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「調剤業務の外部委託」について

2022.03.16

「調剤の外部委託」

 

最近の「調剤業務の外部委託」について、議論がうまくかみ合っていない部分があるように見えるため、論点をいくつか整理したい。

 

1.垂直統合と水平分業

外部委託は、中立的な視点で言い換えれば「水平分業」となり、「垂直統合」とセットになる。従来、薬局では卸と薬局との垂直統合が行われてきた。

「破壊的イノベーション」の概念で知られるクレイトン・クリステンセンは、垂直統合と水平分業との選択の難しさについて、次のような寓話を紹介している。

“パソコン組み立てメーカーが、経営的に効率の悪い基盤設計部門を外注した。すると「選択と集中」により財務は改善し、株価も上がった。これに気を良くして他の部門も少しずつ外部委託を繰り返し、経営効率を改善していった結果、自社には何の事業も残らなかった。

そして、事業を外注すべき場合について、次のように整理した。

(1) 製品の品質が顧客の要求水準に達していない場合は、垂直統合せよ

(2) 製品の品質が顧客の要求水準を超えている場合は、中核分野以外をモジュール化して外注せよ

さて、薬局の品質は、患者の要求水準を超えているのだろうか?

 

2.薬局の中核事業とは何か

次に、薬局の品質が患者の要求水準を超えていると仮定して、薬局の中核事業とは何かを確認しなければならない。

「中核事業」と「プロフィット・センター」とは異なる。前者は「医薬品を在庫し、患者に安定して供給すること」だ。後者は対人業務へと強引にシフトしているが、これは「15分間で2000円」の技術料を「1000円に値下げせよ」という圧力に対して「2000円で1時間も薬剤師を使えます」と「お値打ち感」をアピールすることが本質で、中核事業とは関係がない。

もし「処方箋を応需した薬局からオンラインで処方データを送信し、分包の方法を指示すると、翌日に一包化された薬剤が届けられます」というサービスを提供する薬局があり、価格と安全性の問題を何らかの方法でクリアしているとしたら、皆さんはこの薬局に外注するだろうか?

対物業務を外部委託した場合、薬局の中核業務を担いながら生き残るのは受託した薬局のほうであり、フォローアップなどの(場合によっては過剰品質となる)サービスはコールセンター化するか、ウーバー的な業態に収斂していく可能性がある。もし外部委託するのであれば、先のパソコン組み立てメーカーのように、薬局経営者は不要になった在庫や作業とともに何を失うのかを事前に確認するべきだ。

 

3.compounding pharmacy

アメリカには、薬局が医師の処方箋に基づいて医薬品を調剤するcompounding pharmacyという業態があり、処方箋に基づいた薬局製剤を患者向けだけでなく、医療機関にも提供してきた。薬局製剤の伝統は古く、製薬メーカーと異なりGMPのような基準も適用されない。

New England Compounding Centerというcompounding pharmacyが、大量の予製を低コストで病院に届けるという手法で急成長を遂げたが、2012年に注射剤に真菌を混入させ、大規模な死亡事故を起こしてしまった。外部委託の規制がグレーな領域で一企業が利益を追求した結果発生した事件は、我が国の薬局が外部委託を取り入れた場合に起こりうることの参考になるはずだ。

 

4.最後に

 大半の企業活動においては外部委託を一律に禁止するという発想そのものがなく、それぞれの経営者が個別に外部委託の妥当性を評価する。今回の議論についても、外部委託を一部の業務について認めたからといって薬局経営者がそれをしなければならないわけではなく、自らの責任において個別に契約の可否を判断すればよいだけだというのが、経済界の前提だろう。「議論をしている人」と「議論をされている人」との間で主張がかみ合わない理由は、この前提の捉え方にあるのではないだろうか。このズレを明確にした上で、「議論される側」である薬局薬剤師自身が、自らがコントロールできる影響の範囲とできない影響の範囲とを冷静に議論することが大切だ。

「薬業時事ニュース解説」

薬事政策研究所 代表 田代健