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押さえておきたい新薬情報~アトピー性皮膚炎の痒みに特化した抗体医薬(ミチ―ガ®皮下注用)~

2023.06.12

 2022 8 月、アトピー性皮膚炎(AD:アトピック・デルマタイティス)治療薬のミチーガ®皮下注用〔一般名:ネモリズマブ(遺伝子組換え)〕が発売されました。2018年に発売されたデュピクセント®皮下注〔一般名:デュピルマブ(遺伝子組換え)〕に、次いで2剤目の生物学的製剤(抗体医薬)です。

 ADは、増悪と軽快を繰り返す痛痒のある湿疹を主病変とする慢性炎症性皮膚疾患です。そう痒による掻破行動は、皮膚バリア機能の低下、皮膚症状の悪化、搔痒の増強などという悪循環(イッチ・スクラッチサイクル)を惹起します。ステロイドやプロトピック®軟膏(一般名:タクロリムス)による外用療法とスキンケア(保湿薬)が基本になりますが、効果不十分な難治例も少なくありません。

 AD治療薬は、10年ぶりの新薬として登場したデュピクセント®を皮切りに、注射2剤、経口1剤(サイバインコ®錠)、適応拡大2剤(オルミエント®錠、リンヴォック®錠)、外用2剤(コレクチム®軟膏、モイゼルト®軟膏)と、5年間に7剤が承認されました。新薬のほとんどはTh2細胞による炎症を抑える薬で、この背景には病態解明の進展があります。免疫細胞であるヘルパーT細胞のうちTh2細胞が活性化すると、アレルギー疾患に関与するIL(インターロイキン)-4及び13【皮膚バリア機能の低下/炎症に関与】、IL-31【痒みの誘発】、IL-5【好酸球の動員】などのサイトカインが産生され、受容体に結合すると、シグナル伝達に関与するヤヌスキナーゼ(JAK)やSTAT(シグナル伝達兼転写活性化因子)を経由し過剰な炎症を引き起こします。近年のバイオテクノロジーの進歩により、IL-4/IL-13を標的とするデュピクセント®やJAK/STAT(ジャック-スタット)経路を阻害するJAK(ジャック)阻害薬などが創薬されました。ADの掻痒は、蕁麻疹とは異なり、抗ヒスタミン薬では軽減しません。ミチーガ®は、「痒み」を誘発するIL-31に着目し、神経細胞などに発現するIL-31受容体Aを標的としたヒト化モノクローナル抗体です。IL-31を阻害することで、痒みと掻破の悪循環を断ち切ります。既存治療を実施しても中等症以上の搔痒がある患者に、抗炎症外用薬や保湿薬と併用して使います。そう痒に特化した薬なので、症状が改善しても、既存治療は続けます。薬効を減弱する中和抗体は、まだ検出されていません。ヒト化抗体のため発現しにくいと考えられます。

商品名

ミチーガ皮下注用60mgシリンジ

一般名

ネモリズマブ(遺伝子組換え)

会社名

マルホ/中外製薬

薬効分類名

ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体

効能・効果

アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)

用法・用量

成人及び13歳以上の小児には、1回60mgを4週間の間隔で皮下投与する

注射部位

腹部(へそから5cm以上離れた部位)、大腿部、上腕部外側

副作用

アトピー性皮膚炎、皮膚感染症(ヘルペス感染、蜂巣炎、膿痂疹、二次感染等)、上気道炎

薬価

1筒117,181円

使用に際しては、添付文書を必ずお読み下さい。

 

     

 

 アトピー性皮膚炎治療薬(注射薬、経口薬)    

商品名(一般名)

分類

適応

デュピクセント皮下注
〔デュピルマブ(遺伝子組換え)〕

抗IL-4/13受容体抗体

既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎、気管支喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎

ミチーガ皮下注用〔ネモリズマブ(遺伝子組換え)〕

抗IL-31受容体A抗体

アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)

オルミエント錠
(バリシチニブ)

 

JAK阻害薬

既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎、関節リウマチ、円形脱毛症
SARS-CoV-2による肺炎

リンヴォック錠(ウパダシチニブ水和物)

既存治療で効果不十分な関節リウマチ、関節症性乾癬、強直性脊椎炎、アトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎

サイバインコ錠
(アブロシチニブ)

既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎

 

 

この記事は…

大学病院で医薬品情報を担当していた薬剤師が、年に4回承認される新薬のなかから話題の新薬をピックアップ。その特徴や作用機序、必ず押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。

 

(筆者)

浜田康次 一般社団法人日本コミュニティファーマシー協会理事