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デジタル田園健康特区について
2022.04.06
「デジタル田園健康特区について」
1.デジタル田園健康特区とは
内閣府の国家戦略特区諮問会議は、3月10日の第53回会合において長野県茅野市、石川県加賀市、岡山県吉備中央町の3市を「デジタル田園健康特区」(仮称)として指定した。
3市が提案した事業は、それぞれ
・吉備中央町:救急救命士へのタスクシフト、乳幼児への予防医療と混合診療
・茅野市:在宅看護師へのタスクシフト、タクシーの貨客混載を利用した医薬品配送
・加賀市:医療版情報銀行、マイナンバーで紐づけられた交通弱者へのサポート
となっている。
この中で薬局という視点からは、茅野市のタクシーによる医薬品配送が目に止まる。茅野市は、タクシーの貨客混載制度が過疎地に限定して許可されている点に着目し、過疎地ではない同市での医薬品配送という規制改革にチャレンジすることを目指す。
政府の動向をチェックしている人の中には、「なぜデジタル田園都市国家構想実現会議」ではなく国家戦略特区諮問会議が指定したのか?」と混乱する人がいるかもしれない。
岸田内閣では、2030年ごろを見据えて地方をデジタル化するという「デジタル田園都市構想」を立ち上げ、既存の国家戦略特区制度を規制改革の対象となる自治体に適用することにした。この国家戦略特区には「広域特区」「革新的事業連携型国家戦略特区(バーチャル特区)」「スーパーシティ」の3つのタイプがある。この中で、高齢化や過疎化などの課題解決を志向した自治体をバーチャル特区として指定し、「デジタル田園健康特区」と名付けた。
バーチャル特区とは、地理的に離れた自治体をネットワーク化することで仮想的に単一の自治体であるかのようにみなすという制度であることから、デジタル田園健康特区については、自治体間の施策やデータの連携を推進することがポイントとなる。タクシーの貨客混載で具体的にどのようなデータが収集されるのか、注目したい。
2.デジタル人材の必要性
デジタル化の実現の課題としては、「デジタル人材の育成」も挙げられている。今回の特区にしても、薬局関係者が提案した可能性は低そうだが、薬局が関わるような政策に関してどのような規制改革が望ましいかを議論できる人材を薬局業界で育てることが必要だ。
たとえば、茅野市では医療情報を病院間でAPI連携によって共有するという提言があるが、API連携は「データを1カ所だけにおき、重複させない」という思想に基づいている。
これと対局に位置するのは、紙のお薬手帳だ。こちらは災害時に医療機関などの診療データにアクセスできなくなることを想定し、あえて冗長性を高めるという思想に基づいている。
どちらが正しいということではなく、患者の薬剤に関するデータ連携について、どのような事態を想定してアーキテクチャーを構築するべきかといった問題を、テクニカルに議論することのできる人材が「デジタル人材」だ。
アメリカのとある大富豪が、自分の子供たちに「ここに100億円あるから、それを使って世界を少しでもよくしてくれ」と言われた時に、自分なら何をするか?を答えられるようになれと教えていた。この質問は本質を突いている。
薬局の従事者として、もし目の前に予算が無制限にあるとしたら、患者のためにやりたいことは何か?という問いを自分自身に投げてみることをおすすめしたい。
もし答えが見つかれば、その後で何が難しいのかを考えればよい。法制度上の規制がボトルネックになるということがわかれば、今回のような「特区」を活用することができるかもしれないし、デジタル化によって実現可能であれば、自治体を通じて提案することができるかもしれない。そのような場面では、身近にデジタル人材がいるかいないかで大きく将来が変わるはずだ。
「薬業時事ニュース解説」
薬事政策研究所 代表 田代健