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セルフメディケーションのDX

2023.05.22

厚生労働省では、今年に入ってから「医薬品の販売制度に関する検討会」が開催されており、4月10日に開催された第3回会合では、遠隔管理によるOTC販売の可能性が議論された。コンビニなどの店舗で医薬品を販売するにあたり、登録販売者も薬剤師も店舗に常駐せずにオンラインで遠隔管理すればよい、という趣旨だ。政府はDXの推進という方針を決定しており、濫用などのイレギュラーな事態への対応が問題として指摘されている。

この議論は、銀行のATMと比較することによって論点が見えやすくなるかもしれない。

銀行は窓口業務を無人ATMに振り替えることで、利用者の利便性を格段に向上させたのだが、一方で新しいタイプの犯罪やトラブルが増加した。それに対して、銀行の支店長が責任を問われることはない。その代わり、振込の一回あたりの上限額が設定されたり、口座開設の認証が厳しくなったり、と利用者が広く薄くコストを負担する形でリスクの軽減策が講じられている。もしかすると、たとえばコンビニで医薬品を販売して犯罪や健康被害が生じた場合の責任の所在についても、医薬業界以外のサービス業の人たちは同様に

(a) 消費者自身が責任を負う

と考えているのかもしれない。しかし、薬剤師は当然として医療関係者は

(b) 管理者である薬剤師が責任を負う

と考える。したがって、議論の当事者たちの間で責任の認識にズレがないかを確認しておいたほうがよいのではないだろうか。

(b)の観点からは、管理薬剤師にとっての責任の範囲を正確に、具体的に評価すること、雇用者はそれを明確にした上で薬剤師の需要と供給を市場原理に任せるのが本来の筋道だろう。それでもカバーしきれないリスクについては、(a) の観点から、たとえばマイナンバーカードと紐づけてOTCの販売を規制するといった風に、消費者に手間を転嫁する形での安全対策が進められることになるだろう。

ところで、ドラッグストアなどでOTCを購入する消費者に対して、店員に相談しなくても推奨品を選んでくれるというウェブサービス「CureBell」がリリースされた。実際に漢方薬で試してみると、メジャーなブランド品だけが掲載されているようだ。消費者にとっては「どのアイテムがリストアップされるか?」と同じくらい「どのアイテムがどのような理由でリストから除外されたのか?」という情報が重要だが、それを知ることは難しい。ここには経済学でいうところの「情報の非対称性」がある。

広告としてOTCを推奨すること自体は、技術的には難しくない。難しいのは、「実際に使った結果、効果があったのか?」というフィードバック情報を収集し、セルフメディケーションの品質に反映することだ。実は筆者自身、システム業界から薬局業界に転職する際にチャレンジしたかったのが、この「医薬品の使用結果をメーカーにフィードバックする」というビジネスモデルだった。結果的に、OTCと保険調剤で2度挫折したのだが(※注)、難しさに見合うだけの意義はあると今でも考えている。たとえば、ある症状に対して薬剤Aを使用し、その後中止したとする。ユーザーはそれがよく効いた結果不要になったから中止したのか、まったく効果がなかったから中止したのか、というデータは、医療以外の業界であれば喉から手が出るほど欲しい情報だ。

DXの議論をするにしても、セルフメディケーションを進めるにしても、議論の土台となる情報を当事者である薬剤師や消費者が正確に収集し、評価できる仕組みを確立すること、その上で自由化するという基本方針を、まずは徹底すべきではないだろうか。

(※注)2度の挫折の理由は、以下のようなものだった:

OTC:効能効果と関係のないユースケースが多く、極端な例では「うがい薬を水虫に使うとよく効く」というようなフィードバックを得ても、うまくデータベースに落とし込むことができなかった。

保険調剤:レセコンの入力時に、前回は処方され今回は処方されなかった医薬品について、どのような理由で処方が中止されたのかを入力し、クラウド上に蓄積するソフトを有志の薬局に配布したのだが、協力を得ることができなかった。

薬事政策研究所 代表 田代健