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オンライン診療・オンライン薬局(後編)

2022.11.24

政府が進めるオンライン診療・オンライン薬局に係る規制緩和は、アマゾンなど他業種・新興勢力にとっては追い風となる一方で、既存のクリニック・薬局にとっては、新しい仕組みへの対応が求められ、業界再編をもたらす可能性さえあるのです。

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規制緩和は他業種・新興勢力の参入を進める

政府は、2021年の薬機法の改正、2022年度の診療・調剤報酬改定、2023年の電子処方箋開始により、オンライン診療、オンライン薬局の普及に向けての環境整備を着々と進めています。この流れは、アマゾンをはじめ他業種からの参入を加速させ、新興勢力にとっては追い風になることが予想されます。

一方で、他業種・新興勢力に対抗するために、既存のクリニック・薬局にとっては、オンラインへの対応を早急に進める必要性が生じることになります。システム・ネットワークなどの設備投資を進めるとともに、効率的な店舗運営を目指して、MAなど店舗の統廃合が進むことも考えられます。いま、クリニックも薬局も新しい仕組みへの対応が迫られているのです。

 

アマゾンのヘルスケア分野の動向

アマゾンのヘルスケア分野の動きは、近年とても活発となっています。近年の動きを時系列に追うと以下の通りとなります。

 

図 アマゾンのヘルスケア分野の動向

20186

米国のオンライン薬局「ピルパック」の買収を発表

20199

米国でオンライン診療サービス「アマゾン・ケア」を立ち上げ

20202

「アマゾン・ケア」サービス開始

202011

米国でオンライン薬局「アマゾン・ファーマシー」を立ち上げ

20227

米国でサブスクリプション型の診療サービスを手がける「ワン・メディカル」の買収を発表

20228

「アマゾン・ケア」の2022年末のサービス提供終了を発表

 このように、アマゾンは米国全土で、オンラインでの医療相談、診療、薬局(処方配送)までも手掛けようと着々と準備を進めていることがわかります。今後はアマゾン・ケアとアマゾン・ファーマシーのサービスを一本化し、トータルサービスとしての提供を目指す方向です。

 このアマゾンの動きは、クリニックよりも薬局に先に影響をもたらしそうです。アマゾンが始める「オンライン薬局」が、従来の調剤薬局にとって大きな転換期をもたらそうとしています。

 

日本最大のEコマース企業「アマゾン」

アマゾンが我が国に上陸した2000年ごろ、アマゾンは日本の規制や特殊な商習慣、交通網の充足、国土面積などの条件から、日本では普及、定着しないのではないか、と否定的な意見も存在しました。

それから20年が経った今はどうでしょうか。ご存じのように、わが国のEコマースの最大企業としてアマゾンは定着しています。アマゾンが取り扱う商材は、書籍からファッション、家電、食品まで範囲を広げています。アマゾンのネットショップに行けば、ほとんどのものが揃い、ワンクリックで商品が購入でき、翌日には商品が手元に届くという利便性を多くの国民が享受しているのです。

 

「アマゾン」の有利性

アマゾンの有利性は「全国の配送網」とともに、「決済の簡単さ」そして「会員数」にあります。さらに、日本最大のEコマース企業としての「認知度」も大きな強みと言えます。国民誰もが「アマゾンはすぐに、商品を届けてくれることを知っている」のです。この過去に蓄積された経験こそが、アマゾンの強みではないでしょうか。

また、コロナ禍で急速に普及した「キャッシュレス」の流れに対しても、会員数が多いアマゾンにとっては、大きなアドバンテージと言えるでしょう。

 

「アマゾン」参入の影響

忘れてはならないのが、アマゾンは「プラットフォーマー」であり、小売業ではないということです。アマゾンは、多数の調剤薬局にプラットフォームを提供することにより、結果としてオンライン薬局を開始できるのです。アマゾンは既存の枠組みを生かし、調剤薬局のシステム整備(オンライン服薬指導・決済システムなど)や配送網をサポートできるのです。

この20年間で、日本の商習慣を十分に理解したアマゾンは、その土地にあったやり方をしっかり考えて実行してくることでしょう。既存の医療界の枠組みを維持しながら、参入・拡大を行うことが可能なのです。

また、我々のスマホにはアマゾンのアプリが入っており、そのアプリがマイナポータルと連携を始めることで、将来的には電子お薬手帳の役割を担うかもしれません。アマゾンのアプリで薬を一元管理する時代は、それほど遠い未来ではないかもしれません。

アマゾンのオンライン薬局によって、調剤薬局は2つの選択肢を検討する必要が生まれる可能性があります。それは、「アマゾンに対抗し独自路線でシステムを構築するか」、「アマゾンのプラットフォームを借りるか」の選択を迫られることになるかもしれません。

電子処方箋、まとめました。