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薬局の移動販売

2023.01.23

1.(文字通り)走り始めた薬局

(1) ウエルシア薬局は日用品などを積んだ車両で過疎地を巡回する「うえたん号」を自治体と協力して配備する取り組みを始めており、昨年12月に埼玉県長瀞町で2台目を導入した。事前に注文することで、第一類医薬品も販売する。また、大型液晶画面を通じて、オンラインで薬剤師や管理栄養士と会話することができる。

 

(2) この長瀞町から車で30分ほどの距離の小鹿野町にあるおがの薬局では、薬局がキッチンカーを出しスムージーなどを販売する活動を始め、「第6回みんなで選ぶ薬局アワード」で審査員特別賞を受賞した。

 

(3) 岐阜県では、岐阜薬科大学が調剤機能をもった車両(災害対策医薬品供給車両)が医療過疎地域の診療所を巡回させる「車両調剤」の実証実験を、昨年の10月に始めた。

 

これらのサービスは、医療過疎地域の高齢者を対象としたニッチなサービスにとどまるのだろうか?それとも地域や年齢層を拡大させて新しい業態として確立していくのだろうか?

 

2.移動販売の展開

 

これから先、地域コミュニティの縮小による過疎地域の拡大、過疎地域での人口の減少といった変化を食い止めることは期待できない以上、移動販売を薬局の新しい業態としてとらえた場合には

(1) 地方部での対象エリアの広範囲化

(2) 都市部や郊外の縮小にともなうミクロな対象地域の出現

といった2方向の変化に対して採算性を確立することが課題となるだろう。

 

薬局がミッションを「医薬品を患者の家に届ける」と設定するのであれば、オンライン診療とドローン配送やUber Eatsのようなセットから考え始めるのが自然だ。

一方で、住民の目線に立って「住み慣れた家で、100歳まで新鮮な魚を食べて暮らせる」ことをミッションと設定した場合、薬局の立ち位置はおのずから変わってくる。当面は、自治体や公立大学といった公的組織がコミットすることで採算を度外視できている部分もあるだろうが、たとえば「目の前にある商品から自由に選べる」というワクワク感のような、保険調剤からは見えてきにくい価値に注目することで、採算化の糸口を見つけることができるかもしれないと筆者は感じる。

 

移動スーパーの「とくし丸」という企業がある。軽トラを所有する個人事業主が、とくし丸と提携した地域のスーパーから生鮮品を仕入れ、登録した顧客を巡回するというモデルで、都市部でも成長しているようだ。このような業態が、将来の薬局と親和性が高いのではないだろうか。

 

3.機能を中心とした薬局の変化

 

日本人は、自動車についてはいうまでもなく、物をどんどん持た(て)なくなっている。惣菜も小分けにして売っているコンビニは「家庭の冷蔵庫のアウトソーシング」であるという指摘もある。

このような生活者の変化に沿って薬局の機能を見直すと、「医薬品を一定の場所にストックすること」は最優先事項ではなく、「医薬品が手元にまわってくるフロー」が本質だといえる。現在調剤部門も好調なドラッグストアからみれば、医薬品と同時に日用品や食料なども扱っている点は大きな強みで、移動販売と保険調剤の配達は紙一重だ。

食品などの購買履歴から患者が何を食べているのかまで把握することができれば、栄養状態などのスクリーニングもできるかもしれない(このような技術の使い方こそが、DXの本流のはずだ)。

薬局のストックとしての機能とは別にフローとしての機能に着目するのであれば、移動販売車を薬局が派遣するのではなく、移動販売車そのものが独立した薬局となって提携する薬局の商品を巡回して販売し、調剤済みの医薬品も届ける方が機能分担としては明快かもしれない。これからは「今のルールでは難しい」という発想ではなく、「現状に合わせてルールを変えていく」というマインドセットをもたなければ、変化についていくことは難しいだろう。

「薬業時事ニュース解説」

薬事政策研究所 代表 田代健