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規制改革推進会議 第7回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ等について

2023.05.08

【目次】

  1.  介護保険制度の大きな流れを決める審議会
  2.  PDCAサイクルの改善とアウトカムの評価方法
  3.  アウトカム評価をおこなう上でのデジタル活用の可能性

1.介護保険制度の大きな流れを決める審議会

2023年3月6日に規制改革推進会議の第7回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループが開催されました[]。規制改革推進会議とは、内閣府が設置する審議会で、内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に関する基本的事項を総合的に調査・審議することを主要な任務としています。制度ビジネスである介護保険サービスとの関係も深く、制度の新たな方向性を提示する役割も担っています。

規制改革推進会議自体は複数のワーキンググループからなり、今回開催された医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは、その名の通り医療分野、介護分野に関する議論を進めるグループとなります。その中で今回は「科学的介護の推進とアウトカム評価の拡充について」という議題で議論が進められました。

第7回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ[]

 

上記画像以下、膨大な資料が専用ページには添付されています。「科学的介護の推進とアウトカム評価の拡充について」は、議題2となりますので「資料2-1 社会福祉法人善光会 御提出資料」から「資料2-4 落合専門委員 御提出資料」までが関連資料となります。

今回はワーキンググループで検討された内容を見て吟味しながら、主に「資料2-1 社会福祉法人善光会 御提出資料」「資料2-2 コニカミノルタ株式会社 御提出資料」の解説を中心に、今後の介護保険の方向性について考えていきたいと思います。

 

2.PDCAサイクルの改善とアウトカムの評価方法

今回の資料は、民間での先駆的な取り組みと現状の制度の抱える課題とを照らし合わせ、今後の舵取りをどの様にすべきかを検討するという形になっています。「資料2-1 社会福祉法人善光会 御提出資料」についてまずは解説させていただきます []

社会福祉法人善光会(敬称略、以下同)は、東京で複数の特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人で、特に生産性の向上やICT・介護ロボットの活用で先駆的取り組みを進め、政府の資料等でも何回も取り上げられてきた法人です。その活動は介護サービスだけに留まらず、自社独自の介護ソフトの開発や、研究所機能の設置等、多岐にわたります。

今回の資料では、現状のLIFEと介護におけるアウトカムを評価することの難しさについて言及し、どの様に正しいPDCAを回しアウトカム評価をおこなえるようにできるかについて言及したものとなります。まずは第一に、現在のLIFEのシステムについては、データ項目の妥当性が明瞭でない、様式間でのダブりがある等といった入力する側の目線としての課題が提示されます。これらについては従来の審議会でも議論されているところであり、今後も項目の検討や整理が進んでいくことでしょう。

また、従来より懸念されていた要介護度の指標化の困難さ、クリームスキミングが生じる危険性について、より適切な指標を模索すること、ビックデータを活用しながら、アウトカムを相対化し、より正当にアウトカムが評価され、そして科学的に正しいPDCAサイクルを回すことのできる体制の構想が提示されました。

資料内では「交絡因子」「ケア(介入)因子」「アウトカム変数」という言葉が用いられています。「アウトカム変数」はADLや認知症症状等が想定されており、これらが維持・改善されることがアウトカムにつながるという考えになります。現状では、Barthel Indexや排泄の状況、褥瘡の状況等がアウトカム変数として用いられていますが、より有効な指標を科学的に模索していこうということが提示されています。

アウトカム変数の候補は以下に示されていますが、これらが将来のアウトカム指標となるというわけではなく、今後データを取得しながら分析を進めていくというものですので、可能性のひとつとして見ておくと良いでしょう。

「資料2-1 社会福祉法人善光会 御提出資料」[]

 

次に「交絡因子」ですが、これは調べようとするもの以外で、結果に影響を及ぼし得る可能性のあるものです。例えば、飲酒習慣のある集団の発がん率を調査したいとしても、喫煙をしている人の割合によって高い可能性で結果が変動することが予想されます。この時の「交絡因子」が、喫煙習慣や他の発がん率を上昇させる習慣等になります。

ビッグデータを活用しながら、「アウトカム変数」の改善に資する適切な「ケア(介入)因子」を特定・フィードバックをおこなえるようにすることで、科学的介護のPDCAを回し実際のアウトカムにつなげていこうというのが提示されている構想になりますが、その際に上記にある既往歴等の「交絡因子」も考慮し相対化することが重要であるとされています。

