- 調剤
- #薬局経営
戦略を薬局の運営(オペレーション)に反映する
2023.02.27
今回は、「戦略を薬局でどのように実行(オペレーション)するか?」に焦点をあてます。
経営戦略は「どこで・どう戦うか!」であり、オペレーションは、経営戦略の実行力にあたります。
なぜ、今オペレーションが大事であるかというと、薬局のビジネスはシンプルで経営戦略での差別化は容易ではありません。しかし、オペレーションは独自性が出せる、且つすぐにわかるものではないため、簡単には模倣できません。したがって、競争優位性を高めることができます。
オペレーションを考える時には、生産性、品質、納期の3軸で考えるのが一般的ですが、最も薬局経営効率に差が出る「人の生産性」に絞ったコラムとします。
👆このコラム内容について (1)〜(4)を読むと「人の生産性」のヒントが見えます。 |
(1)生産性の考え方
経営戦略をどのように実行するかの鍵は生産性であり、以下の式で概念化できます。
生産性(投資対効果)
①期待される成果物(目標)×②歩留まり率(実現率)÷③投資するリソース
①期待される成果物の改善には、アウトプット(成果物)の最適化
(人員の例)
・提供する成果物は過剰ではないか(本当に必要な人数で回せているか)
②歩留まり率の改善には、プロセス(やり方)の最適化
(人員の例)
・やり方の見直しで改善できないか(人がやるべき仕事か、機械に投資する仕事か)
③投資するリソースの改善には、インプットの最適化
(人員の例)
・人員投入の調整(労働分配率、人時生産性を考えられているか)
👆薬局経営のワンポイント 考える順番を意識 打ち手を考える時には、順番があります。「生産性」を上げたい時には、患者さんを動かすことが売上につながるため、①アウトプット(成果物)→②プロセス(やり方)→③インプット(投資)の順番で考えていきます。 |
(2)アウトプット(成果物)の最適化
薬局のアウトプットは、患者さんへ提供する情報のサービス、調剤した医薬品を指します。
薬局ごとに拘るポイントは違うでしょうが、多くは「調剤スピードを早める」「懇切丁寧な対応に努める」を売りにした内容でしょうか。
ここで是非考えていただきたいのは、「スピードを早める」「懇切丁寧な対応に努める」などを良くするための対策を打つだけでは、少し荒っぽいです。
そのメッセージの裏には、どんな症状や真因が隠れているのか深掘りする方が、投資が少なく効果も出ます。
例えば「スピードを早める」ならば、「(患者さんから)急いでいるのに待たされた」「待合室がいっぱいになって困ってしまった」など様々でしょう。
仮に「急いでいるのに待たされた」時の解決策は、処方箋を受け取るときに●●分程度かかりますと説明することをご案内することであり、スピードアップが必ずしも答えにつながる訳ではありません。
👆薬局経営のワンポイント すぐにできるアウトプット(成果物)の改善例 「スピードを早める」の真因で、すぐに明日からできる着眼点をいくつか紹介します。 ・納期 粉砕や一包化での納期の相談です。他の調剤と比べ時間がかかりますから、患者さんと予め納期の相談し、急いで作らなくても良いようにすることも可能ではないでしょうか。納期を調整できれば、薬局内の空き時間に粉砕や一包化ができるようになり、ピーク時間の人員を減らせます。 ・待ち時間 実際の待ち時間と待つ体感時間は異なります。待ち時間に読んでもらえるものをお渡しすることは、体感時間を減らすことになります。例えば、処方箋を受け取る時に、月別のちょっとした健康に関連する読み物をお渡しするなども効果的です。 ・やらないことを決める 勇気のいることですが、やらないことを決めるのも一つです。いつも説明していることを予め紙にして配布することへ切り替える、服薬指導で話すことと服薬後フォローで話すことを分ける、などの工夫が考えられます。 |
(3)プロセス(やり方)の最適化
薬局の場合は「装置(機械)」「生産性(人)」「情報共有(人)」がポイントになります。
