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令和6年度介護報酬改定に向けた最新動向~介護助手が活躍する未来にむけて~

2022.11.21

日本の介護現場が抱える人材不足問題

前回のコラムでは「令和時代の人材戦略」と題しました中でDX化や外国人人材、介護助手等の重要性について紹介させていただきました。ただ、介護助手の導入については「そうはいっても介護の仕事もできるようにならないと困る」「介護ができない人に教育コストをかけられない」といった意識から、実際の介護現場では敬遠されがちであることも事実です。今回はこの介護助手について掘り下げ、実際に導入に成功した事例を取り上げながらその具体的な施策について紹介をしたいと考えています。

まず、前提として、現在既に介護業界は人材不足の危機にあります。20229月に厚生労働省より公表されました「令和2年版厚生労働白書」によると、2040(令和22)年に必要となる医療福祉分野の就業者数が1,070万人であるのに対し、供給面では974万人と、100万人近くが不足するということが指摘されていました []

 

「令和2年版厚生労働白書」より []

 

この様な状況下にあっては、従来の有資格者・経験者・フルタイムという縛りだけでの求人募集は、かなり厳しい状況にあると言えます。

介護現場で働く人々の平均年齢の上昇もこの課題に拍車をかけています。介護労働安定センターによる「令和3年度介護労働実態調査」によると、介護業界で働く人々の年齢層は、45歳以上50歳未満の年齢が13.8%を占めて最も多く、次いで多いのが40歳以上45未満の年代となっています[]。また、介護業界全体の平均年齢は47.7歳となっており、この値も年々上昇を続けています。これまでの介護現場を支えていただベテラン層の高齢化が進むことで、定年による有資格者の引退や、長時間労働が難しくなるといった問題も出てきています。

これらの背景の中で、事業の継続を考える上では、やはり新しい取り組みへの着手は避けられないところでしょう。

 

「テクノロジー」と「介護助手」が次期改定のキーワード

主に、こういった人手不足への対策として進められているのが、介護現場におけるICTやロボットの導入です。今年の7月に開催された第211回社会保障審議会介護給付費分科会では「テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について」をテーマに議論がされました[]

その趣旨は「テクノロジーの活用やいわゆる介護助手の活用等による生産性向上の取組を推進するため、介護施設における効果実証を実施するとともに実証から得られたデータの分析を行い、次期介護報酬改定の検討に資するエビデンスの収集等を行うことを目的とする」というものでした。令和3年度介護報酬改定でも一部採用されたテクノロジー活用のインセンティブを、次回の介護報酬改定時にも更に充実させることを目的として、介護現場における効果実証をおこなっていくという計画が示された形になります。

注目すべきは、この中に「いわゆる介護助手」の文言も記載されている点になります。目的の中でも「次期介護報酬改定の検討に資するエビデンスの収集等を行うことを目的」としていますので、実証結果によっては「いわゆる介護助手」を配置することで、介護報酬上のインセンティブを得る可能性があるということでしょう。

主に評価される点は、下図の通りになります。介護職員の業務時間が抑えられることや、介護職員・介護助手双方のモチベーションややりがい、利用者への効果といった大きく3つの観点から評価がおこなわれ、これらに対し一定以上の成果が認められた場合、介護報酬上に何らかの形で位置づけられる可能性は高くなるでしょう。

 

                     「テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について」 []

 

これに関しては、全国老人保健施設協会による「令和 2 年度 老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)」における「介護老人保健施設等における業務改善に関する調査研究事業」においてある程度の予測を立てることができます []

この事業では、高年齢介護助手雇用について調査・報告がされているのですが、実際に高年齢介護助手雇用をおこなった施設において、全体的な業務負担感は6割を超える施設で減少したとしており、介護の専門性を活かした業務への集中も3割の施設で増加していると回答されました。また、実施施設の内、実に90%が介護補助の雇用に対し満足感を感じているとしています。

介護助手側に関しても、仕事に対して満足しているか、やりがいを感じるか、今後も続けていきたいかについては、そう思うと回答されている方が約 80%となっており、モチベーション等の面ではかなりプラスの評価が出てくるのではないかと予想されます。

そうなると、次期介護報酬改定で、介護助手の概念が取り入られる可能性も高いと考えられるでしょう。可能であるならば、早期に準備を進めておきたいところといえます。

 

実際に介護助手を雇用するには

 

実際に介護助手の雇用を検討される際には、筆者も参加した、みずほリサーチ&テクノロジー社による「東北地方における介護未経験の高齢者人材等の確保及び業務分担に係る好事例事業者の取組の分析等に関する調査研究事業」を参考にしていただけるかと思います []