これらのデータを積み重ねていくことで「アウトカム変数」の理論値が生成され、将来的な状態変化の予測が可能になり、その予測を基に相対化した評価をおこなうことで、真のアウトカム評価がおこなえるようになるとされています。

「資料2-1 社会福祉法人善光会 御提出資料」[]

 

上記が、そのイメージになります。従来は状態の変化がなかったとして同一の評価になるA施設のAさんとB施設のEさんでしたが、それが理論値通りであったか、それとも理論値より改善したのか(今回の場合、悪化するはずだったAさんの悪化を防いだ)によって、A施設のアウトカムをより高く評価できるということがいる、というものになります。

これは構想の一つであり、必ずしもLIFE全体がこういったシステムに到達するといえるものではありませんが、一ついえるとすれば、今後は「ケア因子」に当たる介入の内容そのものに対するフォーカスが、されていく可能性が高いのではないかと考えています。

2つ上の表にもある通り、提示された「交路因子」や「アウトカム変数」は、現在のLIFEに導入されていますが、「ケア因子」については不足しているという見方もあります。LIFEからのフィードバックがより実用的なものになることを想定しても、特に介入の分野で入力項目の細分化などにつながっていくのではないかと考えられます。

 

3.アウトカム評価をおこなう上でのデジタル活用の可能性

「資料2-2 コニカミノルタ株式会社 御提出資料」では、アウトカム評価をおこなう上でのデジタル活用の可能性について提示されたものになります。コニカミノルタ株式会社からは、現在実現できている技術を活用しながら、アセスメントや評価等の過程をデジタル化し、より精度が高いかつ生産性の向上を実現する形について提示されました。

 

「資料2-2 コニカミノルタ株式会社 御提出資料」[]

 

上記は、実現しているアセスメント過程の事例になります。AIが姿勢や動作を探知して要介護者の状態を分析しながら、ICFBarthel Index等の形式で分析をおこない、アセスメント評価をアウトプットするという行程になっています。評価が高い精度でおこなえる可能性のあることと、評価の手間・データ入力の手間が大幅に改善される可能性があることが大きな特徴といえます。

実際に、AIを活用したアセスメントシステムや、自動入力システム等は登場してきており、今後の介護現場の生産性向上に大きく貢献する可能性は高まってきています。一方で、介護保険制度上位置づけられているデジタル技術は、見守り機器、ケアプラン作成AIに留まっており、評価・アセスメントを自動化するという観点そのものは、これまでの介護保険制度上にはなかったものになります。これが、規制改革推進会議の場で提示されたことには、大きな意味があるのではないでしょうか。

実際に介護保険上に位置づけられるのか、位置づけられるとしてもどの様な形になるのかは現時点では不明瞭ではありますが、そういった可能性があること、現実に有用なものも増えてきているので、これを機会に検討してみるというのも良いのではないでしょうか。

 

「資料2-3 厚生労働省 御提出資料」には、主に厚生労働省の観点からLIFEおよびアウトカム評価についての課題意識と今後の展望についてまとめられていますが、大枠ではLIFEを活用した科学的介護の体制をブラッシュアップしていくこと、およびアウトカム評価の導入の形について引き続き検討を進めていくことが言及されています。

「資料2-4 落合専門委員提出資料」では、全ての介護施設等で PDCA サイクルを構築することは非現実的であることも踏まえて、アウトカムベースでの評価の選択を可能とする等の設計も考慮に入れる必要があることについて言及されています。

課題が多く、データも正確かつ実際の改善に資するものを積み上げていかなければならない段階であることから、介護保険におけるドラスティックなアウトカム評価の導入にはまだ時間がかかる、少なくとも次回の令和6年度介護報酬改定には間に合わないのではないかと考えられます。しかし、将来的にこれらを導入するための準備として、科学的介護の推進や規制改革推進会議等での議論がされているともいえます。

決して遠くない将来に、アウトカム評価の導入がされ、それが介護保険サービス運営に非常に大きな影響を及ぼすことになることが考えられます。そのための準備を、アウトカムにつながるような質の高い介護をできる体制の構築を、いまのうちから進めていくことが最も重要であるといえるでしょう。

株式会社スターパートナーズ代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表

MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路

 


[ⅰ] https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_03medical/230306/medical07_agenda.html

[ⅱ] https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_03medical/230306/medical07_0201.pdf

[ⅲ] https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_03medical/230306/medical07_0202.pdf