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薬局DX~Pharma Techのカオスマップ~

2023.03.13

今回からは「薬局DX」と題しまして、2回にわたって薬局内のデジタル化についてお話をしたいと思います。

DX」はDigital Transformationの略です。医療現場におけるテクノロジーの進歩によるオンライン化・IT化を皆様も肌で感じていることと思います。デジタルの活用によって利便性や薬物療法の質が高まる一方で、巷にあふれるシステムやアプリケーションをどう選択し、どう使いこなせばいいか頭を悩ませていることかもしれません。

 

そこでこの1回目は、薬局向けのシステム、デバイス、ハードウェア、ソフトウェア、アプリケーションなどを整理し、薬局のテクノロジーを俯瞰することから始めたいと思います。

2回目にDXとは何かについて触れ、薬局DXの世界観を皆さんと一緒に想像してみたいと思います。

【目次】

  1. Pharma Techとは
  2. カオスマップ
  3. カテゴリーの説明
  4. カオスマップからわかること


Pharma Techとは

タイトルにある「Pharma Tech」とは、PharmacyTechnologyの造語です。最近「〇〇テック」という言葉が流行っていますが、薬局のテクノロジーの総称とご理解ください。

単に薬局内で使われるテクノロジーということではなく、下記の3つの目的を果たしうるものをここではPharma Techとして扱うことにします。

 

【Pharma Techの目的】

1.   利便性向上:患者や従業員の利便性向上や効率化のため。

2.   医療アウトカム増大:患者に新しい顧客体験を提供し、健康上の問題を解決するため。

3.   経営・事業改善:集患、売上、利益、リスクマネジメント、働き易さなどの改善のため。

 

冒頭でお話したように、ここ数年でさまざまな薬局向けのシステムやアプリケーションが登場しています。「何がどう違うの?」「その製品群にはほかにどんなメーカーのものがあるの?」といった疑問を抱くことも少ないくないと思います。そこで、カオスマップを使ってPharma Techを整理してみました。

 

 

カオスマップ

カオスマップという言葉をご存知でしょうか?カオスマップとは、企業や製品・サービスの特徴や関係性などを示す業界地図のことです。

百聞は一見に如かず、まずは下図をご覧ください。

    著者独自作成
    ・2023年3月時点の主だった企業を掲載。
    ・本カオスマップは著者が独自に作成しており、サービスの網羅性や正確性を完全に担保するものではありません。
    ・商標およびロゴマークに関する権利は、個々の権利の所有者に帰属します。
    ・当マップの掲載にご要望・問題がある場合は、追加・削除・差し替え対応いたしますので、大変お手数ですが「お問い合わせ」よりご連絡ください。

 

プロットされているのは、システムベンダーさんのロゴマークです。20233月時点の主だった企業を掲載しています。一部、企業のロゴマークを見つけられなかったものについては、製品・サービスのロゴマークとしています。もし、貴社の製品やサービスが掲載されていなければご連絡ください。各社のロゴを使用させていただいておりますが、使用上問題のある場合は削除・差し替え対応いたします。

 

マップの上方は患者さんが、下方は薬局スタッフが使用するものを、左側は医療アウトカム増大を目的としたもの、右側は効率化を目的としたものを開発・販売している企業をプロットしました。さらに15のカテゴリーに分け、「⑥電子版お薬手帳・オンライン服薬指導など」については3つのサブカテゴリ―にわけて整理しました。

 

カオスマップとして扱うものを「医療アウトカムの増大、医療サービスの向上、患者の利便性の向上、業務効率化、薬局経営の改善などに寄与する新しいテクノロジーを応用したデバイス、ロボット、ハードウェア、ソフトウェア、アプリケーション」と定義しました。したがって、以下のようなシステムや機器は含めていません。

  • ドラッグストア各社で運用されているポイントアプリ
  • 待合室を快適に過ごすためのアメニティや設備、デジタルサイネージなど
  • 会計、給与、総務、広報など、一般企業においても使用されるシステム

 

 

カテゴリーの説明

各カテゴリーの説明は以下の通りです。

①オンライン資格確認

オンライン資格確認に必要な顔認証付きカードリーダー。マイナンバーカードの顔写真データを IC チップから読み取り、その「顔写真データ」と窓口で撮影した「本人の顔写真」と照合して、本人確認を行うことができるカードリーダーのこと。

②オンライン診療

オンライン診療のアプリケーションではなく、かつ特定の医療機関が行うオンライン診療のことでもなく、複数の医療機関や医師がオンライン診療を提供するサービスのこと。オンラインでの医師の診察、健康相談などのサービスを提供。処方箋が発行されずに医薬品が自宅に届く仕組みと処方箋が発行される仕組みがある。

③オンライン薬局

一般用医薬品やサプリメントなどを購入できるオンラインサービスのこと。ECサイトとしての機能に加え、LINEなどで薬剤師に相談できる機能、アンケートに回答することでパーソナライズされた商品がリコメンドされる機能などがある。オンライン服薬指導に対応している場合もある。

④多職種連携システム

医療・介護関係者や患者・家族の情報共有・コミュニケーションツールのこと。閲覧・操作権限などを設定したうえで、患者の医療・介護情報を一元化するためのアプリケーション。

⑤治療用アプリ

病気を治療するためのアプリケーションソフト全般。主に認知行動療法に基づき、うつ病、認知症、ADHD、不眠症、禁煙や薬物依存などの治療に用いる保険適用の承認を得たアプリケーションであり、日本では医薬品ではなく医療機器として認可されている。

