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介護事業のDX化の最新状況

2023.02.20

【目次】

  1. 生産性の向上・DX化は今後の介護保険の重点ポイント
  2. DX化の目的を明確にする
  3. まずは現状を把握することが大切


生産性の向上・DX化は今後の介護保険の重点ポイント

現在、介護業界における人材不足はとても大きな課題となっています。厚生労働省の発表している「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、令和5年度時点で既に22万人の人材が不足し、更に2年後の令和7年にはその不足が32万人へと拡大すると予測しています[]

こういった課題に向けて、国では①介護職員の処遇改善、②多様な人材の確保・育成、③離職防止・定着促進・生産性向上、④介護職の魅力向上、⑤外国人材の受入環境整備など総合的な介護人材確保対策に取り組んでいます。

 

「介護保険制度の見直しに関する意見(参考資料)」[]

 

その中でも特に「③離職防止・定着促進・生産性向上」については「介護ロボット・ICT等テクノロジーの活用促進」「生産性向上ガイドラインの普及」等、介護現場におけるテクノロジーの活用や業務の見直し等を通じた生産性向上の実現を目指しています。実際にこれまでも、例えば令和3年度介護報酬改定において「見守り機器等を導入した場合の夜間における人員配置基準の緩和」が設定され、他にも、地域医療介護総合確保基金を原資とした介護ロボット・ICTの導入支援等がおこなわれてきました。

その流れを汲むように昨年1220日に公表された「介護保険制度の見直しに関する意見」の中でも「Ⅱ 介護現場の生産性向上の推進、制度の持続可能性の確保」の章において「地域における生産性向上の推進体制の整備」「施設や在宅におけるテクノロジーの活用」といったテーマに言及されています []。その中では「都道府県主導の下、生産性向上に資する様々な支援・施策を一括して網羅的に取り扱い、適切な支援」をおこなうことや「テクノロジーを活用した先進的な取組を行う介護付き有料老人ホーム等の人員配置基準を柔軟に取り扱うことの可否を含め、検討する」こととしています。つまり、支援の拡充や、介護報酬上のインセンティブの設定が、今後も継続することと捉えて良いでしょう。

介護現場における介護ロボット・ICTの導入は、今後更に促進されるでしょう。デジタルを用いて業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し競争上の優位性を確率した状態をDX(デジタルトランスフォーメーション)と呼びます。介護ロボット・ICTの導入はまさに、介護業界でのDX化の一例と言えるのではないでしょうか。今回は、その介護現場のDX化について解説していきたいと思います。

 

DX化の目的を明確にする

介護現場におけるDX化を進めるためにまず大切になるのが現場の理解を得ることです。これまでのやり方を変えることや、ICT・ロボット技術そのものに対して苦手意識を持っている介護職の方も少なくありません。そういった方々の理解を促すためには、その目的を明確にし、きちんと説明をおこなうことが重要です。

説明の内容としては、先述の様な人材が不足していくというマクロ視点も重要なのですが、現場に寄り添ったよりミクロな視点も大切となります。具体的にいえば、ご利用者に提供する介護の内容と、職員が感じる業務負担についてです。

介護報酬改定は、生産性の向上を促す一方で「科学的介護の推進」に代表される様な、より質の高い介護の提供を要求してきています。近年の、加算の基本報酬への内包化やアウトカム評価の導入等からもその影響を感じることができます。こういった新しい取り組みは、介護の質を向上させるという面で利用者にとってプラスに働くため、取り組みの推進という点で職員の理解を得やすい一方で、職員の抱える業務負荷は増大することになります。

そういった業務負荷を抑え、介護の質の向上を図るということが、現場と共有すべきDX化の目的となります。その考え方について「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」では下図の様に示されています[]

 

「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」 []

 

介護現場における生産性の向上は、図の左側の「①質の向上」にあるように、ケアに直接関係しない業務時間や内容を相対的に削減することで、ケアに直接関係する業務時間や内容を増やすという考え方です。そこで生じた時間を、「科学的介護の推進」等、より質の高い介護を実現するための時間に充てるということになります。

まず、取り組みを進める段階で、何を実現したいのかを明確にすることが大切です。

「利用者のADL・栄養状態・口腔機能・認知機能を定期的に記録することにした。しかし、それをケアに活かすための相談の場を設けることができない」。「専門職が情報を共有し、協働で介入の計画を立てることができるようになった。しかし、通常の勤務時間は介入が主となるので、計画書の作成は時間外におこなうことが常態化している」。

例えば、この様な課題があるならば、より高いケアを検討するための時間を設けることや、現在のケアの質を維持しつつ残業という業務負荷を軽減することを目的として設定できます。現場にとって明確なプラスが提示されるので、職員の理解を得ることも充分可能になるでしょう。

ケアの質を高めること、業務負荷を軽減することが、現場目線でのDX化推進の大きな目的ということができます。実際に、自事業所ではどんなことを実現したいか、より具体的なイメージを持つことが第一歩となります。

 

まずは現状を把握することが大切

目的を職員と共有できた後に、次に必要なのは現状を正しく把握することになります。職員側も、日々の業務の中でいろいろと感じているところもあるので「記録の作成に時間がかかり過ぎている」等の問題意識を持たれているケースは多いです。

その感覚は大体合っていることが多いのですが、より正確に、業務全体の流れを一度見直してみることをお勧めします。これは、自覚のある課題以外にも意外な課題を見つけることに効果があったり、実際にDX化を進めた結果、狙い通りに課題が改善の方向性に向かっているかの効果測定をおこなうときに必要となります。

具体的には、数日間、実際の職員オペレーションを記録していきます。これは、下記の様な1日を10分刻みで記録していくことができる帳票を準備し職員へ配布、その数日間の実施業務を時系列で記録していくというものです。これを、同一の日に勤務した職員全員分を取りまとめることで、事業所でおこなわれている業務の流れ全体を見える化することができるようになります。

 

「オペレーションの可視化の帳票イメージ」(スターパートナーズ社作成)

 

この作業をおこなうことで、実際の事業所の流れが目に見えるようになります。こういった基礎資料を基に議論を開始することで「記録に時間がかかっているとは思っていたが予想以上だった」「一部の利用者の介護では2人介助となることで、想像していたよりも他業務を圧迫していた」等、現状を正しく把握することで、課題を適切に抽出することが可能となります。

例えば、下記を参考に、現在の課題に応じた機器の導入を検討することが可能です。

 

DX化を進める際の課題と方法例」(スターパートナーズ社作成)

 

また、具体的な例を調べる方法として、先ほどの「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」や「介護ロボットのパッケージ導入モデル」等の事例集を参照することも有効です[]。例えば、「介護ロボットのパッケージ導入モデル」には介護ロボットのパッケージ導入モデル」の中では、非装着型の移動支援介護ロボットを導入することで、2人でおこなっていた移乗介助を1人介助に変更することで業務時間を短縮するとともに、職員の感じるストレスを軽減したという事例も紹介されています。

 

今回は、DX化に着手するまでの基本的な考え方について解説しました。次回は、実際に進めるための具体的手順についてより詳細に解説していきます。

株式会社スターパートナーズ代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表

MPH(公衆衛生学修士)

齋藤直路


[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000207323_00005.html

[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001027168.pdf

[ⅲ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001027165.pdf

[ⅳ] https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei.html

[ⅴ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000928398.pdf