装置 |
・必要な機材は揃っているか |
生産性 |
・適切な人員配置はできているか |
情報共有 |
・受注発注情報の共有体制はできているか |
まず現状の機械のみで、「生産性(人)」「情報共有(人)」に問題がないかを考えます。
問題点があるか、否かは、抽象的な内容ばかりにならないように、今回は、私がコンサルティング先でやり方チェックに使っている一覧表をご案内します。人のやり方に網羅性のチェックシートになっていますので、下記の薬局経営のワンポイントを是非活用してみてください。
チェック後にまだ必要性があるようでしたら、医療機器や補助器具の投資を考えてみてください。投資の考え方は、(4)インプットの最適化に「人」を中心に書きましたが、医療機器や補助器具でも考え方は同じですから、を参考にしてください。
👆薬局経営のワンポイント すぐに使えるやり方改善の方向性
|
(4)インプットの最適化
最後はインプット(人、物、金、時間等の投資)の話になります。冒頭でも書きましたが、アウトプット(成果物)の最適化、プロセス(やり方)の最適化を行い、それでもうまくいかない時にインプットの変更を図ってください。インプット(投資)を行えば、課題と思っていた「成果物」や「やり方」が改善される可能性は高まります。しかし、投資している訳ですから、生産性の分母が増えるため、一概に生産性が高まる訳ではありません。鍵となるのは、その投資が投資額以上のリターンがあるのか考える必要があります。
薬局は、人件費が多くかかるビジネスモデルですから、採用への投資が正しいのかどうかを数値で使える「労働分配率」「人時生産性」の指標を紹介します。
👆薬局経営のワンポイント 労働分配率と人時生産性を採用時に活用する 労働分配率=総人件費÷粗利益 で表され、適正な人件費を出す時に優れている指標です。 労働分配率を決める場合は、過去のPL2〜3期分で理想と思える数値を平均して予定労働分配率を決めます。同時に、耐えられる限界値である限界労働分配率も考えます。限界労働分配率は、労働関連費用以外を最大限圧縮し、営業利益はゼロとした粗利益を分母にして計算します。 指標としては、予定労働分配率≦労働分配率≦限界労働分配率で見ておくとしっくりきます。 採用人数を増やせば、分子の総人件費が上昇しますから労働分配率は上昇します。何人の採用が許容ベースかを検討する時に使えます。
人時生産性=粗利益高÷総労働時間 で表され、労働必要人数を出す時に優れている指標です。 薬局の場合は、病院門前はクリニック門前よりも薬価差益が出やすい構造であるため、粗利益よりも技術料を総労働時間で割ると、店舗間の労働生産性がよりわかりやすく出ます。採用した社員を、人時生産性で考えてどこ店舗が配置するのに適切か判断できます。副次的な話ですが人時生産性は、店長がもっと人を採用してほしい趣旨の要望が出てきた際、人員が適切か、否かの判断軸としても使えます。 |
今回は、人の生産性(オペレーション)についてご紹介しました。
オペレーションは社外からどんなやり方をしているのかわかりにくいため、模倣が難しく、長期的なノウハウになりやすいです。もちろん、財務や経営戦略も重要ですので、私が過去に書いたコラム経営戦略⇄財務についてもセットで読んでみてください。
もっと自社に焦点をあてた内容を希望される場合は、無料相談もしておりますので弊社のホームページからお申し込みください。
鈴木 素邦 有限会社クラヤ代表取締役
2004年城西大学薬学部卒業。2017年グロービス経営大学院経営研究科(MBA)卒。
学校法人医学アカデミー薬学ゼミナールにて講師・商品開発・組織開発・マネジメント業務に従事。大手薬局、地域薬局、スタートアップ薬局にて薬剤師業務を経験。
現在、有限会社クラヤ代表取締役。薬局向け経営コンサルティング(クラヤコンサルティング)、人事評価システムの導入、処方箋単価向上、店舗開発、有料職業紹介業等のサービスを展開。