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クリニックは、キャッシュレス決済を導入すべきか?
2023.04.03
政府は、世界的に遅れている我が国の導入状況を踏まえて、キャッシュレスの推進を進めてきました。そのような状況で、クリニックの外の世界では一気にキャッシュレスの導入が進みました。いまクリニックも、キャッシュレスの現状をしっかり理解し、導入を検討する時期が来ています。
【目次】
キャッシュレスの現状
我が国は「キャッシュレス決済」が世界的に見て遅れているとされています。キャッシュレス推進協議会の「キャッシュレス・ロードマップ2021」によると、2018 年のキャッシュレス決済⽐率の国際⽐較では、⽇本のキャッシュレス決済⽐率は 24.2%であり、中国(94.7%)、韓国(77.3%)、欧⽶諸国(英国57.0%、米国47.0%)と比較して低い水準にあります。世界各国でキャッシュレス決済が進んでいるのに対し、我が国ではあまり進んでいない理由として、政府は以下のように分析しています。
(1) 盗難の少なさや、現金を落としても返ってくると言われる「治安の良さ」
(2) きれいな紙幣と偽札の流通が少なく、「現金に対する高い信頼」
(3) 店舗等の「POS(レジ)の処理が高速かつ正確」であり、店頭での現金取扱いの煩雑さが少ない
(4) ATM の利便性が高く「現金の入手が容易」
(出典)キャッシュレス・ビジョン(平成30年,経済産業省)
なぜキャッシュレスに取組むのか
現在、少子高齢化、それに伴う人口減少。生産労働人口の減少により、生産性向上が叫ばれています。その一環として、キャッシュレス決済が推進されており、無人化、省力化、現金資産の見える化、流動性向上、さらには支払データの利活用による消費の利便性向上、消費の活性化など、様々なメリットが期待されています。
政府は、「日本再興戦略 2016」で 2020 年に予定されていたオリンピック・パラリンピック東京大会(実際の実施は2021年)を視野に入れたキャッシュレス化推進を示してきました。また、2017年 6 月に閣議決定された「未来投資戦略 2017」にて2027 年までにキャッシュレス決済比率を 4 割程度に引き上げることを目標にしています。
具体的な施策としては、2019年10月の消費税引上げに合わせて「キャッシュレスポイント還元事業」が行われました。政府主導で、キャッシュレス決済の利用促進と中小店舗におけるキャッシュレス決済の環境整備を進めてきた結果、同事業の最終的な登録店舗数は約 115 万店にのぼり、中小店舗にもある程度キャッシュレス決済が広がってきたと言えます。
クリニックで普及が遅れている理由
クリニックはこのような流れに対して、少し遅れて対応することを余儀なくされました。クリニックも中小店舗の一つですが、消費税率の引き上げが「診療報酬改定」で調整される仕組みであっため、「キャッシュレスポイント還元事業」の対象から外されていたのです。その結果、社会の変化が先に起こり、それを追随する形でキャッシュレスの普及が進むという構造になっているのです。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響から、クリニックを取り巻く環境は大きく変化しました。政府主導で感染防止のための「3密対策」に補助金が出され、生産性向上を目指した「働き方改革」、そして「デジタル化」の推進が積極的に進められました。その影響から自動精算機・セミセルフレジの導入が進み、それに合わせてキャシュレス決済が進むという状況が生まれたのです。新型コロナは、一気にクリニックの精算業務の在り方を変えようとしているのです。
クリニックのキャッシュレス決済は進むのか
コロナ禍で、クリニックから「キャッシュレス決済を導入すべきか」という相談が劇的に増えているように感じます。医療の外側の世界で、キャッシュレス決済が急激に進み一般化したことで、患者からの要望が増えているためだと思われます。これまでは、「導入費用が高い」「決済手数料が高い」といったコスト面から導入を見送っていたクリニックでも、改めて考える必要が出てきているのでしょう。
キャッシュレス決済の導入のポイントは、「費用対効果」です。導入費用に対して適切なリターンがあるかということですが、わたしは厳しい現在の経営環境を生き抜くためには、必要不可欠なアイテムになりつつあると感じます。長引くコロナ禍で、患者数は着実に減少しています。今後、ワクチン接種が進み、新型コロナが収束に向かっても、しばらくは患者が少ない状況は予測されます。このような厳しい環境下で、「患者から選ばれるクリニック」を目指すためには、「患者の利便性の向上」は真っ先に考える必要があると思われます。
キャッシュレスのメリット・デメリット
患者さんにとっての「キャシュレス」のメリットは、現金を持ち歩かなくてよく、突然の出費に銀行で現金を下ろす手間が不要になります。また、医療機関を受診する際、事前に現金を用意する必要がなくなります。さらには、今日はどれくらいかかるのか、お財布に入っているお金で足りるのか、という不安が解消されることも大きなメリットです。
クリニックにとってのメリットは、患者さんが手持ちの現金がないことによる「未収金のリスク」が回避できます。カードなどが使えれば、自費分野や高額な検査などの利用も進むでしょう。さらには、キャッシュレスは現金を触らなくて良いので、「釣銭の渡し間違い」のトラブルを回避できるのです。キャッシュレスの場合、端末の入力さえ間違えなければ、現金よりもはるかに効率化できます。実際に、キャッシュレスを導入したクリニックは、年々キャッシュレスの割合が高まっていると聞きます。
一方、クリニックにとってキャシュレス導入のハードルとなっていた「導入コストと決済手数料」ですが、現在は、導入時コストもキャンペーンなどを使えば低く抑えることができ、決済手数料についても2%以下のサービスも出てきており、コスト面から導入を見送っていたクリニックにとっては朗報でしょう。ましてや保険請求であれば自己負担分(3割)にかかる手数料ですので、かなり抑えることが可能です。患者サービスの向上として、いま一度検討することをお勧めします。