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アマゾン薬局について
2022.10.24
1.報道の内容
9月5日の日経新聞で、アマゾンが処方薬のネット販売に参入するという報道がなされた。
記事によると、患者はアマゾンに出店した薬局のひとつに電子処方箋を提出する。薬局は調剤した医薬品をアマゾン経由で配送し、オンライン服薬指導を行う。
2.Amazon Pharmacyの先行事例
アメリカでは、すでにアマゾン・ドット・コム自身がAmazon Pharmacyという薬局としてオンライン調剤を行っている。セールスポイントとしては
(1) プライム会員は保険適用なしでも割引が使え、送料がかからない。
(2) 薬の相談は24時間受け付けている。
(3) 購入履歴がそのまま処方歴・薬剤服用歴となる。
といった点を挙げている。サイトのQ&Aでは、「リフィル処方箋を利用している患者に最適だ」としており、当然、「アレクサに声をかけるだけでリフィル処方箋をオーダーできる」こともアピールしている。
ちなみに、10月10日のforbes.comでアメリカのヘルスケア市場におけるウォルマートとCVS、アマゾンの競合に関する記事が掲載されており、薬局が医療機関と保険を傘下に収めるという動きを紹介している。つまり、薬局の単体の事業としての利益を争うのではなく、ヘルスケアに関する支出をすべて抑え込もうという競争が現在繰り広げられているのだ。
3.予想されるアマゾンジャパンのビジネスモデル
Amazon Pharmacyと同じような競争を日本に持ち込むなら、アマゾンのターゲットはヘルスケアに関する支出の「すべて」であって、医療機関も薬局も支払う相手は家賃と人件費以外は全てアマゾンというのが究極的な目標として設定されているだろう。
もしも出店している薬局が処方箋のデータに対して見積もり金額を表示し、患者が選ぶ形となるなら、加算や管理指導料などを算定する薬局は自然に淘汰されていく。同時にオンライン服薬指導は、アマゾン自身がプライム会員に対して無料で提供するサービスをぶつけると予想される。
今年の2月に、アマゾン・ドット・コムは広告収入がyoutubeを超えたと公表した。実際、アマゾンのサイトを見ると、従来のデータに基づいたリコメンド部分に対して広告部分が増えてきたと感じる。
将来的には、患者の薬剤服用歴に応じてリコメンドされるOTCや健康食品の広告料がアマゾンの収益源として期待されているはずだ。
4.日本で起こりうる変化
現在、アマゾンの参入を躊躇わせている要因を想像すると、
(1) 医薬品供給の不安定さ
(2) オンライン診療の普及の遅れ
(3) 事業規模の予測の難しさ
あたりが思い浮かぶ。
現在、新型コロナと季節性インフルエンザとの同時流行に備えてオンライン診療や自宅療養などの運用についての議論が始まっているが、「国民皆保険制度」や「フリーアクセス」の原則は、なし崩し的に壊れ始めているように見える。今後の感染症の状況によっては、オンライン診療は破壊的な形で一気に普及する可能性があり、さらに2年程度経って、医薬品の安定供給の問題を乗り越えることができれば、ハードルは一気に下がると予想される。
「どうすれば生き残れるか?」という質問は、「どうすれば東大に合格できるか?」という質問と同じくらいナンセンスで、安直に答えるなら「ネットに負けない魅力的な店づくり」となるが、「ちゃんと勉強すること」と同じように、「手段」と「結果」を逆転した精神論でしかない。
いずれにせよ壊れていくのであれば、それをいたずらに守ろうと努力するよりも、どこをどのように壊していくことが最善なのか、を考えることがひとつの答えになるだろう。たとえば、地域単位で医療・介護の経営統合を行い、薬局もそこに組み込まれるというのは、「医療機関と薬局との経営の独立」に反するが、価値のある壊し方と言えるのではないだろうか。
薬事政策研究所 代表 田代健