• 調剤
  • #薬局経営

【シリーズ】薬剤師が知っておきたい緊急時対応① 薬局でも患者さんの急な容態の変化や事故が起こる場合もある〜緊急時対応の必要性

2021.12.08

多くの患者さんにとって薬局とは、その日の医療の締めくくりの場所です。すなわち、医療から解放され、日常に戻る場所でもあります。

薬局での日常業務において患者さんの薬物治療上の安全を考え、適切な情報提供を行うことは当然ながら心掛けている事と思います。しかし薬局という場を管理して運営する上で、また別の角度からの安全を考える必要があります。

もし患者さんが薬局を出たその直後、車にはねられたとしたら、あなたはどうしますか?

今回はそんな薬局でも起こるかもしれない緊急事態についてどのように対応するべきなのか、一例を挙げてお話ししたいと思います。

◆ケース:「交通事故を目撃した場合~見送った患者さんが薬局の前で車にはねられてしまった」

■通報

ここでは薬局のリーダーの立場でどうすべきかを書いていきます。一緒に考えてみてください。

まずは電話で119番通報することです。

この場合、救護に関わらないスタッフや近くの誰かに頼むのが望ましいです。

救急外傷の救護をする場合、救急隊と同じ人数の3名体制で臨むと役割分担がスムーズに行きます。

■感染防御

まずは、要救護者が出血している可能性がありますので、感染防御をします。手袋があると良いですね。

また、要救護者のマスクが事故の影響で外れている可能性があります。救急外傷であれば呼吸はとても重要なのでなるべく被いたくはないですが、感染症の対策が必要な状況下では出血などで濡れていないことを確認して、マスクを装着させるか、表情が見えるようにシート・タオル等で覆うと良いでしょう。

薬局の販売資材として、滅菌ガーゼがあれば、止血に使用出来ますので持ち出しましょう

■安全確認・状況評価

ここまで準備した上で初めて薬局の外に出るのですが、すぐに駆け寄るのではなく、その要救護者の周囲が安全であることを確認します。また、活動性の出血があるかどうかも判断できるかもしれません。さらにはねた車が停まっているかを確認します。そして、リーダーはメンバーに、目撃者や運転手から情報を収集しつつ自分の目でも確認する必要があります。その確認項目は

  • はねた(轢いた)のは今見ている一人であるかどうか。他の要救護者はいないか
  • 運転手自身に怪我はないか
  • 同乗者の有無と怪我の有無
  • エンジンを切っているか(切ってもらう)
  • ガソリン・オイル漏れはないか
  • 電柱やブロック塀など接触したものによって、さらなる危険を呼ぶものはないか
  • どれくらいの速度が出ていて、どのように要救護者にぶつかったか
  • どれくらい飛ばされたか、着地した地面の材質はどうか

これらを確認し、必要があれば通報先に追加の情報を伝えます

■要救護者に近づく

要救護者が上半身を起こしていたり、首を含め、ある程度元気に動いていたりしているようであれば良いのですが、そうでない場合などは「高リスク受傷機転」として扱います。頚椎損傷の可能性を排除できない場合、首を動かすことで予後が悪くなる可能性がありますので、声かけの前、もしくは声かけと同時に頭部を保持するところから接触します。

先ほど活動性出血を認めているのであれば、メンバーに頭部保持と同時に活動性出血に対して滅菌ガーゼでの圧迫止血を指示しておきます。その後、頭部保持をメンバーと交代し、痛み・抵抗がなければ、鼻、顎、お臍が真っ直ぐになる「ニュートラル位」にしてもらいます。

痛み抵抗があればそのままで固定します。

■初期評価

呼びかけにおいて、反応の有無で意識の確認(D:Dysfunction of CNS )ができます。

とりあえず、回答してくれたなら意識レベルは一桁(JCS)で、その回答が声であるならば、気道は開通しています(A:Airway)。

そして呼吸を見て、聞いて、感じる (速さ・深さ・胸の動き)ことで評価(B:Breathing)をして、橈骨動脈で脈拍を確認し、手や前腕等の色調、冷や汗、冷感などを評価して循環(C:Circulation)を評価します 。

呼びかけに応じない場合、呼吸の評価ができれば、当然、気道は開通しています。しかし呼吸を確認できない場合、下顎挙上法など、頚椎を保護したままの気道確保を行なった上で呼吸の再評価を行います。ここで呼吸確認できれば良いですが、なければ胸骨圧迫などの心肺蘇生の対象となります。

■情報の聴取

呼びかけに応じず、呼吸、循環も評価できた場合、最後に胸骨をグッと中指を尖らせた拳で押して痛み刺激を加えます。そのことによって開眼したら意識レベル2桁、開眼もしなければ意識レベル3桁となります。

もし意思の疎通が取れるなら、情報の聴取を行います

GUMBAという聴取の項目があります 

  1. (G)原因(受傷機転)
  2. (U)訴え(主訴)
  3. (M)飯 (最終食事時間)
  4. (B)病歴(既往歴)
  5. (A)アレルギー

ログロールの可能性も考慮し、四肢麻痺の確認途中で意識等のレベルが下がったときには、初期評価に戻り、行っている処置の確認をします(止血のコントロール等)。

薬局の患者ですので、薬歴情報でカバーできるものもあります。薬局に伝えていない項目の有無、家族への連絡先などもその後の医療に役立つ情報なので確認しておきましょう。

さらにできることとして保温があります。出血も起きているので、毛布や上着等で覆うことで保温を行うと良いでしょう

■まとめ

救急隊到着までに止血を行い、薬歴情報を準備しておけば、患者さんが意識を喪失している場合でも、救急隊が到着した時に聴取や手当の手助けになることがあります。薬局はうまく機能すると救急隊到着前の救急のインフラになる可能性があるのです。

またワルファリンなどのお薬が処方されている方が出血していたら、その情報を伝えられることが、治療のスピードに貢献できます。

緊急時に慌ててしまい、上手く伝達できず、救護に関わることができないと、後々まで後悔することになってしまいます。そうならないためにも普段から緊急時に備えた知識を持っておくことは薬剤師としても大切なことだと考えます。

(筆者)

山口勉

特定非営利活動法人 薬剤師緊急対応研修機構 理事長