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【シリーズ】薬剤師が知っておきたい緊急時対応② 災害時に備えておくべきこと

2021.12.13

私たちは近年、東日本大震災、熊本地震など甚大な地震の被害を経験してきました。そして気象環境の急激な変化によって台風や集中豪雨による洪水や土砂災害の危機を毎年のように迎えるようになりました。

そのため災害時の備えや対応については、昨今、多く語られているところだと思います。

災害から身を守り生き残るためにも、今後どのような災害が考えられ、どのような危険があるのかを気にしておくと良いでしょう。また自然災害でなくても、火事や事故などの災難についても同様です。

■災害時に薬剤師が取るべき行動

災害に直面したとき、薬剤師はどのように行動していくべきでしょうか。

薬剤師には地域の公衆衛生を守るべき責務があります。医療人である限り、この考えに基づいて生活者にたいして出来うることをしていかなければなりません。

薬局は企業として地域の薬剤師会組織などとともに緊急時にとるべき行動を取り決めている場合があると思います。また企業として災害時の対応がガイドライン化されている会社もあるかもしれません。

発災後の行動の指針が既に決まっている場合にはそれに従って行動します。そうでない場合は、所属している会社や団体に必要な報告、安否確認の返答などを行います。そうすることで、徐々に統制が取れて、全体の状況から見て必要な活動が指示されると思われます。

自分の所属する薬局が営業できる状況であれば、復旧に努めますし、復旧のめどが立たない場合や、事前に役割が与えられている場合には、避難所などの救護所設営や活動を行うことになるでしょう。

調剤を行うだけでなく、状況によっては救急外傷のアプローチや、軽症者の応急処置に関しても、知識があればできることはたくさんあります。

今回ここでは、災害時に起こりうるケースとして、薬局のある地域に設置された避難所で薬剤師としての薬物治療支援のシミュレーションをしてみます。

◆ケース:「202X年○○地方を震源にM7.0規模の地震が発生。家屋の倒壊、火災などからあなたの町は被害を受け多くの市民が避難所に収容されている」

■シミュレーション例~避難所で胸痛を訴える方がいる

発災3日目、地域薬剤師会の取り決めに従い避難所へ派遣されたあなた。支援物資、備蓄医薬品の整理をしているところ、胸痛を訴え苦しんでいる方がいると連絡が入りました。

自分たちの活動場所の安全確認、感染防御の後(新型コロナウイルスなどの感染症蔓延時であれば要救護者のマスク装着を確認。なければタオル等で鼻と口を覆う)、要救護者に近づき、肩たたきと声かけを、段階を上げて行うも反応がない場合、心肺蘇生術を行うことになります。

まず119番通報や、その状況下での救急の要請を行い、AEDを持ってきてもらい、伝ってもらえる人を呼びます。通常であれば胸骨圧迫30回の後、2回の人工呼吸ですが、感染症を考慮する場合、訓練を受けていない場合などは胸骨圧迫のみで対応します。AEDが到着したら電源を入れて指示通り装着し、操作します。

■災害時に起こりうる健康状態に想像を巡らせる

災害という非日常下では、多くの市民は普段とは全く違う環境に置かれて不自由することになり、そのことで健康上の支障をきたすことが想定されます。今回例示した患者さんはなぜ、胸痛を訴えたのでしょうか?

災害時の避難所は、通常通りの生活ができない場です。水道が止まるとトイレの水が流せず汚くなってしまいます。そのためトイレの利用を控えてしまうケースが実際の避難所では頻発しています。

今回は、抗血栓薬を飲んでいた患者さんが、トイレを我慢するために水分摂取を控えてしまったケースを想定しました。

薬剤師が出来ることとして、トイレの清浄の維持、水分摂取を控えない、運動を控えないような注意喚起を、平時でも、避難直後からでも行うことが望まれます。

■おわりに 薬学的管理の技術をもつ薬剤師だからこそできる災害時の緊急対応がある

今回AEDを使用する、という記載をしました。もちろん胸痛の原因はこれだけではないので思い込みは危険ですが、心停止であれば行う作業自体は同じです。心肺蘇生術も薬剤師は医療に携わる職種として知識として備え、実践できるようにしておくべきだと考えます。

筆者の主催する薬剤師緊急対応研修機構は、緊急・救急・災害対応などの実習研修を行っていますので是非、ご参加いただければと思います。

(筆者)

山口勉

特定非営利活動法人 薬剤師緊急対応研修機構 理事長