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介護保険制度を巡る最新動向

2022.12.22

「介護保険制度の見直しに関する意見」が取りまとめられつつある

12月19日に第105回社会保障審議会介護保険部会が開催されました[]。介護報酬の改定に関する議論では、どちらかというと介護給付費分科会が思いつく方が多いかと思います。介護保険部会は、制度の大きな枠組みを議論し、実際にどの様な制度にするか詳細な設計をおこなう場が、介護給付費分科会であると考えると分かりやすいかと思います。

介護保険部会については、本年度に入ってから、特に9月以降は月に2回以上と頻回に開催され、様々な議論がおこなわれてきました。通所と訪問を掛け合わせた新サービスの構想については、報道でご存じの方も多いかと思います。その他様々な議論が進められてきましたが、いま議題は「とりまとめに向けた議論について」となっており、いよいよ次期改定の大枠の骨子がまとまりつつあります。

今回・次回は、最新の介護保険部会の中で提示された「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」と見読み解きながら、ポイントについて解説をさせていただければと思います[]

 

新サービス創設に関する議論

下図が、今回の意見書の目次となります。大テーマは「地域包括ケアシステムの深化・推進」と「介護現場の生産性向上の推進、制度の持続可能性の確保」の2点となり、各々に更なる各論が付与されています。

 

「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」[]

 

「保険者の機能の強化」や「給付と負担」といったテーマも、介護保険制度上はとても大切なものとります。ただ、介護報酬改定、事業運営という観点から考慮すると、特に介護サービス自体の内容に関する事項を取り上げていければと思います。

 

「地域包括ケアシステムの深化・推進」については「1.生活を支える介護サービス等の基盤の整備」、「2.様々な生活上の困難を支え合う地域共生社会の実現」、「3.保険者機能の強化」の3つの要素から成り立っています。

「1.生活を支える介護サービス等の基盤の整備」では、報道でご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、新サービスの構想について言及されています。本文では「定期巡回・随時対応型訪問介護看護、(看護)小規模多機能型居宅介護の更なる普及に加え、 例えば、特に都市部における居宅要介護者の様々な介護ニーズに柔軟に対応できるよう、 複数の在宅サービス(訪問や通所系サービスなど )を組み合わせ て提供する複合型サービスの類型などを設けることも検討することが適当である 」と触れられています。より具体的な内容を伺い知るためには、1ヶ月程まえにおこなわれた第101回社会保障審議会介護保険部会資料「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について(参考資料)」を参照するのが良いと思われます[]

 

「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について(参考資料)」 []

 

ここでは、複数サービスを組み合わせて提供する事業者の取り組み事例が2つ提示されています。要点をまとめると、在宅サービス利用者の区分支給限度額の問題、それに伴うサービスの利用回数の調整問題、サービス変更にケアマネジャーが介在することで時間がかかってしまう問題等が取り上げられています。また、事業者の意見として、デイサービスの送迎前後や昼食後等に一部職員が待機する形になり、配置基準上の縛りが無くなればより弾力的なサービス提供が可能になるといったものも取り上げられていました。以上を総合すると、通所と訪問を一体的に提供する、包括報酬型(月の料金が一定)という形のサービスが創設されるのではないかと予想されます。

 

ケアマネジメントの質の向上に関する取り組み

「地域包括ケアシステムの深化・推進」では、ケアマネジメントの質の向上についての言及もあります。注目すべき点を抜粋すると「介護サービス全体として、科学的介護が推進されているところ、ケアマネジメントについてもケア プラン情報の利活用を通じて質の向上を図っていくことが 重要」、「ケアプランの作成における AI の活用について も 、実用化に向けて引き続き研究を進めることが必要」といった部分になるかと思います。

LIFEは、介護サービス事業所が収集したデータを取りまとめるビッグデータになりますが、ケアプランとは直接の関連付けがありませんでした。将来的にはケアマネジメントにも類似のシステムが導入され、フィードバック等を受けられる体制になっていくと考えられます。そのイメージは「全国医療情報プラットフォーム」として提示されています。

 

「介護情報利活用の推進等について」[]

 

その際に重要な役割を、AIが果たすようになるであろうことは、想像に難くありません。前回の介護報酬改定では、逓減性の緩和要件として、ICTの導入(ケアプランAIの導入含む)もしくは事務員の配置によるケアマネジャーの負担の軽減が位置づけられていましたが、今後は、ケアプランAIの導入促進をより強めるため、更なるインセンティブが設定される可能性が高いでしょう。

また、科学的介護推進の観点から、通所介護の「ADL維持等加算」や、入所施設にも複数のアウトカムを評価する加算が創設されています。居宅介護支援事業所においても将来的に、身体機能や認知機能の維持であるとか、在宅生活を維持した期間等を評価する、アウトカム系の加算が設定される可能性もあるのではないでしょうか。

 

その他の抑えておきたいポイントについて

「地域包括ケアシステムの深化・推進」では、入所サービスに関する言及もされています。特に、特別養護老人ホームに関しては大きく2点の議題があがっています。

1つ目は「特別養護老人ホームにおける医療ニーズへの適切な対応の在り方について、配置医師の実態等も踏まえつつ、引き続き、診療報酬や介護報酬上の取扱いも含めて、検討を進めることが適当」というものです。医療ニーズ対応に関する更なるインセンティブの設定が想定される言及ではないでしょうか。

2つ目は「特例入所の運用状況や空床が生じている原因などについて早急に実態を把握の上、改めて、特例入所の趣旨の明確化を図るなど、地域における 実情を踏まえた 適切な運用を図る こと が適当」というものです。実際に、地方部の特別養護老人ホームの経営者様のお話を聞くと、空床が出始めている施設もあるということで、その要因として原則入所が要介護3以上の方になったことと、スタッフ採用の問題だと考えている方が多いように感じます。実態に即した制度の調整が、今後されることになるのではないでしょうか。特別養護老人ホームにつきましては、平成28年に筆者が有識者委員として参加した老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業「特別養護老人ホームの開設状況に関する調査研究事業」にも整理されています[]

他にも「科学的介護の推進」「介護現場の安全性の確保、リスクマネジメントの推進」「高齢者虐待防止の推進」等が項目として挙げられており、これらの体制に関する調整等も、次期改定でおこなわれる可能性が高いでしょう。

「2.様々な生活上の困難を支え合う地域共生社会の実現」では、予防の段階から地域で高齢者を支えていく体制について言及しています。

「総合事業の多様なサービスの在り方」について「総合事業を充実化していくための包括的な方策の検討を早急に開始するとともに、 自治体と連携しながら、第9期介護保険事業計画期間を通じて、集中的に取り組んでいくこと が適当」としています。「第9期介護保険事業企画期間を通じて」とありますので、次回の介護報酬改定の際に大きな変更がおこなわれることはなさそうですが、次の3年間で議論を深め、更に先の令和9年(2027年)の報酬改定に影響を及ぼすのではないかと考えております。

 

以上、ざっとではありますが「地域包括ケアシステムの深化・推進」での議題について紹介させていただきました。次回は「介護現場の生産性向上の推進、制度の持続可能性の確保」について、ご紹介させていただければと思います。

株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路

 


[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29652.html

[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001025600.pdf

[ⅲ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001011997.pdf

[ⅳ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001025601.pdf

[ⅴ] https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/63_mizuho_1.pdf