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リフィル処方箋について

2022.02.14

「リフィル処方箋について」

 

2021年1222日に行われた、2022年度の予算編成に向けた厚生労働大臣と財務大臣との大臣折衝において、「リフィル処方箋の導入」が明記されたという報道はご存知の方が多いだろう。政府はこれによって医療費を0.1%110億円)圧縮できると期待しているらしく、収入の減少に直結する処方医側には当然危機感がみられる。医療従事者向けのあるメーリングリストでは、減収を危惧した開業医の意見に反応した別の医師が「患者のためにも、これを機会に院内処方に戻そう」と呼びかけているのをみたことがある(もちろん、医療側の負担軽減を歓迎する開業医の意見もある)。

 

筆者は「医薬分業」を「処方権と調剤権との分離(A)」ではなく「薬剤師が処方権を失ったこと(B)」と考えている。この違いについて、一例として「患者の利便性」という点に限定して対比してみると、

Aの考え方:「処方箋を書いてもらったあとでわざわざ薬局まで薬をもらいに行く手間が面倒臭い」という患者の感覚と親和性が高い

Bの考え方:「薬は薬局にあるのにわざわざ処方箋を書いてもらうためだけに病院に行く手間が面倒臭い」という感覚と親和性が高い

と、真逆になる。リフィル処方箋はBの考え方と自然に接続するため、「薬剤師による部分的な処方権の回復」と評価したい。医師にとっては直接的な金額ベースの懸念以外に、このような患者・薬局・医療機関の三者の位置関係の変化に対する懸念もあると思われるが、薬剤師側がそのような変化や懸念に無自覚でいるのは危険ではないだろうか?というのが、本稿で筆者が伝えたいメッセージだ。

 

経済学では、政府がある制度を変更した場合に、その変更の効果を測定したいというニーズが高いが、全国一律で変更した場合には対照群を置くことができないため、制度の変更前と後とを慎重に比較することで、比較対照実験として処理する方法をとることがある(2021年のノーベル経済学賞は、この計量経済学の確立に貢献した経済学者たちに授与された)。4月からのリフィル処方箋の効果を可視化し、誰にとってどのようなメリット・デメリットがあったのかを冷静に評価するためには、導入前の今のうちに薬局によるアウトカム指標をデザインし、具体的にどのような方法でデータを蓄積して「制度実施前の対照群」として将来処理するのか、ということを考えて蓄積し始めなければならない。

 

本来であれば、このような戦略をたてるためには「薬剤師は何をしたいのか?」という目標と、「その目標までどの程度到達できたか?」を測る尺度との両方が必要なのだが、これが薬剤師のもっとも苦手とする部分かもしれない。そこで、これはほんの一例だが、必要最低限の第一歩として「患者の離脱率(たとえば「糖尿病患者で最終調剤日から処方日数+60日以上経っている人の割合」)」のようなものを測定して、従来の30日処方とリフィル処方とでどの程度変化するのか?その内訳は、リフィル処方の寄与はどの程度でフォローアップの寄与はどの程度なのか?を測定してはどうだろうか?そして、このような薬局単位のデータを薬局横断的に集計するためには、フォローアップやさまざまな「管理指導」をある程度標準化する仕組みが必要だ。

「薬業時事ニュース解説」

薬事政策研究所 代表 田代健