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医薬品の物流の変化

2023.02.27

1月16日、スズケン子会社の株式会社エス・ディ・コラボ(以下「SC社」)は小野薬品・塩野義製薬・田辺三菱製薬の輸送を共同で行うと発表した。SC社は製薬会社の物流センターから各卸までの輸送をまとめて担うというスキームで、2018年12月28日付で厚生労働省が発出したGDPガイドラインに準拠した物流をSC社から製薬会社に提案したという。

SC社は、昨年9月に「定温輸送箱、定温輸送籠、および定温輸送システム」についての特許を登録しているが、すでに製薬会社の物流業務全般や卸の出荷業務の外部委託といった実績も重ねている。ドライバーの不足や積載率、CO2排出といった負担を軽減するといった記事のまとめ方の裏側で、10年単位で着実に技術を高めてきたという印象を受ける。

ところで、スズケンは東邦薬品と2018年に「顧客支援システム等の共同利用に関する基本合意書」を締結しており、東邦薬品がSC社に3割出資する一方、東邦薬品の薬局向け発注システムなどに対してスズケンが出資している。この方向性を延長すると、薬局での在庫の品質管理もSC社が担い、発注を含めたサプライチェーンマネジメントに組み込まれるのが自然な未来像として見えてくる。

今後、卸がスペシャリティ医薬品を中心として輸送業務全般を外部委託し、通常の配送業務の頻度も減らす一方で、受発注管理と債権管理が中核業務として残っていくということであれば、卸本体にとっては物理的な距離という制約の問題は縮小し、極論すればコールセンターがいくつかあれば十分足りるようになるのではないだろうか。

効率化が進むことは、同時に冗長性を排除するということでもある。そもそも医薬分業というシステム自体が医療機関での処方と薬局での調剤という冗長性によって不適切な処方のリスクを軽減する仕組みであり、薬局薬剤師は「効率性」のもつ二面性に敏感であるべきだ。それはともかく、流通を効率化すればするほど、たとえば倉庫火災などの非常事態が発生した際には影響の範囲がさらに拡大していくというリスクも増大する。昨今の医薬品の供給問題は、このリスクが実現してしまった一例に他ならない。

厚生労働省は、昨年から「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」を開催している。ここでは、グローバル市場の中での日本のドラッグ・ロスと特許切れ医薬品の流通問題という2つのテーマを中心に、現状の薬価制度の持続可能性などが議論されているのだが、改組前の第1回会合で「自分が大学院生だった30年前と同じことが議論されている」と発言した委員がいたことに象徴されるように、これからも同じ問題を議論しつづけ、薬価算定方式に手をいれるだけで状況は悪化しつづけていくだろうという手詰まり感は否めない。ただし、厚生労働省はワクチンの供給や抗原検査キットの薬局での販売に際して直接コントロールしようと姿勢を見せ始めており、出荷調製品の配分についてもコミットするようになる可能性がある。

現状の供給問題については、医薬分業がもつ冗長性の副作用であるという視点を薬局薬剤師は持つべきだ。院内処方であれば、処方医は手持ちの在庫に応じて処方を変える、あるいは単に処方しなければ済むため、問題として顕在化することはなかったはずだが、院外処方では医師が在庫の状況を把握できないまま処方箋を発行し、それを薬局がそのまま調剤しなければならないからこそ、需給のミスマッチが生じている。今のところはそのような議論は目についていないが、薬局薬剤師が自ら言わなくても、いずれ誰かが指摘するはずで、院外処方の弊害という文脈で受け身になるよりも、これを克服するための知恵を薬局から絞り出すという積極性を見せる方がスマートではないかと筆者は考える。

「薬業時事ニュース解説」

薬事政策研究所 代表 田代健