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薬局におけるコロナ検査再論

2022.09.28

このコラムの2月分において(過去コラムへ)、新型コロナ抗原検査キットについて所見を述べた。その際に
1. 薬物治療というものを、原料から患者の体内までのサプライチェーンとして捉えた場合に、薬局薬剤師はその一端をどのように担うべきなのか?
2. 在庫が限られた医薬品を「マンツーマン」や「面分業」の区別なく全ての薬局が在庫することは望ましいのだろうか?地域全体での薬局の機能分担を検討してもよいのではないか?
と2つの疑問を記した。
8月の第7波以降の抗原検査キットの提供体制の動向を踏まえて、一度振り返っておきたい。

1. 抗原検査キットのサプライチェーンと薬局薬剤師

現時点では、抗原検査キットの提供体制はネット通販も可能な第一類医薬品として販売され、一方では薬局や公共施設で無料配布されるという混沌とした状況が出現したが、その原因はサプライチェーンのマネジメントにおいて
(1) 「発熱外来の負担軽減」を目的とした無償配布(「大きな政府」指向)
(2)「規制緩和」を目的としたOTC化(「小さな政府」指向)
という2つの思想が錯綜している点にある。
発熱外来の受診者数は増減を繰り返し、第7波が落ち着けば、当面は抗原検査キットの需要が減るだろう。一方、規制緩和への圧力は、長期にわたって持続する。
この2つの相反する思想の間で薬局が業界全体としてバランスを取り続けることは難しいだろう。

今回、自治体によって無償配布の方法はわかれたため、抗原検査キットの配布について
(i) 薬局で無償配布を行った自治体
(ii) 薬局で無償配布を行わなかった自治体
のグループについて、それぞれ7月以前、8月以降の発熱外来の状況を比較することが可能となった。
このように、実際の政策についてコントロール群が存在するという稀な機会を活かし、薬局の介入によって地域の医療にどのような差が出たのかを調査し、今後の供給体制にフィードバックすれば、薬局の機能を実証的に評価することができるかもしれない。

2. 薬局の機能分担

コロナ治療薬の供給体制については、筆者の地元の薬局のリストを眺めた限りでは、24時間対応が可能な薬局とそれ以外の薬局との機能分担がある程度実現しているように見える。
一方、抗原検査キットの薬局での販売の実態については、連携強化加算の算定薬局との乖離について厚労省は問題視しているようだが、むしろ政府が算定要件で薬局を誘導しようとする仕組みそのものに無理がある。
点数で誘導するという方法は、親が子供を育てる過程で「国語で100点とったらお小遣いをあげる」「算数で100点とったらお小遣いをあげる」というようなことばかりを繰り返し、子供も「お小遣いをたくさんもらうことこそが勉強することの意義だ」と勘違いするような関係が出来上がってしまったようなケースと似ている。ある日その親子が電車に乗った時に、子供がお年寄りに席を譲らないからといって親が叱るのは筋違いというものだろう。そういう育て方をしてこなかったというだけの話なのだ。
しかし一方で、子供は子供同士や親以外の大人から様々なことを学び、分別を身につけて成長する。薬局という業界でそれができているのかどうかは、また別の問題だ。

8月19日の社会保障審議会医療保険部会における感染症改正の議論に際して、医政局が作成した資料で薬局が言及されていなかったと薬剤師の委員が抗議したことが議事録に残されているが、政府と薬局がお互いに失望しあうという状況は不毛としかいいようがない。今回のような機会に、薬局は業界としてまずどのようなデータを集めることができるのか、それによって何を主張できるのか、どのように地域医療に位置付けられることを要求できるのか、その結果として行政に対してどれだけの予算配分を求めることができるのか、という議論を積み上げるべきだ。

「薬業時事ニュース解説」
薬事政策研究所 代表 田代健