変
この記事は…
大学病院で医薬品情報を担当していた薬剤師が、年に4回承認される新薬のなかから話題の新薬をピックアップ。その特徴や作用機序、必ず押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。
(筆者)
浜田康次 一般社団法人日本コミュニティファーマシー協会理事