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人材採用戦略の描き方
2022.10.14
今回から3回にわけて薬剤師の採用をテーマに、採用戦略の描き方、採用手法のご紹介、面接官訓練についてお話しいたします。
人材採用に携わっている方や経営者の方に役立つ内容となっています。求職者である薬剤師さんには採用の舞台裏を知ることができるので、就職や転職の際に役立つと思います。
今回は、採用戦略の描き方です。採用ターゲット(新卒or中途)は?採用目標人数は?求職者とのコンタクトポイントをどう作るか?自社の何をアピールするのか?といった採用活動を始めるにあたっての設計図の描き方について解説していきます。
なぜ戦略が必要なのか?
「戦略」とは「戦いを省略する」と書きます。すなわち“いかに戦わずして勝つ”“最小の労力で最大の成果を得る”ための作戦です。
人材採用に限らず、個人・組織問わず、何かのミッションに取り組むときには、まずは戦い方を決めなければなりません。夏休みの宿題を30日間でどうやっつけるか?という計画を立てずに、場当たり的に目の前のタスク(宿題)から取り掛かっていると最後に痛い目に合いますよね。
ミッションに対して感覚的に取り組むことを防ぐためにも戦略は必要です。担当者の得意・不得意や経験などの感覚でタスク処理を進めるのではなく、確実に期限内にミッションを完遂させるために合理的な手段を選ばなければなりません。
さらに、一つのミッションに対して複数人で取り組むときには、戦略があることで共通認識が育まれます。メンバーが同じ目線感・スピード感で仕事に当たることができます。
このように戦略の必要性を申し上げましたが、戦略を描くことに慣れていない人が多く、何を検討して、何を決めて、どう描くのかがわからないという声をよく耳にします。私のような戦略立案を支援するコンサルタントを活用してほしい、という宣伝をしたいところですが、以下の手順に沿って社内で議論してみてください。
人材採用戦略の概要
次のような要素を順番に検討します。
採用担当者だけでなく、経営層や現場監督者なども巻き込んで議論したほうがいいでしょう。
STEP4までを描けたら、そのアクションプランに従って採用活動を始めます。
STEP1:目的・目標設定 |
STEP1-1:目的の確認 STEP1-2:採用目標人数の算出 |
STEP2:現状分析 |
STEP2-1:内部環境分析 STEP2-2:外部環境分析 STEP2-3:問題抽出、課題設定 |
STEP3:マーケティング |
STEP3-1:自社の説明、差別化 STEP3-2:求める人材像の設定 STEP3-3:コンタクトポイントの設計 STEP3-4:メディア選定、メディア作成 |
STEP4:アクションプラン作成 |
STEP4-1:5W1Hの設計 |
―STEP1:目的・目標設定―
・STEP1-1:目的の確認
まずは“何のために人材を採るのか?”という目的の確認から始めます。
一般的には以下のような目的が考えられます。
- マンパワーを補うため。
- 社内の年齢や性別、人件費のバランスを正常化するため。
- 社内の文化や風土を変えるため。
- 改革や新規事業のために、新しいスキルや経験を持った人材が必要なため。
求職者やエージェントから「採用理由」を聞かれることがあるため、この目的確認は大事です。
・STEP1-2:採用目標人数の算出
次に採用目標人数を算出します。毎年一定数退職する人数、新規出店による増員、欠員補充、さらに上記目的などを加味して算出します。
そして、新卒と中途に分けて採用人数を設定します。
―STEP2:現状分析―
・STEP2-1:内部環境分析
これまでの採用活動の何が良くて、何が悪かったのか、どんな施策に対してどんな成果が上がったのかという棚卸をします。
自社の人材採用の何が問題なのか、リソース(ヒト・モノ・カネ)は十分か、有効な施策を選択しているか、採用の目的は設定できているか、目標人数は妥当か、どんな人材を求めるか、自社のアピールポイントは何か、選考プロセスは適切か、といった採用活動全体を振り返ります。
・STEP2-2:外部環境分析
競合他社のリサーチです。まずはどの会社が自社の競合に当たるのかを検討します。
その競合他社のホームページや会社案内、ハローワークや求人サイトなどから、情報収集します。
待遇、社内制度、福利厚生、アピールポイント、組織風土などを分析し、自社の差別化ポイントを探ります。他社より見劣りする部分があるようなら、改善が必要です。
・STEP2-3:問題抽出、課題設定
上記のような内部環境・外部環境の分析を行い、自社の採用活動の問題点を抽出します。
抽出された問題点に解決の優先順位を付けて、課題を設定します。場合によっては、人材採用ではない解決策があるかもしれません。前提や固定観念を捨てて、フラットな気持ちで課題解決を目指してください。
(問題解決手法については、今後のコラムでご紹介いたします。)
―STEP3:マーケティング―
・STEP3-1:自社の説明、STEP3-2:差別化と求める人材像の設定