これは、実際に介護助手の雇用に成功している施設をモデルケースに、まさにこれから介護助手の雇用を進めたいという施設を対象に、情報提供をおこないながらその取り組みの実証をおこなうというものになります。具体的なケースが記載されており、内容も非常にわかりやすいので、ご一読いただけますと幸いです。

本コラムでは当事業での取り組みをベースにしながら、介護助手雇用を成功させるためのエッセンスを何点かまとめてご紹介したいと思います。

 

①ターゲットを設定する

「介護助手を雇用しよう!」と思い立ったとしても、そもそも現在の日本では、働き手の数そのものが減少しています。条件を緩和したからといって、必ずしも人が集まるとは限りません。その際には、ターゲットを明確にイメージすることが必要です。

「東北地方における介護未経験の高齢者人材等の確保及び業務分担に係る好事例事業者の取組の分析等に関する調査研究事業」では、「介護助手」ではなく「地域介護サポーター」と呼称を定め「就労意欲の高い人ばかりでなく、現時点では就労を考えていない人も含め、多様な地域住民を潜在的な介護人材と捉えて、募集の対象とする」としています。その結果として、例えば地域の高齢者の方が参加することで、やりがい、生きがいをもたらし、フレイル予防・介護予防にもつながることを期待しています。他にも、下記の様なターゲットを想定しています。

 

「東北地方における介護未経験の高齢者人材等の確保及び

業務分担に係る好事例事業者の取組の分析等に関する調査研究事業」[]

 

地域の状況を把握し、実態に合ったターゲットを設定すると良いでしょう。

 

②やってもらうこと(仕事内容)を検討する

ターゲットが決まったら、次にどんな役割を担ってもらうのかを検討します。フルタイムの介護職ばかりの職場ですと、そもそも業務の棚卸やマニュアル化がされていないというケースもありますが、専門性がなく勤務時間が短いサポーターに活躍してもらうためには、明確に区分けをしなければいけません。まずは業務を棚卸し、介護未経験であることを前提に、本人の意欲と能力に応じて拡大していくことを想定しながら、当初は事故リスクの無い生活に関する業務や見守り等を中心にお願いするのが良いでしょう。

ここで設定する業務は、反対に専門性の高い職員は、極力携わらない業務ということになります。サポーターにお願いできる業務を切り分けた後には、今度はこの「専門性の高い職員が集中して実施すべき業務」を設定しましょう。サポーターの雇用は、専門性の高い職員がより専門性を発揮する場面を創出することです。サポーターを雇用した後に、「専門性の高い職員が集中して実施すべき業務」にかける時間が増加したか否かが、取り組みの効果測定のポイントとなります。

役割の設定を通じて、働き方(雇用契約の種類、勤務時間、労働条件)も見えてくることになります。ターゲット層にお願いできそうな業務は何か、ターゲット層の方々が働きやすい勤務条件は何か等、より具体的な条件を設定していきましょう。

 

③募集方法を検討する

ここまでくれば、募集要項もまとまってくるでしょう。これを元に求人を出すことになりますが、ハローワーク以外にも、チラシを作って公民館に掲示する、回覧板に回してもらう、関連機関で配布してもらうなど、地域密着ならではの募集方法もあります。

特に、業務時間や業務内容、どの様な層に応募して欲しいかをチラシの様な形で明示することで、大きなコストをかけなくてもかなりの反響を得られた例もあります。この辺りは見せ方を工夫すると良いでしょう。

また、いきなり求人応募という形ではなく、事前説明会や職場体験会等を実施することも重要です。興味を持っていただいたターゲットにまずは足を運んでいただき、サポーターを雇用することの趣旨を説明します。その場で、職場体験会のお知らせをしつつ、実際に体験することで、想定通りに働くことができそうかの確認を相互におこなえます。

「東北地方における介護未経験の高齢者人材等の確保及び業務分担に係る好事例事業者の取組の分析等に関する調査研究事業」では、事前説明会への参加者数、職場体験会への参加率、就職希望率ともに高い水準を維持しており、説明会、体験、入職という流れを作ることが、採用において非常に重要であることも含めて確認することができました。

 

以上、限られた内容ではありますが、特に重要と考える3つのポイントについて整理させて頂きました。全体像は原典を当たっていただくことで確認ができますので、是非、一度ご参照いただければと思います。

 

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[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/index.html

[ⅱ] http://www.kaigo-center.or.jp/report/2022r01_chousa_01.html

[ⅲ] https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26624.html

[ⅳ] https://www.roken.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/04/gyomukaizen.pdf

[ⅴ] https://www.mizuho-rt.co.jp/case/research/pdf/r02mhlw_kaigo2020_07.pdf

株式会社スターパートナーズ代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表

MPH(公衆衛生学修士)

齋藤直路