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介護報酬改定の議論が本格的に開始

2023.07.24

【目次】

  1. 令和6年度介護報酬改定の議論が開始
  2. 改定の大まかな流れを振り返る
  3. 6年ぶりの医療介護同時改定に向けて

 


1.令和6年度介護報酬改定の議論が開始

6月28日に厚生労働省主催の「第218回社会保障審議会介護給付費分科会」が開催されました。この日は「1.令和6年度介護報酬改定に向けて」、「 2.令和4年度介護従事者処遇状況等調査の結果について」、「3.令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(報告)」の大きく3つのテーマに関して議論されました[]

「1.令和6年度介護報酬改定に向けて」では定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護の5サービスについての議論が開始となりました。

5月24日に先立っておこなわれていた「第217回社会保障審議会介護給付費分科会」の「令和6年度介護報酬改定に向けた今後の検討の進め方について(案)」にて示されたスケジュール案の通り、来年の改定に向けて、6月~夏頃 に主な論点について議論、9月頃 に 事業者団体等からのヒアリング、1012 月頃 に具体的な方向性について議論を進め、12 月中に:報酬・基準に関する基本的な考え方の整理・とりまとめをおこなうという流れになっています[]。ですので、現在はどういった論点で報酬改定を議論するかについて、整理している段階と言えます。

サービス別の論点はそれぞれの資料にまとめられています。

 

218回社会保障審議会介護給付費分科会資料より[]

 

定期巡回・随時対応型訪問介護看護および夜間対応型訪問介護については、機能・役割や、これまでの介護報酬改定における対応等を踏まえ、両サービスの将来的な統合・整理に向けての検討、定期巡回・随時対応型訪問介護看護については、限られた人材を有効に活用しながら、効率的なサービス提供を可能とする方策の検討が論点として示されました。サービスの統合や、人員配置の弾力化等が議論の本筋になりそうです。

小規模多機能型居宅介護および看護小規模多機能型居宅介護については、中重度者や医療ニーズの必要な要介護者が在宅での生活が継続できるよう支援することを目的として創設されたサービスであることを踏まえ、安定的にサービスが提供されるための方策に関する検討が論点として示されました。小規模多機能については、前回改定でも認知症行動・心理症状緊急対応加算の創設や登録者以外のショート利用等、より柔軟な運営をするような改定がおこなわれています。今回も同様に、より柔軟な利用を推進する様な改定がなされるのではないでしょうか。

認知症対応型共同生活介護については、医療ニーズへの対応の更なる強化、 介護人材の有効活用といった論点が示されました。これについても、前回改定の流れをくむものといえるでしょう。

いずれも、まだ論点が示された程度ではありますが、前回改定の流れを引き続きくんでいるという印象です。介護報酬改定そのものは、ただその年の議論だけを切り出してみるのではなく、それまでの長い期間の過程があってこそ進んでいくものであると、改めて確認することができます。

 

2.改定の大まかな流れを振り返る

先述の「令和6年度介護報酬改定に向けた今後の検討の進め方について(案)」では、令和3年度介護報酬改定では、新型コロナウイルス感染症への対応の必要性を踏まえ「1.感染症や災害への対応力強化」、「2.地域包括ケアシステムの推進」、「3.自立支援・重度化防止の取組の推進」、「4.介護人材の確保・介護現場の革新」、「5.制度の安定性・持続可能性の確保」の5つのテーマを柱に改定をおこなったと言及しています。

 

217回社会保障審議会介護給付費分科会資料より[]

 

その上で、令和6年度介護報酬改定に向けては、診療報酬との同時改定であることや新型コロナウイルス感染症への対応の経験等を踏まえて、「1.地域包括ケアシステムの深化・推進」、「2. 自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進」、「3. 介護人材の確保と介護現場の生産性の向上」、「 4.制度の安定性・持続可能性の確保」の4つの柱をテーマにすることを提言しています。

「1.地域包括ケアシステムの深化・推進」では、認知症施策や医療連携、ケアマネジメントに関する分野になります。今回は特に医療介護の同時改定となりますので、議論の中心を担うのではないでしょうか(後ほど「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(報告)」で触れさせていただきます)。また、大きなテーマでいうと、ケアプランの有料化については、今回の改定ではいったん見送りという形になった点などが挙げられます。

