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選ばれる高齢者施設になるには①

2021.10.27

選ばれる高齢者施設になるには①

株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤直路

  • 高齢者施設は選ばれる時代へ

2011年に「高齢者の住まい法」が改正され、サービス付き高齢者向け住宅が制度化されて以降、介護が必要な方が入所するための高齢者向けの施設は全国的に整備が進みました。形態についても、24時間介護付きの高級型の有料老人ホーム以外にも、超低価格帯のサービス付き高齢者向け住宅も登場しました。結果、入居できる介護施設を探している要介護者の方にとっても選択肢が増え、介護施設は入居者を「選ぶ」のではなく「選ばれる」施設となることが求められるようになりました。

 

それは、一時期多くの待機者を抱えていた特別養護老人ホームでも例外ではありません。厚生労働省の「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」を参照しても、平成28年度調査と比較して平成31年度調査において、特別養護老人ホームの入所申込者は減少しています[ⅰ]。

「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」[ⅰ]

また、都市部を除く地域によっては待機者が減り、空床まで出ている施設も存在しています。もはや、介護施設全体が「選ばれる」施設にならなければいけなくなっています。

入居者様に選んでいただけるようになるにはどうすれば良いか、そのポイントについて解説していきます。

  • 基本の対応から考える

1つ目のチェックポイントは、「職員の態度」についてです。見学者やそのご家族は、職員の態度をよく観察しています。入居者様が施設を決めるときに、まずは見学や体験入居をされます。例えば、見学に訪れてエントランスで5分経っても気づく職員がいない、気づいているのに知らんぷり……という状況になっている場合も実際にあります。人手不足などで今いる入居者様の対応で精一杯な施設もあるかもしれません。しかし、このような施設では、入居者様が外へ出てしまってもわからず、事故につながってしまうリスクもあります。また、人手不足でケアが行き届かない施設では、入口を施錠する、暗証番号を押さないとエレベータが動かないなど、広義の拘束に力を入れざるを得なくなってきます(別の理由からそのようにしている場合もあります)。

こうした施設では、残念ながら「安心して暮らすことができない」と感じてしまいます。そういった不安を与えないためにも、職員の接遇・マナーの教育はとても重要です。来客者や電話対応等、施設外の方に対して適切な対応ができているか、しっかりとチェックをしましょう。

また、職員への教育が行き届いているか、一目で見分けられてしまうポイントがあります。それは職員の“身だしなみ”です。ズボンからシャツが出ていたり、靴のかかとを踏んでいたり、女性職員が華美なネイルなどをしていると、基本的な身だしなみすら注意できない、マナーの悪い施設という印象を与えてしまいますそうした施設では、雑な対応をされてしまうのではないかと不安が募るばかりです。

表情もとても大切です。常に笑顔を心掛け、職員同士、あるいは見学者に対して挨拶やコミュニケーションがとれているかもポイントになるでしょう。

ほかにも、食堂の雰囲気も重要です。入居者様がいちばん楽しみにしているのは食事の時間です。食堂内の雰囲気が明るく、笑顔や会話に溢れていれば、施設の温かい雰囲気が自然と伝わります。

反対に、食堂に活気がなく、暗い雰囲気だとしたら、見学にいらした方はどの様に感じるでしょうか。食事の介助も、入居者のペースに合わせた丁寧なものではなく淡々と進められる、どこか急かすように介助をしている、そんな場面があったとしたら、施設の印象も冷たいものとなってしまいます。

介護は、人によって直接おこなわれるサービスだからこそ、それを提供する人や環境の印象がそのまま信頼につながります。どれだけ専門的なケアをおこなっていたとしても、こういった日ごろの対応をおろそかにしていては、安心してお願いできる施設だ、とは思っていただけません。まずは、目に届く基本的な部分から、見直していただければと思います。

 

  • 入居の決め手にもなり得る食事メニュー

2つ目のチェックポイントは「食事のメニュー」です。食事は日々の健康を維持するために大切な項目であると共に、入居者様がもっとも楽しみにしている項目の一つでもあります。入居者様の健康に配慮し、栄養バランスの整った献立が考えられていることは必要ですが、それだけでは充分ではないのです。

