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令和4年4月13日開催「財政制度等審議会財政制度分科会」について

2022.05.26

令和4413日開催「財政制度等審議会財政制度分科会」について

株式会社スターパートナーズ代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表

MPH(公衆衛生学修士)

齋藤直路



  • 介護保険の方向性を占う議論


4月13日に財務省にて「財政制度等審議会財政制度分科会」が開催されました[]。介護保険関係の議論については、主に厚生労働省の「社会保障審議会介護給付費分科会」をイメージされる方は多いかと思います。

しかし実際には、財務省や内閣府等、他の官公庁でも介護保険に関する議論がおこなわれています。財政や政策の観点から大きな方向性をこれら他の官公庁で議論をおこない、それを実際の介護保険制度上でどの様に反映するかを、厚生労働省で議論するという、大枠の構造になっています。

「財政制度等審議会財政制度分科会」は、国の予算、決算及び会計の制度に関する事項を調査・審議する機関で、「社会保障」の予算、決算等についても議論されます。こと介護保険制度については、今後、要介護認定者数が増え、予算の増大が見込まれる分野となりますので、財源の確保や支出の削減等、どちらかというと緊縮の方向性にやや傾いています。

介護保険サービスを提供する側としては、やや厳しい議論の内容とはなりますが、制度ビジネスである以上、今後、どの様な制度改定が起こる可能性があり、それに備えて、どんな準備をしておけばよいかを考えることは、どうしても必要となります。

今回は、実際にどの様な議論がこの「財政制度等審議会財政制度分科会」でおこなわれているかを解説させていただきます。



  • 「介護現場の効率化」と「処遇改善」


「財政制度等審議会財政制度分科会」資料では、まず「介護サービス提供体制の効率性の向上の必要性」について言及しています。

「介護需要の増加に応じて、介護人材の必要数も増大するが、現役世代(担い手)が急減する我が国において、介護現場の効率性の向上を図ることなく介護人材を確保していく選択肢は考えにくい。」「典型的な労働集約型産業である介護保険事業においては、人件費のウェイトが高いため、介護給付費の動向も効率的な人員配置を実現できるかにかかっており、このことが限られた財源のもとで介護の現場で働く方々の処遇改善を実現するうえでも不可欠である。」とされており、「介護現場の効率化」や「処遇改善」といったキーワードが登場しています。

直近の流れの中でも、「介護現場の効率化」については令和3年度介護報酬改定で「見守り機器を導入した場合の夜間における人員配置の緩和」が、「処遇改善」については今年の4月からはじまった「介護職員処遇改善支援補助金」が、それぞれ最近の制度にも反映されていることがわかります。介護サービスの生産性向上については、本分科会でも従来から議論されていたものであり、それが今回も言及されていることは、引き続きこの流れが継続していくことを意味しています。このことから、DX化・ICT分野への投資は今後も追い風が続くことや、処遇改善については取得の有無によって賃金格差がさらに広がることが考えられます。これらの分野への対応が求められるということができるでしょう。

また、効率化の面では「①ロボット・AI・ICT等の実用化の推進、②タスクシフティング、シニア人材の活用推進、③文書量削減など組織マネジメント改革などの業務効率化を進めていく必要がある。」と言及されています。これらについても、今後推進の流れが進んでいくと、方向性を抑えておくことが重要でしょう。

「業務の効率化と経営の大規模化・協働化」についても言及されています。これも、引き続き議論されている内容ではありますが、今回は特に「効率的な運営を行っている事業所等をメルクマールとして介護報酬を定めていくことも検討していくべき」と言及されており、「社会福祉法人1法人当たりの事業所数と平均収支差率の関係」について、事業所数の増加にともなって平均収支差率が向上することに言及、さらには、一定事業所数を超えたときにやや収支差率が減少することについて「報酬改定にあたって勘案」と示しています。

 

「財政制度等審議会財政制度分科会」資料[]

 

