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【シリーズ】新薬情報② これから発売される注目すべき新薬~30年ぶり 「肥満症」適応の新薬登場か?

2021.12.06

2022年以降、肥満症の新薬が相次いで登場するかもしれない。2型糖尿病治療に使われているセマグルチド皮下投与製剤の適応追加が申請中となっており、承認されれば30年ぶりの新薬となる。国際共同臨床治験では、週1回の皮下投与で体重が平均15%減少した。他にも数成分が開発段階にあり、治療が必要な「肥満症」の患者にいかに適正に使用するかも重要になる。

肥満症を対象に開発中の主な新薬候補


・申請中=セマグルチド皮下投与製剤(GLP-1受容体作動薬)

・第3相=セマグルチド経口剤(GLP-1受容体作動薬)

・開発後期=チルゼパチド(GLP-1受容体/GIPデュアル作動薬)

・第2相=S-23768(ニューロペプチドYY5受容体アンタゴニスト)

・第2相=ダヌグリプロン(GLP-1受容体作動薬)

製薬企業の公表情報から作成(2022年1月現在)

■現れては消えた新薬候補

日本肥満学会は、「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、健康障害の合併が予測される場合で、医学的に減量を必要とする病態」を肥満症と定義し、疾患として取り扱うとしている。健康障害として、2型糖尿病、冠動脈疾患、脳梗塞などを挙げている。

一方、2022年初頭の段階で肥満症の適応があるのは食欲抑制薬マジンドールと漢方薬(防風通聖散、防已黄耆湯、大柴胡湯〈一部メーカー〉)のみ。肥満症の治療は食事療法や運動療法が基本なのは論を俟たないが、それで体重を管理できない人がいるのは想像に難くない。

過去20年あまり、少なくとも数種類の薬剤が肥満症の適応を目指して開発されてきた。食欲抑制薬や脂肪吸収阻害薬などで、安全性の問題などを理由に開発が中止されたか、ひっそりと消えていった。2013年に脂肪吸収阻害薬のセチリスタットが承認されたものの、薬価収載の議論の過程で減量効果や心血管イベント低減に疑義が生じ、上市には至っていない。

それほど新薬開発が困難な領域だが、GLP-1受容体作動薬のセマグルチド皮下投与製剤がようやく申請にこぎ着けた。承認・上市されれば、1992年のマジンドール以来となる。

■食欲抑制などで減量効果

同剤はすでに2型糖尿病に承認されているが、食欲抑制作用や胃内容の排出を遅らせる作用があり、体重減少効果は知られていた。2型糖尿病の治療においても、肥満合併例に好んで使われていると見られる。

そこで、改めて肥満症の患者(2型糖尿病ではない患者を含む)を対象に臨床試験を行って有効性・安全性を確認し、承認申請に至ったのがセマグルチド皮下投与製剤ということになる。

日本を含む国際共同治験の1つでは、開始から68週間でセマグルチド群は14.9%減量したが、プラセボ群は 2.4%減量だった。セマグルチド群の主な有害事象は悪心(44.2%)、下痢(31.5%)、嘔吐(24.8%)などだった。こうした消化器系有害事象のため、セマグルチド群の4.5%が治療を中止した。

■適正使用などに課題も

有害事象とともに課題となりそうなのが、同剤の適正使用だろう。インターネットでは「GLP-1ダイエット」なる用語が数多くヒットし、このクラスの薬剤が主に美容目的の自由診療で使用されているようだ。セマグルチド皮下投与製剤の肥満症適応追加後の適正使用の担保が求められる。

セマグルチドには経口剤もあり、2型糖尿病治療薬として承認済みだが、肥満症の第3相試験も実施中だ。経口剤で適応追加が承認されれば、皮下投与製剤よりも利便性が高まり、治療のすそ野拡大につながると期待される。

ただし、セマグルチド経口剤は吸収を確実とするため、服用方法が独特。現行の添付文書から抜粋すると、「1日のうちの最初の食事又は飲水の前に、空腹の状態でコップ約半分の水」で服用し、その後「少なくとも30分は、飲食及び他の薬剤の経口摂取を避ける」とされる。

もちろん、現時点では用法・用量を含めて肥満症に未承認なのだが、2型糖尿病と同様の注意が必要となれば、調剤薬局での服薬指導が減量の成否を分けるといっても過言ではないだろう。

(筆者)

佐賀 健  メディカルライター