最近の高齢者の方々は以前とは違った趣向性があります。なぜなら、最近の高齢者の方々は、日本経済が潤っている時期に中年期を過ごしているため、旅行や食事などの体験も豊富にされています。つまり、舌が肥えているのです。

日々豪華な食材を使うことはできませんが、季節によってメニューを変える、盛り付けに工夫を施すなど、ちょっとした一工夫をおこなうことで、サービスへのこだわりや心遣いを示すことはできます。また、洋食派、和食派などの好みもあります。入居者様の嗜好に対応できるよう、決まった曜日にはメニューを選択できるようにするなどの工夫をおこなえば、それは施設のこだわりとなり、十分な強みとしてアピールすることができるでしょう。こういった工夫をおこなうことで、「食事」という大切な生活習慣において、はっきりとした差別化を図ることができます。

また、元気なうちは通常の食事でも問題ありませんが、高齢になってくると噛む力や嚥下の力も弱まってきます。刻み食やミキサー食(ペースト食)といった調理法にも対応できる体制になっているかも重要です。さらに、食材アレルギーなど、多様な要望に応えられるようになっているでしょうか。日々、栄養がバランスよく採れ、同じような献立が続くことなく、入居者様に楽しみにしてもらえるようなメニューになっているか、しっかりチェックし、必要であれば改善していくことが大切になります。

  • 施設長の存在は、施設選びの鍵

3つ目のチェックポイントは、施設のトップである「施設長」です。介護施設における施設長とは、いわばキーマンです。見学者やそのご家族にとっては、施設長がどのような人であるかも、施設選びの鍵になります。

介護施設は施設長の能力や、やる気によって運営が介護サービスの質が左右されてしまいます。社会福祉法人か株式会社といった運営母体の違いなども大切ですが、同じ会社が運営している施設でも、施設長の存在によってサービス面で差が出ることがあります。

施設長の存在が、施設サービスにとってプラスに働くためには、まず施設長が介護に対してどのような理念を持っているかが大切です。一般的に介護という仕事は、多額のお金を稼ぎたいと考えている方にはあまり向かない仕事と言えます。管理者として、入居者様にとって最適なサービスの提供を主導していくためには「人の役に立ちたい」あるいは、「悩んでいる人を救いたい」という動機が欠かせないのではないでしょうか。自分の施設が何を目標としているのか、施設長が明確に語れ、施設全体にその理念がきちんと浸透していることが大切です。

また、働いている職員を育てようという教育意欲を施設長が持っているかどうかもポイントになります。人件費を抑えることだけに終始し、人材育成に無頓着なのは問題です。いうまでもなく、介護は人が人に対して提供するサービスです。先述したように、職員の対応一つひとつが、施設としての温かさや信頼感を醸成していくことになります。そのためには、職員をコストではなく、“ヒト”として育てていこうという姿勢が大切です。

見学者が来場された際に、施設長が必ず顔を出すようにしているかどうかも重要です。様々な事務処理や外部との交渉で余裕がない場合も多いですが、数分の時間を作って顔を出すだけでも、大きな違いになります。施設への入居は検討している方にとっては大きな決断です。入居者様やご家族から見て、施設長はまさに施設の代表ですから、その場に一緒に立ち会い、施設の目指す方向性や介護への想いを伝えたいという気持ちがあるかどうかで、見学者やそのご家族に与える印象は大きく変わってきます。

以上の様に「選ばれる」介護施設となるためには、まずはそこで働く方々の在り方が、まず何よりも重要となります。もちろん、施設としての綺麗さや最新の設備等、施設としての魅力を高める方法は数多くあり、そういった事項にも検討を突き詰めて、より良い環境を整えるという考え方も大切です。まずは人があってこそ施設の魅力が形作られ、それをより優れたものとするために、ハード等様々な要素が役に立つ、という考え方で「選ばれる」施設作りを目指していただければと思います。

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[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/000581323.pdf