⑥電子版お薬手帳・オンライン服薬指導など

スマートフォンアプリとして患者には無料提供されており、患者がスマホで撮影した処方箋を薬局へ送信する機能、電子版お薬手帳の機能、服用期間中のフォローアップとしてメッセージのやり取りをする機能、オンライン服薬指導やキャッシュレス決済の機能などが一体型となったもの。

オンライン診療アプリから派生したもの、電子薬歴から派生したもの、独立系のものの3つにサブカテゴライズした。

⑦薬の自販機

駅構内などに設置するOTCの自動販売機のこと。購入者はディスプレイの案内に従いOTCを選択し、注意事項を閲覧する。選択した商品や注意事項の閲覧記録などの情報が離れた店舗に送信され、薬剤師や登録販売者の確認を経て購入する。

⑧順番管理

飲食店などでも使われる順番待ちシステムのこと。薬局内での音声呼び出しや番号のディスプレイ表示による順番管理に加えて、患者のスマートフォンで発券用紙のQRコードを読み込むことで呼び出し状況や待ち時間を確認できるなどの機能がある。

⑨宅配ロッカー

一般的な荷物の受け取りにも使用されるロッカーのこと。主にオンライン服薬指導を受けた後の薬の受け取りに利用される。QRコードを利用した入庫・受取、 クラウドを利用したリアルタイムな管理・監視、温度制御可能な冷蔵・冷凍ユニット、顔認証などの機能がある。

OTC販売支援

薬剤師向けの販売支援システムのこと。患者の症状から適したOTC医薬品候補の検索が可能。一般用医薬品のリスク区分やセルフメディケーション税制区分など、販売時に注意が必要な情報が提示されるなどの機能がある。

⑪レセコン・電子薬歴

レセコンと一体型となった電子薬歴も登場しているため、一つのカテゴリーとして扱う。

音声入力、クラウド型、経営管理数値のレポーティングなど多様な機能が追加されている。

⑫調剤機器

調剤を行うための機器類のこと。全自動薬剤払出機、抗がん剤調製、水剤分注機、散剤分包機、錠剤包装機、軟膏調剤機など。

⑬調剤監査・調剤過誤防止システム

ピッキングや分包された薬剤などの監査を行うシステムのこと。監査だけでなく、調剤棚へ誘導するナビゲーション機能、調剤薬の写真撮影、発注機能、棚卸機能などを搭載したものもある。

⑭不動在庫売買

医薬品の不動在庫を薬局間で売買するためのシステムのこと。在庫管理システムに搭載されているものや単独のWebサービスとして提供されているものがある。

⑮在庫管理

医薬品の発注・入庫管理などを行うシステムのこと。AIを搭載し医薬品の消費を予測して自動発注する機能や期限切迫品のアラート機能などを有するものもある。

 

 

カオスマップからわかること

①複数のベンダーを比較する。

同一カテゴリー内の主たるシステムベンダーがわかります。何らかのシステム導入を検討するときに、ベンダーの名前を知っているとか以前使ったことがあるといった理由ではなく、より多くの製品を比較することができます。

 

②乗り換えの検討ができる。

現在使用している製品の同一カテゴリーの他社を知ることができるので、乗り換えの検討に役立ちます。

 

③新しい製品群を知る。

「世の中にはこういう製品があるんだぁ。」ということに気づけます。気になるカテゴリーがあれば、そのベンダーのHPへアクセス!もし今、人の手でやっていることで不便さや負担を感じているならPharma Techを活用してみましょう。

 

④新しいベンダーを知る。

従来からある製品カテゴリーに新規参入しているベンダーがいます。すでに成熟した製品市場に参入するからには、何か今までと違う機能や価格の魅力があるはずです。

 

⑤多機能であることに気づく。

同じベンダーのロゴが複数のカテゴリーにプロットされていることに気づきます。すなわちそのベンダーは複数の製品を開発・販売していたり、一つの製品で異なるカテゴリーの機能を併せ持っていたりするわけです。今使っている製品にオプションを追加することで、より便利に使えるかもしれません。

 

⑥患者さんにオススメできる。

カオスマップに載っているのは、薬局が使用するものだけではありません。患者さんが使用する製品やサービスもあります。それを薬剤師が理解することで、投薬時に情報提供できるかもしれません。治療のドロップアウトを防いだり、不便さを解消してあげたりするために、Pharma Techの活用を患者さんにオススメしてはいかがでしょうか。

 

⑦競合他社を知る。

システムベンダーにとっては競合他社を知るのに役立ちます。商談の際に競合他社と比較しながら自社の強みをアピールすることができます。

 

 

今回はカオスマップを使ってPharma Techを俯瞰で眺めてみましたが、皆さんはどんな感想をお持ちでしょうか?

このカオスマップは高崎健康福祉大学薬学部の土井信幸先生と私が2021年より作成し、今回がバージョン2となります。

次回は、薬局DXとは何か?DXによってどんな変化がもたらされるのか?についてお話しします。

 

 

著者紹介

富澤 崇 株式会社ツールポックス代表取締役

1998年東京薬科大学卒、千葉大学博士課程修了(薬学博士) 山梨大学医学部附属病院、クリニック、複数の薬局で勤務。2001年から城西国際大学薬学部の教員として約20年勤務。大手チェーン薬局にて人事・教育・採用部門に従事。2017年に株式会社ツールポックスを設立。経営コンサルティング、キャリア支援、従業員研修などのサービスを展開。北里大学客員准教授兼務。