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ゾコーバの緊急承認

2022.12.19

1.ゾコーバの緊急承認から見える問題

11月22日に、経口COVID-19治療薬としては国内初となるゾコーバが緊急承認された。5月の薬機法改正で創設された緊急承認制度の初の事例ということもあり、「効果」と「承認プロセス」について主に2つの宿題が残された。

(1) 効果の問題

統計処理を行う際には、データを集める前に分析手法や評価項目を固定しておかなければならないというのは統計学の基本で、この原則が守られていない点は7月の審査時に致命的ともいえる問題となった。今回も、流行株の変化に対応するという名目で評価項目を変更した。参考までに変更前の評価項目も合わせて検討されたのだが、こちらでは有意差は検出されなかった。これを薬剤師はどう評価すべきだろうか?

 (2) 承認プロセスの問題

審議会の冒頭で、厚労省が16日に開催した自治体向け説明会でゾコーバが(承認されていないにもかかわらず)言及されていたことが問題視された。「審議会の軽視」という叱責に対して担当者は陳謝したのだが、そもそもゾコーバの効果が確実であれば、このような問題は生じなかったはずだ。それでもなお、とにかく国産の治療薬が欲しい、という「空気感」が議事録からは見て取れる。審議会では多数決をもって承認したが、これは科学的な評価と呼べるのだろうか?


2.戦略を欠く日本の社会保障

説明会の不手際は、根回しの不足のようにみえる。地方で開催した説明会の内容が医師会を通じて中央の委員に即座に伝わることを想定できていなかったのだとすれば、内閣官房と厚労省との連携がうまくとれていないのではないかという懸念を抱いてしまう。

アメリカの国際政治学者エドワード・ルトワック は『戦略論』の中で「第二次世界大戦中に連合軍がドイツや日本の都市を空爆したような場合には戦略は不要で、むしろ工場の経営管理のような効率性が必要となる。その違いは、空爆を受ける市民の意思を考慮に入れる必要がないという点だ」と書いている。

おそらく、審議会の政府側には「他のプレーヤーの意思や動き方を考慮する」というプロセスが機能しなかった。これは同時にルトワック 的な意味での「戦略の欠如」を生じさせ、それが私たちに「場当たり的」という印象を与えるのではないだろうか。

1957年のサリドマイドも、「包括建議」という名目で迅速に承認された。販売期間は5年間だったが、被害者へのダメージは一生続くことになった。このような歴史があるからこそ、新薬は慎重に承認しなければならないという制度になっている。

もし国産の新薬を承認することが最優先の目標なのであれば、戦略としては研究開発に補助金を投じて製薬企業の行動を促すべきだ。社会保障費を使って大量に買い上げて患者の安全性を天秤にかけるような政策には、戦略はない。

このような戦略の欠如は、ゾコーバの承認に限ったことではなく、社会保障全般にわたる症状だと筆者は考える。


3.薬局が主体性をもつことの必要性

現在のように保険調剤に特化した薬局薬剤師という業態にはひと世代程度の歴史しかないが、この短期間に「調剤報酬という形で露骨に人参を目の前にぶら下げれば、薬局は政府が求めることになんでも従う」という期待が固定化したようだ。その結果として政府による薬局の使い方が場当たり的になっているのであれば、なおさら薬局は戦略を持たなければならない。つまり、政府の意思を読み、それを忖度するのではなく自分の意思をもって行動し、それを明確に示すということだ。たとえば、ゾコーバなり抗原検査キットなりを在庫するにあたって、政府が求めるような在庫の仕方を無批判に目標とするのではなく、それが唯一の正解なのか、それ以外に地域全体として最適解があるのかということを、主体的に検討し、表明すべきだ。それが難しければ、そのための能力を今からでも涵養するべきだ。

「薬業時事ニュース解説」

薬事政策研究所 代表 田代健