下記のような手順で議論してください。自社を客観的に捉える必要があるので、採用担当者だけではなく、できるだけ多くの社内外の人を巻き込んで議論するといいでしょう。
私のコンサルティング経験から、このステップでつまずく会社さんが多いです。自社の特徴や強みを自覚できなかったり、求める人材像を絞り込めなかったりします。ブランディング作業でお困りの際はご相談いただければお手伝いいたします。
自社を説明する。 |
ワーク1 |
経営理念、経営者の想い、社員の自社を選んだ理由などを収集する。 |
ワーク2 |
自社の特徴を表すキーワードを列挙する。 |
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ワーク3 |
自社の特徴や性格を象徴する具体的なエピソードを綴る。 |
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訴求ポイントを明確にする。 |
ワーク4 |
自分たちが考える自社の強みを列挙する。 |
ワーク5 |
その強みが競合他社と比較して差別化されているか検証する。 |
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ワーク6 |
強みがどのような形で事業として実行されているか、強みが具現化された取り組みを列挙する。 |
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求める人材像を定義する。 |
ワーク7 |
今、自社にはどんな人が働いているか。 |
ワーク8 |
求める人材像をわかりやすい短文で表現する。 |
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ワーク9 |
バイト経験は?部活動は?成績は?・・・モデル人物を具体的に描写する。 |
・STEP3-3:コンタクトポイントの設計
どこで、どうやって求職者と出会うかという議論です。
中途採用の場合は、人材紹介会社経由がメインになるので、ここでは新卒採用のコンタクトポイントについて簡単にご紹介します。次回のコラムのテーマが「採用手法」ですので、そこで詳しくお話します。
l 実務実習 l インターンシップ l リクルーターの大学訪問 l 教員からの紹介 l 学内説明会、研究室内説明会 |
l ナビサイト l ダイレクトリクルーティングサイト l 合同企業説明会、各種イベントへの出展 l 人材紹介会社や母集団形成代行からの紹介 l SNS |
・STEP3-4:メディア選定、メディア作成
STEP3-1、2の結果をどういう形で求職者に伝えるかという議論です。
以下のようなメディアが考えられます。
あまりお金をかけずにやろう、という気持ちもわかりますが、広告宣伝はプロに依頼するのが結局は費用対効果がいいと思います。
l ホームページ l SNS公式アカウント l 会社案内・パンフレット、プレゼン資料 l 動画 |
l ナビサイト l ダイレクトリクルーティングサイト l Web広告、車内広告、雑誌広告、看板 l ラジオやTVコマーシャル |
―STEP4:アクションプラン作成―
・STEP4-1:5W1Hの設計
STEP3までの議論を踏まえて、いつ、どこで、誰が、何を、どのように実施するかというアクションプラン(行動計画)を設計します。いわゆる「To Doリスト」や「タスクリスト」といわれるものです。各タスクをカレンダーに落とし込んだものを「ガントチャート」といいます。これらのワードでネット検索すると具体的なビジュアルを見ることができるので参考にしてください。
アクションプランがあることで、いつまでに何をすればいいかがわかり、実行性が高まります。また、部門長としては採用活動を管理しやすくなります。
今回は採用戦略の描き方についてご紹介しました。これら以外に決めなければならないこともありますが、これまで場当たり的に、または経験則で採用活動をしてこられた会社さんにとっては、これらの作業だけでも十分な気付きを得ることと思います。
すべての作業を上手に進めることが重要なのではなく、議論や作業を通して今まで手を付けてこなかった部分を設計したり、解決したり、共通認識を育んだりすることが重要なのです。
議論や作業にはそれなりに時間がかかりますので、取り掛かるには覚悟が必要です。ですが、やみくもに採用活動を続けるよりはどこかでまとまった時間を作って腰を据えて戦略を描くことで、採用活動全体の生産性があがります。
そして、採用活動がピークを迎える前の今こそ戦略を描いてください。
著者紹介
1998年東京薬科大学卒、千葉大学博士課程修了(薬学博士) 山梨大学医学部附属病院、クリニック、複数の薬局で勤務。2001年から城西国際大学薬学部の教員として約20年勤務。大手チェーン薬局にて人事・教育・採用部門に従事。2017年に株式会社ツールポックスを設立。経営コンサルティング、キャリア支援、従業員研修などのサービスを展開。北里大学客員准教授兼務。