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人材が定着する職場を作るには

2023.07.03

【目次】

  1. 人材不足に対応するためには定着率向上がカギ
  2. 退職リスクは入職直後が高まりやすい
  3. 優先順位をつけてマネジメントを優先する
  4. キャリアパスは適正な運用を


1.人材不足に対応するためには定着率向上がカギ

財務省の審議会でも人材紹介への規制が議論されるなど介護業界では引き続き厳しい求人状況を打破する方策が模索されています。

そんな中、やっと人材を採用することができたのに定着せずにすぐ辞めてしまうといった介護事業者様の悩みを伺うことは少なくありません。公益財団法人介護労働安定センターによる「令和3年度 介護労働実態調査結果 事業所における介護労働実態調査」によると、令和3年度調査時点での訪問介護員、サービス提供責任者、介護職員の1年間の離職率は14.1%となっています[]。厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概要」によると、全産業での離職率平均は13.9%となっており、介護分野が突出して高いわけではありませんが、人事不足のいまの時代に、人材が定着することは採用力以上に重要なテーマともいえるでしょう[]

介護現場で働く人は、何故、退職をしてしまうのでしょうか。「令和3年度 介護労働実態調査結果 介護労働者の就業実態と就業意識調査」によると、前職をやめた理由は「職場の人間関係に問題があったため」が 18.8%で最も高く、次いで「結婚・出産・妊娠・育児のため」が 16.9%、「自分の将来の見込みが立たなかったため」が15.4%となっています。「結婚・出産・妊娠・育児のため」については、好ましいライフイベントですし、産休中の人員配置基準の弾力化等、制度でも勤続するための動きがあります[]

 

「令和3年度 介護労働実態調査結果 介護労働者の就業実態と就業意識調査」より[]

 

一方で、「職場の人間関係に問題があったため」「自分の将来の見込みが立たなかったため」は、職場として改善・介入の余地のある分野となります。他にも「収入が少なかったため」「他に良い仕事・職場があったため」「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」といった要因が上位を占めていることから、他所と比べた場合や、事業所単独での、介護サービス事業所としての在り方が問われると考えてよいでしょう。職員に働き続けたいと考えてもらえる職場を作るにはどうすればよいか、人が定着する仕組みの作り方を事例を交えながら紹介します。

 

2.退職リスクは入職直後が高まりやすい

せっかく採用して教育してきたのに、半年も経たずに退職してしまった。職員採用においては、こんな悔しい想いをされた経験がある方は多いのではないでしょうか。入職直後は、入職前に抱いていたイメージと、入職後に体験する実際の職場との「ギャップ」に多くの人が戸惑います。それは仕事の内容だったり職場の人間関係だったり、人によって様々ですが、避けて通ることはできません。

この「ギャップ」を埋めることができずに不安や不満をため続けてしまうと、退職という結果につながってしまいます。前職をやめた主要な理由である「職場の人間関係に問題があったため」「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」といった退職理由は、ここに起因する部分もあると考えられるのではないでしょうか。これを解消するためには、仕組みを作り確実に運用することが大切です。

例えば入職時のカリキュラムについて、整備されきちんと運用されていることも重要です。教育には労力が大きくかかる分、現場のマネジメントと比較して軽視されがちです。比較的仕事のできる職員を教育係に指名して、OJTの中で教えていくという、場当たり的な研修体制になってしまっているという事業所も少なくありません。しかし、介護職は人に教えるプロではありませんし、教え方を学んでいなければ、適切な指導をおこなうことも難しいです。この辺りを、正しくフォローできる様な仕組みが必要です。実際、人手不足に悩む異業種の多くはこのような仕組みが整備されている企業が多いでしょう。

当社は特に、入職直後の職員の指導のために、 座学研修の実施と「1人前に向けたチェックリスト(指導マニュアル)」の整備を経営コンサルティングを通じて支援しています。座学研修では法人の理念や介護に対する考えをまとめたオリジナルのテキストを作成し、それをもとに半日程度の時間をかけて実施するケースが多いです。

 

オリジナルの研修テキスト・ワーク付(スターパートナーズ社)

 

また、理念や介護の他にも、例えば15項目前後からなる「行動指針」といったものがあります。事業所の考え方に従って、職員として行動するときの判断基準の目安になりますが、これを自分自身が得意と思うものと苦手と思うものをピックアップし、それぞれどの様なアプローチを通じて行動に落とし込んでいくかを考えるワークをおこないます。こうすることで、自分の価値観とは異なる環境で働くということの理解を促し、将来の「ギャップ」への備えとしています。また、これは先輩職員にも共有することで、指導する介護の考え方や価値観の基準としても機能することが期待できます。

「1人前に向けたチェックリスト(指導マニュアル)」は、入職後の期間とそれまでにできるようになって欲しい仕事を整理しチェックリストとしてまとめたものです。介護現場における早期離職の要因としてよく聞かれることの一つとしては「先輩に教えてもらえない」「人によって教える内容が違う」といった、教育上の問題があります。これを解決するためには、何を、どの時期に、どんな内容で教えるかを見える化し、チェックリストにまで落とし込むことをお勧めします。 こうすることで、前回担当していた指導役が不在だとしてもどこまで指導が済んでいるかわかるので、状況に応じて、別の職員が指導することも可能になります。

