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外国人人材について①

2021.11.01

外国人人材について①

株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤 直路

 

  • 介護現場における人材不足と外国人人材の可能性

 

 介護人材の不足が深刻化しています。厚生労働省の公表している「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、2025年時点で約32万人、2040年時点で約69万人の介護人材が全国で不足すると試算されています。[ⅰ]介護現場ではこの確実に来ることが予想されている介護人材の不足に備えて、介護ロボットや見守り機器の導入や、外国人介護人材の活用が進んでいます。

外国人人材の受入について、介護分野では、現在、EPA(経済連携協定)・在留資格「介護」・外国人技能実習制度・特定技能・留学生という制度等によって、外国の方が活躍しています。主には、ベトナム、フィリピン、中国、ミャンマー、インドネシアなどを中心に、スリランカ、ネパール、モンゴルなど、世界各国から多くの方が来日しています。また、2020年には出入国管理庁より発表された「新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた技能実習生の在留諸申請の取扱いについて」によって、異業種で働いていた外国人技能実習生に対し特定活動のビザを1年限定で配布し、介護も含めた他の業種で働くことが特例的に解禁されました[ⅱ]。

特に外国人技能実習生制度を活用した来日は解禁以降、年々増加しています。振り返ると2019年4月から、在留資格「特定技能1号」による介護人材の受け入れが始まりました。この制度を利用して、多くの外国人が日本での就労を開始しました。また、特定活動の在留資格の対象ともなったことで、新型コロナウイルス感染症の蔓延を受けて他分野での就労が難しくなった方々が介護分野での在留資格を得るため国内での特定技能受験者数が増加しました。今後も介護現場での外国人人材の受け入れがより一層進むと考えられます。介護事業所様にとっても、外国人介護人材の活用が人材不足解消のカギになることは間違いありません。

 

しかし、「外国人介護人材を雇用する」と一口に言っても言葉の壁、教育の壁など様々な課題が待ち受けています。そして最も大きな壁は「日本の介護を理解してもらう」ことの難しさです。「自立支援」「認知症対応」「権利擁護」日本では当たり前のこれらの考えも、一歩海外に出ると普通ではありません。これらを伝えるための方法も考えていく必要があります。

 

また、外国人人材の受け入れについても上記の通り様々な種類があります。それぞれの制度の仕組みと今後の見通しについても理解しておく必要があります。本コラムでは「外国人介護人材の雇用」について、制度や課題・事例を広くお伝えしていきます。是非、ご参考にしていただけましたら幸いです。

  • 外国人人材と日本の介護

 外国人介護人材を受け入れる際に最も重要なことは、“言葉の壁を超えること”よりも「日本の介護観」を伝えることです。日本の介護の特徴として、「自立支援」を中心に「認知症対応」「権利擁護の視点」などが挙げられます。しかし、外国の方が考える介護は日本と介護の考えが大きく異なります。

東南アジア・東アジア諸国では、そもそも「介護サービスを受ける」という概念がほぼありません。介護が必要になれば家族が面倒を見るか「ハウスキーパー(メイド・家事手伝い)」を依頼し、病気になれば病院へ「入院」するのが一般的です。このように「医療」と「ハウスキーパー」の視点が主となります。 その間に位置する「介護サービスを受ける」という考え方は存在していません。

 

特に「自立支援」という考え方では、差が顕著に現れます。数年前、筆者がミャンマーにて、日本に来日して介護の仕事をしたい候補者と意見交換をしていると「身体が不自由なのに、なぜ代わりにやってあげないのですか?」という質問がありました。どうやら、「支援が必要だから施設で暮らしているのに、代わりにやってあげないのは可哀そうだ」ということでした。確かに「介護」や「自立支援」という考え方が浸透していないことを考えると、そのように感じるのは無理もないかもしれません。その場では、日本では残存機能を活用しできる限り自分でおこなっていただくという「自立支援」の考え方が浸透していることを伝えました。

 

また、受け入れ先の介護施設様には「自施設の介護の考え方」を事前に資料としてまとめ、手渡していただくことになりました。資料には、すべて代わりにやってしまうことは高齢者の“できる事をする”機会を奪い、高齢者自身の能力をかえって衰えさせてしまうことを記載し、“あえて”ご自身でしてもらうことが支援の一部であるということを理解していただきました。

 

このように、外国人介護人材を受け入れるためには言葉の壁を乗り越えたり、介護技術や業務を教えたりする前に、最も基本となる「日本の介護観」がどのようなものなのか、を理解してもらうことがとても重要です。

それを伝えるための工夫が、受け入れ前にも受け入れた後にも重要となってくるといえるでしょう。

  • 外国人人材と日本語能力

  

 介護の現場で質の高いサービスを提供するためには、利用者とのコミュニケーションは欠かすことができません。そして、利用者とのコミュニケーションのためには、できるだけ高い日本語能力が重要であることは言うまでもありません。では、外国人介護人材が来日するときの日本語能力はどの程度なのでしょうか。

日本語能力の評価は、基本的にJLPT(日本語能力試験)の受験を経て取得するN1~N5の5段階を基準としています。外国人技能実習制度を利用した雇用では、入国時に「N4」、入国から3年以内に「N3」を取得することが求められます。

 

まずは「N4」で入国して、その後に「N3」を取得すれば良い。そう考えられがちですが、入国後は介護の実務を習得しなければなりません。それに加えて日本語学習をするというのは実習生への負担が非常に大きくなります。日本語教育にかかるコストも現地に比べて日本では一気に高くなります。そのため、やはりできる限り出国前の段階で「N3」に近い日本語能力を取得していることが望ましいです。

 

では、高い日本語能力をもつ外国人人材を採用するためには何が重要なのでしょうか。高い日本語能力をもつ外国人人材を採用するためには、高いレベルを目指す現地教育機関の選定が重要です。法人独自のテキストを教材として日本語教育をおこなう教育機関もあります。一方でぎりぎり「N4」を取得するまでの日本語教育能力しかない教育機関もあります。教育機関に訪問する際は、目標としている日本語能力レベルや教育期間、試験合格の実績、の可能性なども情報収集しておくと良いでしょう。

また、来日後の日本語学習の支援体制についても検討する必要があります。「N4」で来日した場合「N3」を取得できなければ、帰国を余儀なくされてしまいます。日本語の勉強時間を確保できるよう様々な工夫が必要です。担当者を付ける、シフトを調整するなど、試験に打ち込める環境を整えて学習をサポートすることが望ましいでしょう。

できることから少しずつ習得していくことで、過度な負担がかかることを避けられます。こうすることで日本語能力に少し不安があっても確実に身に着けていくことが可能になります。

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[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000207323_00005.html

[ⅱ] https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/fiber/ginoujisshukyougikai/200713/3.MOJ.pdf