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押さえておきたい新薬情報「~ゾコーバ~国産初の軽症・中等症の新型コロナウイルス感染症の経口薬」

2022.12.12

国産初の軽症・中等症の新型コロナウイルス感染症の経口薬

  2022年11月新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する国産初の経口抗ウイルス、ゾコーバ®錠(一般名:エンシトレルビル フマル酸)が緊急承認されました。軽症・中等症の経口薬としては、特例承認されたラゲブリオ®カプセル(一般名:モルヌピラビル)、パキロビッド®パック(一般名:ニルマトルビル/リトナビル)に次いで3剤目となります。

 既存の2剤は、重症化リスク因子を有する患者に限定されていますが、ゾコーバ®、重症化リスク因子のない患者に投与可能な初の経口薬になります。緊急承認制度の適用で申請されましたが、抗ウイルス効果は認められたものの、発熱や倦怠感など12症状の主要評価項目の有効性に関するデータが不十分として、継続審議になった経緯があります。今回、オミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水/鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさ/発熱、けん怠感・疲労感)の速報データで、快復までの期間が1日短縮されました。被験者は、オミクロン株感染が主で、ワクチン接種率も高く、国内の発熱外来の受診者のバックグラウンドを反映しているものと思われます。緊急承認と特例承認は外国での販売実績の有無や「有効性の推定」などが異なります。 

細胞内に侵入したウイルスは①RNA(リボ核酸)を放出し②RNA依存性RNAポリメラーゼでRNAを複製②宿主のリボソーム(複製装置)を使いRNAから長い蛋白質を合成蛋白質分解酵素(3CLプロテアーゼ)で切り出しウイルスを大量に複製します。ゾコーバ®の作用機序は、パキロビッド®と同じく、ウイルスの増殖に必要な3CLプロテアーゼを阻害します。ゾコーバ®はCYP3Aの基質であり、強いCYP3A阻害作用があります。CYP3Aで代謝される併用薬の血中濃度が上昇し、強力なCYP3A誘導薬との併用で、ゾコーバ®の作用が減弱する可能性があります。動物実験で、ウサギの胎児に催奇形性が認められたため、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与できません。また、服用中及び最終服用後2週間は授乳を避けることが求めらています。『コロナ薬物治療の考え方第15版』では、「一般に、重症化リスク因子のない軽症例の多くは自然に改善すること、対症療法で経過を見ることができることなどから、症状を考慮した上で投与を判断すべき」とされます。具体的には、高熱・強い咳症状・強い咽頭痛等の症状がある者などです。なお、重症化リスク因子のある軽症例に対して、重症化抑制効果を裏付けるデータは得られていません。

商品名

ゾコーバ®錠125mg

一般名

エンシトレルビル フマル酸

会社名

塩野義製薬

適応症

SARS-CoV-2による感染症

用法・用量

12歳以上の小児及び成人には1日目は3錠(375mg)を、2日目から5日目は1錠(125mg)を11回経口投与する

禁忌

次の薬剤(別掲)を投与中の患者
腎機能又は肝機能障害のある患者で、コルヒチンを投与中の患者
妊婦又は妊娠している可能性のある女性

副作用

発疹、そう痒、悪心、嘔吐、下痢、腹部不快感、頭痛

承認条件

緊急承認のため十分な説明と文書による同意が必要

薬価

当面の間、全額公費負担、登録センターから無償で譲渡

使用に際しては、必ず電子添文をお読み下さい。【2022年11月時点の情報】

ゾコーバ®錠服用中は使用できない薬剤

⚫ 抗精神病薬:オーラップ、ロナセン、ラツーダ

⚫ 抗不整脈薬:キニジン

⚫ 頻脈性不整脈・狭心症治療薬:ベプリコール

⚫ 抗血小板薬:ブリリンタ

⚫ 選択的アルドステロンブロッカー:セララ

⚫ 頭痛治療薬:クリアミン、ジヒドロエルゴタミン

⚫ 子宮収縮薬:エルゴメトリン、パルタンM

⚫ 高脂血症治療薬:リポバス、ジャクスタピッド

⚫ 睡眠導入薬:ハルシオン

⚫ グレリン様作用薬:エドルミズ

HCNチャネル遮断薬:コララン

⚫ 抗悪性腫瘍薬:ベネクレクスタ、イムブルビカ
     アーリーダ、イクスタンジ、オペプリム

⚫ 降圧薬:カルブロック、レザルタス

⚫ 不眠症治療薬:ベルソムラ

⚫ 肺高血圧症治療薬:アドシルカ、アデムパス

⚫ 勃起不全治療薬:レビトラ

⚫ 抗酸菌症治療薬:ミコブティン

⚫非ステロイド型選択的MR拮抗薬:ケレンディア

⚫ 直接作用型第Xa因子阻害薬:イグザレルト

⚫ 抗てんかん薬:テグレトール、アレビアチン
                 ホストイン

⚫ 抗結核薬:リファジン

⚫ 食品など:セイヨウオトギリソウ含有食品
       (ハーブティー、サプリメントなど)

 

 新型コロナウイルス感染症の経口薬(軽症~中等症Ⅰ)

作用機序

商品名(会社)

用法

小児

妊婦

備考

RNAポリメラーゼ阻害薬

ラゲブリオ
MSD

1日2回5日間
・発症5日以内

適応なし

禁忌

重症化リスク因子を有する
薬価収載(
20228月)

3CLプロテアーゼ阻害薬

パキロビッド
(ファイザー)

1日2回5日間
・発症5日以内

12歳以上
40kg以上

有益性投与

重症化リスク因子を有する
併用禁忌薬が多い

ゾコーバ
(塩野義)

1日1回5日間
・発症3日以内

12歳以上

禁忌

併用禁忌薬が多い



この記事は…

大学病院で医薬品情報を担当していた薬剤師が、年に4回承認される新薬のなかから話題の新薬をピックアップ。その特徴や作用機序、必ず押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。

(筆者)

浜田康次 一般社団法人日本コミュニティファーマシー協会理事