 

チェックリスト(スターパートナーズ社)

 

指導方法の標準化をおこない、基準を示しそれに基づいた指導をおこなうことで、よっぽど考えが合わない、考えを変えようとしない人以外は、段階を踏みながらギャップを解消していくことが期待できます。しかし、成長速度が人によって違うこと、対顧客、職員間両方での人間関係が形成されていくことで、そういった基準や仕組みだけでは解消されない課題も生じてきます。

こういった新しい問題を早期に察知し対応していくためにお勧めしているのが管理者による定期面談の実施です。前の2つは仕組み作りに焦点を当てましたが、最後はやはり「人対人」になります。入職後は、1週間、2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月と、不測の事態があったときもすぐに対応できるよう、意図的なコミュニケーションを通じてコンフリクトの解消を目指します。

 

3.優先順位をつけてマネジメントを優先する

弊社から実施の提案をすると「他の業務が忙しくてなかなかおこなえていない」というお声を聞くことが多くあります。特に小規模な事業所ですと、プレイングマネジャーとして管理者の方が現場で動きながら管理業務をおこなっており、なかなか時間を取れないというケースも良くあります。

しかし、それでも多少の無理をしてでも、この定期面談は実施するようお願いしています。いまの時代、職員の確保は介護事業所にとって最も大きな課題の一つといえます。そんな状況下で、事業所を統括する管理者の方が最も力を割くべきは、職員のマネジメントに他ならないのです。コミュニケーションを伴うマネジメントは時間も労力も多大にかかります。だからこそ、それに裂く時間を確保できるよう最大限の努力をおこなうべきです。

そんな時間を作るためには、自分の仕事を渡せる人を作ることが大切です。例えばシフト作りや希望休みの連絡受付、シフトの調整等、もしかしたら自分以外が担うことのできる仕事があるのではないでしょうか。マネジメントを最優先において、その他の仕事の優先度を下げることで、本当に自分でなければできない仕事かどうかが見えてきます。また、自分にしかできなかった仕事を担う人が増えることで、担い手の成長や組織の拡大にもつながります。そういった職場を目指すことはとても重要です。

それは、「自分の将来の見込みが立たなかったため」「収入が少なかったため」「他に良い仕事・職場があったため」といった主要な退職理由に対応するためにも大切なことになります。担える業務が増えることで収入も増えていくというキャリアパスを組織内に作ることで、成長意欲や組織への帰属心も高まります。

 

4.キャリアパスは適正な運用を

特に、キャリアパスにつきましては、処遇改善加算のキャリアパス要件を満たすために整備されているところも多いかと思います。まず、処遇改善加算自体が、キャリアパス要件等の未整備により取り切ることができていなければ、まずはそこがとても大きな痛手であると考えてください。これらはきちんと職場に整備し、処遇改善をしっかりと職員におこなうことができる体制を目指しましょう。

また、キャリアパスを整備していく上で重要なのは、自社にとって合っているかという点と、職員に認められているかという納得感です。現在は書籍やインターネットから、各種制度に関する参考例やひな形などを取得することもある程度は容易になりました。しかし、そこで大きな課題となってくるのが、そういった制度で評価できるのは一般化された介護の内容のみとなり、自社で目指している介護の内容まではフォローができないという点にあります。

例えば入浴介助であれば、導入している機器や利用者の要介護度の傾向、事業所の基本的方針など、複数の要素をクリアした上で実施されるのが自社で職員に求める入浴介助になります。しかし、一般化された内容では、基礎的な事項を除けばこれら全てを満たすには限界があります。ある程度カスタマイズされた、オリジナルの基準を設定することが必要になるでしょう。

職員に認められているか、ということも重要です。例えば、オリジナルの制度を職員含むワーキンググループを組織しディスカッションしながら作るか、それとも上層部が一方的に決めた内容を現場に伝えるのかでは、納得感が大きく異なるであろうことはご理解いただけるかと思います。また、評価が「1~5」「AE」といった段階評価になっていて、それぞれの段階ごとの厳密な定義がされていないという場合、評価をする側もされる側も基準が不明瞭なことから、評価に納得感を得にくいというデメリットがあります。これらを加味するとキャリアパスを整備する際は、職員と共同で、できるだけわかりやすく、そしてオープンにすることが重要だと感じていただけるかと思います。

 

職員の退職は介護事業所において大きな痛手です。それを未然に防ぐための施策は、いくら実施してもやり過ぎということにはなりません。またそのこと自体を経営者だけの問題とせず、職員一丸となって取り組んでいく気持ちと体制が重要です。本稿が皆様の事業所における職員定着率の向上に、少しでもお役に立てますと幸いです。

 


[ⅰ] http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2022r01_chousa_jigyousho_kekka.pdf

[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/22-2/index.html

[ⅲ] http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2022r01_chousa_cw_kekka.pdf

株式会社スターパートナーズ代表取締役  一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表  MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路