このことから、今後は法人の大規模化について(特に社会福祉法人は)評価される報酬体系が構築される可能性があるということが想定されます。



  • 「利用者負担の見直し」について


効率化の議論に続いて、本分科会でも長年議論されてきているのが、財源となる保険料、利用者負担の見直しについてです。

従来は1割負担であった介護保険の利用者負担ですが、それが所得等に応じて、段階的に引き上げられてきたのはご存じの通りです。今回の会議では更に「利用者負担の更なる見直しをはじめとした介護保険給付範囲に引き続き取り組むことも必要」とし「①介護保険サービスの利用者負担を原則2割とすることや2割負担の対象範囲の拡大を図ること」「②現役世代との均衡観点から 現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直すこと」を検討するべきであるとしています。

また、「ケアマネジメントの利用者負担の導入等」については「第9期介護保険事業計画期間から、ケアマネジメントに利用者負担を導入すべきである。」「福祉用具の貸与のみを行うケースについては報酬の引下げを行うなどサービスの内容に応じた報酬体系とすることも、あわせて令和6年度(2024 年度)報酬改定において実現すべきである。」としています。

 

「財政制度等審議会財政制度分科会」資料[]

 

利用者負担の増加やケアマネジメントへの利用者負担の導入は、かねてより議論されていて、導入されたものやそれに至らなかったことも多くあります。しかし、継続的に提案されていることから、今後も段階的には、制度の調整がおこなわれていくことが想定されます。

ケアマネジメントへの自己負担の導入は、介護現場からの根強い反発もあり、実現の可能性はまだ少し低いかと考えますが、利用者負担割合の増加や、福祉用具貸与のみのケアプランに対する制限は、次期改定に影響を及ぼす可能性は高いかと考えます。

また、「区分支給限度額のあり方の見直し」については「様々な政策上の配慮を理由に、区分支給限度額対象外位置付けられている加算が増加している」「第9期介護保険事業計画間に向けて加算の区分限度額を見直すべき」としています。利用負担増やこれまで区分限度額対象外とされていた加算の反映により、利用可能なサービスに制限が生じてくる可能性もあります。

これらに対する対策を、現時点から検討しておく必要があるでしょう。



  • 「軽度者へのサービスの地域支援事業への移行等」について


「軽度者へのサービスの地域支援事業への移行等」も、引き続いて議論されているテーマです。要支援者に対する訪問介護、通所介護が総合事業へと移行したのも、この議論の流れから生じた変更になります。

いま、議論されているのは「要介護1・2への訪問・通所介護についても地域支援事業への移行を検討」することであり、つまりはこれらのサービスの総合事業への移行です。こと要介護1・2の利用者に対する訪問介護については「生活援助が多い」ことについても言及されており、これら軽度者向けサービスについて「全国一律の基準ではなく地域実情に合わせた多様な人材・多資源を活用したサービス提供可能にすべき」としています。

かねてより議論されつつ、なかなか実現はしないが、それでも段階的には進んできているというのがこの議論の流れです。次回改定ですぐに反映される可能性は高くはありませんが、それでも将来的にはこの形に移行していくことは避けられないのではないかと考えます。

その場合、訪問介護については、生活援助単体のサービスがより縮小されるのではないかと考えられます。そうなったとき、例えば配食事業等、生活援助を代替するための周辺の自費サービスが今後、注目される可能性が高いのではないかと考えています。また、自立支援促進の流れから、「自立生活支援のための見守り的援助」については、より慎重な議論が進められるのではないかと考えます。

通所介護については、要支援の総合事業への移行で「通所型サービスA(緩和した基準によるサービス)」「通所型サービスB(住民主体によるサービス)」「通所型サービスC(短期集中予防サービス)」に区分が分けられました。要介護1・2を対象としたものがこれと同等の形になるとは考えにくいですが、自立支援の促進については重要視されることと、レスパイトケアがどの程度取り入れられるかは不明瞭です。これらについては、議論を継続して見ていくことが重要となるでしょう。

 

以上の様に、次回改定はまだ2年後ではありますが、現段階でも改定の方向性に関する議論がはじまっていることがわかります。これらの情報に早期に触れて、それが実現した場合にどの様な対応を取るべきか、それをあらかじめ検討しておくことはとても重要になります。

是非、一次資料にも一度アクセスし、どの様な変化が今後起きる可能性があるのか、ご自身でも検討いただく機会としていただければと思います。

 

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[ⅰ] https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20220411.html