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押さえておきたい新薬情報 片頭痛の発作予防薬(CGRP関連抗体薬)
2023.02.13
片頭痛の発作予防薬(CGRP関連抗体薬)
片頭痛の発作予防薬として、2021年4月に抗CGRP抗体薬のエムガルティⓇ皮下注〔ガルカネズマブ(遺伝子組換え)〕、同年8月に同じく抗CGRP抗体薬のアジョビⓇ皮下注〔フレマネズマブ(遺伝子組換え)〕と抗CGRP受容体抗体薬のアイモビーグⓇ皮下注〔エレヌマブ(遺伝子組換え)〕が発売されました。
片頭痛が月に2回以上、あるいは生活に支障を来す頭痛が月に3日以上の患者で、予防治療の実施が検討されます。既存の予防薬は、ドラッグ・リポジショニングによるバルプロ酸、プロプラノロール、ロメリジン(以上、保険適応)、アミトリプチリン、ベラパミル(以上、適応外だが保険は適用)などで、片頭痛の特異的な治療薬ではありません。治療効果は十分とは言えず、効果発現までの期間も長く、長期の服用のために副作用による脱落例が少なくありません。
片頭痛の病態は、いまだに不明な点も多いのですが、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が重要な役割を果たすことが明らかとなり、これを標的にしたモノクローナル抗体(CGRP 関連抗体薬)が開発されました。片頭痛の病態にアプローチした初めての薬剤で、急性期治療のトリプタンに匹敵する、予防薬におけるキードラッグの誕生です。8 年ぶりに改訂された頭痛診療ガイドライン(2021年)では、予防療法において、①Group1(有効)、②Group2(ある程度有効)、③Group3(経験的に有効)、④Group4(有効、副作用に注意)、⑤Group5(無効)のなかで、最も高いGroup1にグレーディングされています。
CGRPは、三叉神経終末から頭蓋内の硬膜血管に放出される神経ペプチドで、血管拡張、血漿蛋白漏出、神経原性炎症の直接の原因とされます。エムガルティⓇとアジョビⓇは放出されたCGRPに結合し、アイモビーグⓇはCGRPの受容体に結合することで、CGRPの生理活性を阻害、片頭痛発作を予防します。CGRP 関連抗体薬は、分子量がおよそ148,000で、脳-血液関門を通過しないため、眠気やめまいなどの中枢神経系の副作用が少ない薬です。また、半減期が約1ヵ月と長いため、月1もしくは3ヵ月に1回の投与でも十分効果が期待できます。治験段階では、薬理作用を減弱させるADA(抗薬物抗体)や中和抗体の発現率は低く、発現しても効果に明らかな影響は認められませんでした。アイモビーグⓇは、海外市販後において「重篤な合併症を伴う便秘」の報告があり、便秘の既往歴や消化管運動低下を伴う薬を併用している患者では、注意が必要です。
商品名 |
エムガルティⓇ皮下注 |
アジョビⓇ皮下注 |
アイモビーグⓇ皮下注 |
一般名 |
ガルカネズマブ |
フレマネズマブ |
エレヌマブ |
会社名 |
イーライリリー/第一三共 |
大塚製薬 |
アムジェン |
適応症 |
片頭痛発作の発症抑制 |
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用法・ 用量 |
初回に240mg、以降は1ヵ月間隔で120mgを皮下投与する |
4週間に1回225mg、又は12週間に1回675mgを皮下投与する |
70mgを4週間に1回皮下投与する |
分類 |
ヒト化抗体 |
完全ヒト抗体 |
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妊婦 |
有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与(有益性投与) |
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小児 |
小児等を対象とした臨床試験は実施していない[18歳未満使用不可] |
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副作用 |
注射部位疼痛、注射部位反応(紅斑、そう痒感、内出血及び腫脹等) |
注射部位反応(疼痛、硬結、紅斑等) |
注射部位反応(紅斑、そう痒感、疼痛、腫脹等)、便秘、傾眠 |
薬価 |
オートインジェクター44,943円 |
オートインジェクター・シリンジ41,167円 |
ペン41,051円 |
使用に際しては、必ず添付文書をお読み下さい。
予防薬エビデンスサマリ:薬効のgroupが1(有効)の薬
薬剤 |
推奨の強さ |
エビデンスの確実性 |
薬効の |
抗CGRP抗体 エムガルティ アジョビ 抗CGRP受容体抗体薬 アイモビーグ |
強い 強い 強い |
A A A |
1 1 1 |
抗てんかん薬 バルプロ酸 トピラマート* |
強い 強い |
A A |
1 1 |
抗うつ薬 アミトリプチリン** |
強い |
A |
1 |
β遮断薬 プロプラノロール |
強い |
A |
1 |
頭痛の診療ガイドライン2021年を改変 *適応外使用(保険は非適用)
**厚労省医療課長通知により、適応外でも保険適用は認められる
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この記事は…
大学病院で医薬品情報を担当していた薬剤師が、年に4回承認される新薬のなかから話題の新薬をピックアップ。その特徴や作用機序、必ず押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。
一般社団法人日本コミュニティファーマシー協会理事
浜田康次