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地域連携薬局と地域支援体制加算
2023.08.21
財務省は7月4日、2022年度の予算執行調査の結果を公表した。全省庁にわたる28項目のうち、17番目が厚生労働省管轄の調剤報酬に該当した。ここでは、
- 調剤基本料1の算定状況
- 地域支援体制加算の算定状況
の2項目について検討された。
調剤報酬に関しては、2019年10月公表分の予算執行調査でもほとんど同一の点が指摘されており、その時には今回の報告の末尾の
・調剤基本料1を算定していることによる要件の大幅緩和措置の更なる見直しを行うとともに、真に地域包括ケアシステムの中で地域医療に貢献する薬局を評価する観点から、例えば、「地域連携薬局」の認定を受けていることを要件とすべきではないか(調査結果を基に機械的に計算した場合、▲1,300億円の医療費削減効果となる)。また、処方せん集中率が高い薬局は原則として対象から除外するなど、算定要件の見直しを行うべきではないか。
という文言が
○地域支援体制加算については、
・調剤基本料1を算定していることによる要件の大幅緩和措置を撤廃するとともに、
・真に地域包括ケアシステムの中で地域医療に貢献する薬局を評価する観点から、在宅患者への積極的な対応も含めた厳格な実績要件を改めて設定する
などの見直しを行うべきではないか。
となっていた。そして翌年の2020年の調剤報酬改定では、調剤基本料1を算定している薬局の地域支援体制加算の算定要件のうち「在宅患者への薬学的管理及び指導の回数」が年1回から年12回へと大幅に増えた。
「地域支援体制加算」は「地域連携薬局」と字面こそ類似しているものの、経緯はまったく異なり、厚生労働省も薬剤師会も一貫して「健康サポート薬局や地域連携薬局を加算と紐づけることはしないし、そもそも管轄する部局が違う」と主張してきた。したがって、今回の財務省の提案には無理があると考えるのがいちおうは常識的ということになるだろう。それでもやはり大方の関心は、「前回と同じように、来年の改定では財務省の提案通り地域支援体制加算の算定要件に地域連携薬局の認定が盛り込まれることになるのだろうか?」という点に向かうのだろう。しかしこのような財務省の土俵にのった考え方にこそ問題がある。
「加算の算定要件というインセンティブによる薬局の誘導」という問題については、本コラムでも2022年9月に「抗原検査キットの薬局での販売」に関して論じた。要点を繰り返すと、健康サポート薬局にしても、地域連携薬局にしても、抗原検査キットにしても、薬局はすでに「加算」という刺激にしか反応しなくなっており、経済的な人参をぶら下げられなければ行動しない。それも当然で、インセンティブによって薬局を誘導することを続けた後で「損得勘定をするな」と言っても通じるわけがない。
財務省の発想は
1.政府が薬局に対して、ある政策的な意図をもってインセンティブ(加算)を設定した
- 薬局は政府の意図通りに行動しなかった
という事態が生じた場合、政策ミスの責任は1.ではなく2.の薬局側にあり、ペナルティは薬局が受ける
ということだ。調剤報酬に限らず、近年の政府はコミュニケーションを通じて合意を形成するという努力を放棄してしまっており、経済的なインセンティブでしか人を動かすことができないという強迫観念に囚われてしまっている。このような政府が、薬局に対してインセンティブを通じて患者とのコミュニケーションを求める、そのインセンティブを薬局側が渇望するという現状に、皮肉を感じざるを得ない。
薬局で現在大きな負担となっているのは、後発医薬品などの安定供給の問題だ。その原因は2008年に始まった後発医薬品調剤体制加算による誘導だ(ちなみに、財務省は2021年の予算執行調査でこの加算の廃止を提案している)。このとき、「後発品は品質や安定供給に懸念がある」といっていた多くの薬局が見事に手のひらを返し、後発品への変更を推奨しはじめた。誘導をした政府も、それにのった薬局業界も、この経緯について何の総括もしていない。このような現状で、地域連携薬局について加算で誘導するというのはあまりにも反省がなさすぎるのではないだろうか。
「薬業時事ニュース解説」
薬事政策研究所 代表 田代健