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人材育成手法-2
2023.02.13
2回にわたってお送りしている企業内人材育成ですが、今回は研修の設計方法、教育効果測定、研修以外の育成手法について解説します。
ところで、みなさんは教育担当者として研修を設計し、講義資料を作成し、従業員の前に立って講師役を務めるという仕事をしていることと思いますが、「2時間しか枠を確保できないから、その時間でできることを考えよう」、「受講者アンケートを取って、感想を得よう」、「とりあえずパワポで資料を作らなきゃ」と、経験則や思い付きで業務をこなしていませんか?
薬物療法に理論や根拠があるのと同じように、教育研修にもそれがあります。理論や根拠がわかれば自信をもって業務にあたることができますし、今まで以上に効果的な教育研修ができると思います。
【目次】
研修の設計方法
インストラクショナルデザインの一つに下図のようなADDIEモデルというのがあります。ビジネス分野でいうところのPDCAサイクルと考え方は似ています。分析(Analysis)から始まり、評価(Evaluation)に至るサイクルを回して、教育研修をデザインします。
- 分析(Analysis)
教育担当者としては、つい設計や開発に目を向けがちですが、最初のステップである「分析」が極めて重要です。
前回お話ししたプランナーとしての役割がこの「分析」といっても過言ではありません。また、前回「問題解決のための人材育成」でご説明しましたが、問題を解決する手段として本当に教育研修が適しているのか?仮に教育研修でその問題を解決するとしたら、どんなことを学べばいいのか?を考えるのがこの「分析」です。
学習者の現状を把握し、問題を解決するためにどんな学習目標を定め、目標と現状のギャップを明らかにし、そのギャップをどんな学習で埋めたらいいかなどを考えます。
- 設計(Design)
分析結果をもとに、教育研修カリキュラムを具体的に描くのが「設計」です。集合研修であれば、対象者、人数、回数・頻度、研修時間、場所、講師選定、そして学習の中身などを考えます。
学習目標に対して有効な研修設計になっているかを(あくまで理論上)確認しながら進めます。
- 開発(Development)
設計に基づいて必要な資源を準備します。まず必要なのは教材です。配布資料やワークシートなど研修当日に必要な教材だけではなく、事前課題や事後課題があればそれも作成します。
他にも会場の手配や設営、外部講師の手配、Eラーニングであればその使い方の説明など、学習者がストレスなく研修を受けられるように入念に準備をします。
準備のタスクや物品のリストを作っておくと抜け漏れを防げますし、教育担当メンバーとも共有できます。
- 実施(Implementation)
のちの評価のためにも実施当日は複数の教育担当者を配置し、研修を観察するといいでしょう。それができなければビデオ録画という手もあります。いずれにしても当日の様子を客観的に評価できるように記録を残すということです。
- 評価(Evaluation)
ここでいう「評価」とは学習者の成績を付けたりすることではありません。実施した研修を評振り返るということです。学習者の目線、教育担当者(同僚)の目線から研修全体を評価します。学習者からフィードバックを得るためには、受講後アンケートでの感想、試験による学習成果、現場の行動変容の観察などから研修を評価します。学習者の評価について別途後述します。
- 改定(Revise)
評価結果をもとにどのフェーズをどう改善するかを検討します。
これら6つのステップをサイクルさせます。まさにPDCAサイクルと同じ考え方ですね。
ADDIEモデルを使うことで、教育担当者の作業ロードマップが明確になるため、何から作業を始めて、次に何をしなければならないかがわかります。担当者間での進捗管理もしやすくなるでしょう。こうした一つの“型”に沿って研修をデザインすることで、作業の属人化も防げます。
教育効果測定
「カークパトリックの4段階評価」をご存知でしょうか?
下表のように教育効果を4つのレベルで評価しようという考えです。
レベル1 |
反応 |
研修に対して満足したか |
受講後の受講者アンケート |
レベル2 |
学習 |
研修で扱った内容を理解したか |
受講後または一定期間後の試験 |
レベル3 |
行動 |
研修で扱った内容を実務において活用できたか |
行動評価、ヒアリング、 |
レベル4 |
業績 |
研修で扱った内容が業績に貢献したのか |
代替指標(例:退職者数、 |
- レベル1:反応(Reaction)
受講者の満足度評価です。具体的には研修直後にアンケートやインタビューを行います。
- レベル2:学習(Learning)
学校教育で行われる、いわゆるテストです。研修内容をどれだけ理解できたかをテストします。知識の定着を見るために、研修後に一定の期間を開けてからテストするのもいいでしょう。
- レベル3:行動(Behavior)
研修で学んだことを実務で実施できたかどうかを測定します。実務での受講者の行動を観察するなどしなければなりませんので、ある程度の測定期間が必要ですし、現場の協力が求められます。
このレベルになると測定が難しくなりますが、人事評価における行動評価を制度として導入している会社であれば、それと紐づけることで測定はできると思います。
- レベル4:業績(Business Results)
研修で学んだことが実務で実施され、その結果会社業績にどういう変化を与えたのかを測定します。最終的には売上や利益へのインパクトを評価し、教育研修の費用対効果を測定したいわけですが、売上や利益は教育研修以外の影響も受けるため、測定は極めて困難です。
そのため現実的には代替指標を用いることになります。リスクマネジメント研修であればヒヤリハットの件数やクレーム件数、営業の研修であれば商談件数や成約率、マネジメント研修であれば残業時間や離職率といった具合に、その教育研修で得られると見込まれる効果を何らかの評価指標を使って測定します。
研修以外の育成手法
最後にOJTやOFF-JT以外の人材育成手法をご紹介したいと思います。企業内で行われる育成手法は、下図のように分類することができます。
研修以外の教育施策として、自己学習の仕組みや制度、さらにその自己学習の金銭的な補助の仕組み、自社の実際の問題解決を通して学習するプロジェクト学習などがあります。
育成施策はさらに幅が広がり、直属の上司以外の先輩社員が面倒を見るメンター制度、意図的に次世代リーダーを育成するサクセッションプラン、今流行りの兼業副業も人材育成と言えます。社内で複数部署を掛け持ちさせたり、ジョブローテーションによって意図的に部署異動させたりするのも人材育成の一環として行うことができます。
このように社内の人材育成には様々な手法があるので、それらを組み合わせて自社に合った人材育成を実現していただきたいと思います。
2回にわたって企業内人材育成についてお話してきました。前回も申し上げた通り医療機関や薬局・ドラッグストアで人材育成に従事する人は、教育学や人材育成の専門家でないことがほとんどです。手探りで実行する中で、なかなか教育効果を実感しにくいこともあると思います。逆に正しいやり方で人材育成を進めることができれば、組織を大きく変えることもできます。
教育担当者が輝き、その結果会社も成長する。そんな好循環が生まれることを期待しています。
著者紹介
1998年東京薬科大学卒、千葉大学博士課程修了(薬学博士) 山梨大学医学部附属病院、クリニック、複数の薬局で勤務。2001年から城西国際大学薬学部の教員として約20年勤務。大手チェーン薬局にて人事・教育・採用部門に従事。2017年に株式会社ツールポックスを設立。経営コンサルティング、キャリア支援、従業員研修などのサービスを展開。北里大学客員准教授兼務。