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訪問看護ステーションへの配置薬の拡大
2023.07.24
内閣府の規制改革推進会議は6月1日に「規制改革推進に関する答申(案)」をとりまとめた。この中で、薬局が24時間対応できない場合に、訪問看護ステーション(以下「訪看ST」)で医薬品を配置し、看護師が使用するという項目が盛り込まれた。
具体的には、
a:医師・看護師・薬剤師の連携の課題の調査
b:地域連携薬局が実際には夜間・休日の調剤に対応していない事例についての実態調査と対応策の検討
c: b の対応が不可能な場合に、「必要に応じて、薬剤師、看護師、患者等に対し具体的な課題を把握するための調査を行った上で、在宅患者に円滑に薬剤を提供する体制の整備に向けて、訪看STに必要な薬剤(最低限の数量に限る。) を配置することも含め必要な対応を検討する」
と、慎重なトーンになっているが、この日の会議の議事録は公開されているので、薬局の関係者にはぜひ目を通して、立場ごとの意識の違いを感じてもらいたい。
この議題は、まず11月7日の第二回会合で俎上に載せられた。日本看護協会が2019年に実施した調査では訪看STの約半数が「必要な薬剤がないことで、症状が悪化した事例の経験がある」と回答していること、与論島において「住民5000人に対して薬剤師が1人しかいないために緊急の対応ができない」といった実態を診療所の経営者が紹介していることなどが印象的だ。
現状では、看護師が薬局にOTCを買いに行き、それを患者に使っている。当然、保険は適用されず、訪看STが負担することもあるらしい。
看護学の井部俊子による「看護のアジェンダ」という本は、週刊医学会新聞の連載コラムを集めたものだが、この中の「薬剤師のいない病院の夜」(2005年12月12日)という回に「日暮とともに消失するチーム医療」という言葉がある。20年近く経った今では状況は変わっていると思うが、地域の連携においてはまだそのような事態は残っているのではないか。いずれにせよこの文章の主旨は「薬剤師の不在時に看護師が調剤を行うことによってヒヤリハットが増加する」という報告であり、看護師の職能を拡大しようという話ではない。あくまでも「薬あるところに薬剤師あり」という目標をどのように実現するかという問題提起であり、緊急時に薬剤師が医薬品を迅速に供給できるのであれば、看護師に負担を強いる必要はなく、目指しているところは同じはずだ。だからこそ、患者の増加に対して(特に地方で)医療人材が不足しているという薬剤師・看護師共通の課題に対して「薬剤師が点滴を交換する」といったタスクシェアも提案されているのだ。
そうであれば、患者のために適切なサービスを提供するにあたって、薬局による医薬品の安定供給を妨げているものは何か?を積極的に探ることがむしろ大切ではないだろうか。会議に出席した日本薬剤師会も日本保険薬局協会も、実地の薬局の連携や営業時間に対してなんの強制力ももっていない。政策を実行するためには調剤報酬上のインセンティブによる誘導に依存してきたわけだが、今回の問題はその制度設計こそが薬局の資源配分のミスマッチの原因となっていることを示している。このインセンティブの設計を見直すことは法改正をしなくても可能だ。
デジタル田園健康特区について、本コラムでも2022年4月の記事で紹介したことがある。その一つの長野県茅野市は、訪看STでの備蓄薬の拡大を提案しているらしい。地元薬剤師会の会長はそれに反対し、「訪問看護師が薬剤を投与して何かあった場合の責任の所在」を明確にすることを求めている(日刊薬業2月15日付)。これは重要なポイントだ。これと裏返しの「調剤業務を独占している薬局が対応できず、訪問看護師が薬剤を使用できないために患者が不利益を被った場合」の責任の所在も同様に考えるべきで、医薬品を供給できない責任は薬局が負うということを明確にすれば、有効なインセンティブになる可能性がある。
薬事政策研究所 代表 田代健