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「電子処方箋導入薬局の事例から見えてくる課題と展望 ~CP研究会セミナーより」

2023.05.08

 4月15日に開催された一般社団法人日本コミュニティーファーマシー協会主催の研修会「CP研究会」にて、「電子処方箋の導入で今後薬局業務はどう変わるのか」と題したオンラインセミナーが行なわれた。薬局関係者にとっても関心の高いテーマであり、同セミナーは多数の参加者を集めた。今回は主に薬局での導入事例を中心に内容をご紹介したい。

 

【セミナー演題と講師】

演題1 「電子処方箋の導入で、今後薬局業務はどう変わるのか」

講師:保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS) 医事コンピュータ部会 調剤システム委員会 調剤標準化分科会 サブリーダ 野本 禎

 

演題2「電子処方箋の導入による薬局業務の変化」

講師:アポクリート株式会社 第二事業部 第五ブロック(アイランド薬局須賀川店) 中里見裕哉

【目次】

  1. 電子処方箋普及の現状
  2. 電子処方箋の運用について
  3. 電子処方箋による課題解決の事例
  4. 患者からの反響
  5. 今後の展望

1.電子処方箋普及の現状

 始めにJAHISの野本禎氏から電子処方箋の全体像、薬局が導入すべき機器、設備の説明がなされた。その中で電子処方箋の導入状況について、49日時点で2,648の薬局が導入していると報告された。そして

電子処方箋に蓄積された調剤情報を対象に約94万件の重複投薬等チェックを薬局で行い、重複投薬が約16千件、併用禁忌が18件検知されている状況が示された。

実際に導入している薬局の薬剤師アンケートでは、「これまで把握できなかった薬剤の把握が可能になった」や「重複投薬、併用禁忌の防止ができた」など効果が感じられるとの評価もあったという。さらに大手薬局の半数以上が半年以内に導入完了する予定というデータを示し、乗り遅れず対応していくことが重要と述べた。

 

2.電子処方箋の運用について

続く演題として、アイランド薬局須賀川店(アポクリート株式会社)での導入事例の紹介が中里見裕哉氏からなされた。アイランド薬局須賀川店は福島県須賀川市に位置しており、全国に先駆けて電子処方箋の実証実験の行なわれたモデル事業地区に該当するため、今年116日から電子処方箋の受付を開始している。

まず同薬局での電子処方箋受付時の業務フローについて説明がなされた。

電子処方箋受付時にはマイナンバーカードと顔認証、もしくは健康保険証と引換番号を用いてレセコン上に電子処方情報を取得する必要があり、その情報を基に複製された電子処方情報を出力し調剤を開始する。複製された電子処方情報が、従来の紙処方箋の処方箋コピーと同じ位置づけになると中里見氏は説明した。

また電子処方箋の投薬後は、HPKIカードを用いて電子処方箋管理サービスサーバーに調剤情報のデータを速やかに返送する必要がある。さらに電子処方箋の運用を開始した薬局は、データを蓄積するために紙の処方箋の調剤情報もサーバーへの返送が必須となる。アイランド薬局須賀川店では1日の終わりにまとめて返送する形をとっているという。

 

3.電子処方箋による課題解決の事例

 以前から地区全体では、次のような事柄が課題として存在していたという。

・同疾患の治療重複(同疾患の治療を複数の科で行っており、疑義照会してもお互いの処方は把握しているため、問題なしとの回答があると多剤併用について提案しても変更が難しいケースがあった)

・手帳に記録のない薬剤の確認ができない(患者に口頭で確認した際に処方薬が禁忌であると判明したことがあった)

・内科と整形でPPI重複(胃潰瘍の患者にロキソニンの処方など)

 

これらの課題に対して電子処方箋の導入によりそれぞれ以下の効果が見込まれると述べた。

・多剤併用は重複投薬等チェックで確認が可能になる。

・電子処方箋を導入していない病院からの処方やOTCについて、薬局からコメントを送ることで注意喚起ができるようになる。

PPIの重複など単純なものは未然に防げるようになる。

 

4.患者からの反響

 電子処方箋モデル事業の実施状況について、電子処方箋受付件数は13月で徐々に増加傾向だが、マイナンバーカードでの受付が未だ0件で認知度がまだ低いと中里見氏は述べる。

しかし電子処方箋を導入したからこそ同種同効薬に気づけた事例もあり、今後データ蓄積件数を増やすことで重複投薬等チェックがより充実していくことを期待した。

さらに電子処方箋導入に際して患者からは以下のような様々な声が寄せられたと紹介した。

「薬局で薬ができていると思った」

「対応していない系列店にいってしまった」

「そもそも知らなかった」

「まだ良くわからない」

 

これらの声に対し、以下のような対策を示した。

・かかりつけの患者には引き換え番号と保険情報を電話確認し、事前に準備を行うことで待ち時間短縮につなげる。

・電子処方箋に対応していない薬局の場合は一度病院に戻って紙の処方箋にしてもらうか、対応できる薬局を紹介する。

・電子処方箋の仕組みや対応薬局であることなどを周知していく必要がある。

 

5.今後の展望

 中里見氏は今後薬局が電子処方箋を導入する上で課題となる点として、紙処方箋と運用が異なるため業務フローの見直しが必要であることや、引換番号から読み取る際に用法マスタの紐づけが必要でそれが大変であると述べた。しかし紐づけは1か月たち一巡するとスムーズにできるようになるため安心して運用して良いのでは、と経験を踏まえて補足した。

 

最後に電子処方箋の今後の展望として、全病院・薬局で導入されることで重複投薬の防止につながり、ペーパーレスになることで業務効率化が図れると述べた。また現状疾患禁忌はチェックされないが、疾患の既往等のデータを得ることで禁忌薬の処方が止められるようになると期待した。

 

徐々に普及していくことが見込まれる電子処方箋。重複投薬等チェックや業務の効率化などさまざまなメリットがあるため、なるべく早い導入が望ましい。そして、患者へ周知していくことも重要な課題だと言えるだろう。

 

筆者:株式会社エニイクリエイティブ MIL編集部