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薬剤師と薬局の専門性

2023.04.28

薬剤師と薬局の専門性

厚生労働は2022年度の科学研究として「国民のニーズに応える薬剤師の専門性のあり方に関する調査研究」を実施し、2月に報告会が開催された(薬事日報31日付)。

経緯としては、2008年に薬剤師のキャリアパスについて日本学術会議から提言がなされ、2013年度には第三者機関による評価などの制度を整備するという指針がまとめられたにもかかわらず、前進していないという問題があり、「専門性」の名称と定義を統一することなどが提案されたようだ。ここでは、薬剤師の専門性の位置付けについて、「キャリアパス形成」「専門医とセットとなる専門性」という2つをキーワードとしている。

 

薬剤師のキャリアを考える際には、資格を取ってから定年を迎えるまで保険調剤だけで生活できるだけの予算を政府は確保できるのか?という現実的な制約条件を無視することはできない。

 

筆者は「できない」と考えており、むしろ卒後しばらくは保険調剤でスキルを磨き、経験を積みながら、自分自身で患者の相談に応じて保険診療以外でケアを提供するステージにあがることを目指すべきだと主張したい。

しかし残念ながら、医薬分業の初期に薬局経営者の多くは「保険調剤の方がOTCよりも格が上」と勘違いし、OTCを手放してしまった。このミスを挽回することができるかはわからないが、いずれにせよ相当な努力が必要だろう。

このような発想では、「薬剤師の専門性」から真っ先に思い浮かぶものは、基本的に薬剤師にしか踏み込めない領域、「セルフメディケーション」だ。しかしこれは「認定プロセス」とはほとんど関係がない。

 

ひとたび「セルフメディケーション」について専門性を切り出すと、残りの線引きも方向が自然に変わってくる。

医学における臓器別・疾患別の薬理学の体系を行方向にとり(excelでいう1行目,2行目,3行目,...)、薬学的な業務のカテゴリーを列方向にとる(同じくA,B,C,...)と、2次元のマトリックスができる。保険調剤の下流での専門性は各行での専門性ということなのだろうが、臓器・疾患を横断した列方向の専門性があってよいはずだ。料理でたとえると、現在の医科の専門領域は「肉の専門家」「野菜の専門家」「出汁の専門家」といった風に系統立てられているのに対して、薬学的な専門領域は患者が実際に口にするモノに沿った「鍋の専門家」「うどんの専門家」といった系統立てが考えられるのではないか、という見方だ。

 

ところで、日本保険薬局協会は9日の定例会見で「無菌製剤の設備をもった薬局の71%で、過去1年間に調剤の実績がなかった」というアンケート結果を公表した。

地域医療構想で急性期病床を減らすことを目指した結果、新型コロナの患者数の急増に対して病床が逼迫するという事態が生じた。このことが示すように、急激に需要が増えることがありえる事態に対しては、普段からある程度の冗長性を確保しておくことが重要だ。これとは対照的に、人口の高齢化は予想を超えて加速することなど考えられず、在宅医療などの需要もある程度予想できる。このような場合には、感染症のような形で冗長性を持たせる必要はなく、時間的な余裕をもって段階的に体制を整えることができる。しかし、政府はこちらにインセンティブをつけた。結果として、薬局は過剰な設備投資を行なった。この設備投資と相殺する形で、薬局の他の業務が値引きされたことを考えれば、これは経済学でいうところの典型的な「政府の失敗」といってよいだろう。

 

多くの薬局経営者や薬剤師が、政府のインセンティブに依存して投資を行う状況は病的であり、政府がさらに薬剤師の専門性まで誘導するのは時期尚早だろう。ひとりでも多くの薬剤師が単純に「自分の腕で患者を治す」という経験をすること、そのような環境を薬局経営者が従業員に提供することが最優先されるべきだと思う。そしてそれを薬学教育に昇華させるプロセスを導入するべきだ。その裏付けがあって初めて、「薬剤師の専門性」と呼べるものが形作られるのではないだろうか。