「2.自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進」については、前回改定の「自立支援・重度化防止の取組の推進」から「質の高い介護サービス」という要素が追加されています。これは、前回改定より開始された科学的介護において現在データが不足しており、それら正しく収集・分析した上でLIFEからのフィードバックに反映させ質の高い介護の提供を可能にすることで、自立支援・重度化防止の実現につながるという考えに基づいています。データ収集・分析をどの様におこなうかが主要な論点となりますので、科学的介護やアウトカム系の加算については大きな変革は先送りになるのではないかと考えます。ただ、リハビリテーションや口腔ケア、栄養に関しては引き続き議論が続いており、特に口腔、栄養に関しては近年も推進の流れが続いておりますので、また何らかの動きはある可能性はありそうです。

「 3.介護人材の確保と介護現場の生産性の向上」も注目のテーマになりそうです。今回の介護給付費分科会でも「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」が報告されており、介護職員の処遇改善に関して議論が交わされています。これについては引き続き検討がおこなわれるでしょう。また、加算未算定の理由について「計画書や実績報告書の作成が煩雑」といったことが挙げられていることから、作業の簡易化のための何らかの施策について議論が進められることも考えられます。生産性の向上については、介護ロボット等の活用を推進するための施策を評価する仕組みがかなり高い確率で設けられるでしょう。今後の議論に注目していきたいところです。

「 4.制度の安定性・持続可能性の確保」については、自己負担の見直しや、同一建物減算の更なる強化等が議論の中心となりそうです。また、前回改定で議論にあがった、一部サービスの包括報酬化(月額)も、改めて議論されるかも知れません。

 

3.6年ぶりの医療介護同時改定に向けて

 

前回改定と異なる点は、6年ぶりの診療報酬・介護報酬の同時改定であるという点です。これについては、中央社会保険医療協議会において「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」が開催され議論された内容をまとめたものが「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会における主なご意見」として、「第218回社会保障審議会介護給付費分科会」の資料となっています。

テーマは「1. 地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携」、「2. リハビリテーション・口腔・栄養」、「3. 要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療」、「4. 高齢者施設・障害者施設等における医療」、「5. 認知症」、「6. 人生の最終段階における医療・介護」、「7. 訪問看護」、「8. 薬剤管理」、「9. その他」の9つ挙げられています。議論が多岐に渡るので特に介護報酬改定の方向性を読み解く上で重要となりそうな議論をいくつかピックアップします。

「1. 地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携」においては、ケアマネジャーがより医療情報や医師の意見を活かすことのできる体制をつくることについて言及されています。それには、ケアマネが医療的な知識をより高めることよりも、主治医との連携を強化することがより重要であるとされています。これらを推進する様な動きがあるのではないでしょうか。

「4. 高齢者施設・障害者施設等における医療」においては、先般議論に上がってきた特別養護老人ホームの配置医師について「協力医療機関との関係性を含め、要介護者に適した緊急時の対応、入院・医療についてのルール化、医療・介護の連携の制度化を進めていくべき」とされています。この辺りの対応の評価等が、新しく創設される可能性はあるのではないでしょうか。後段ではより具体的に「高齢者施設から医療機関へ受診・入院する際に混乱が見られる。とにかく救急車で運んで急性期の病院に行こうという行動が一部見られるが、これは医療資源の使い方及び本人・家族にとってよくないことだろう。医師あるいは特定行為の看護師の助言・判断を、高齢者施設の職員がリアルタイムで簡単に受けられるような仕組みがあると良いのではないか。」と言及されています。

「7. 訪問看護」では、24時間サービス提供可能な体制を作るために夜間対応の更なる評価や複数事業所が連携し24時間対応体制を確保するための方策について議論が必要としています。また、理学療法士等の訪問看護について「利用者にどのようなケアを提供していく必要があるのか、訪問看護の実施・評価・改善を一体的に管理していく必要がある」としています。前回改定では、人員配置基準に関して、看護職員の割合を6割以上と設定してはどうかといった議論があり、実際にはそうならなかったものの、類似の議論が再度おこなわれる可能性はあるかも知れません。

 

議論はまだ開始したばかりであり、具体的な内容が鮮明になってくるのは秋以降とはなりますが、現段階で、どの様な流れでこれまでの報酬改定がおこなわれてきたかも含めて情報を整理することで、今後の対応についても検討ができるかと思います。適宜、当コラムでも情報をお伝えしていければと思います。

 


[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33719.html

[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001099978.pdf

株式会社スターパートナーズ代表取締役  一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表  MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路