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ロボットとDXを使って薬剤師の未来を拓く
2023.07.31
講演採録「ロボットとDXを使って薬剤師の未来を拓く」
第10回コミュニティファーマシーフォーラム「未来薬局×ロボット調剤」より
7月23日、一般社団法人日本コミュニティファーマシー協会(吉岡ゆうこ代表理事)が主催する第10回コミュニティファーマシーフォーラムが開催された。フォーラムのテーマとして「未来薬局×ロボット調剤」が掲げられている通り、薬局薬剤師の業務、職能に関連したIT分野の最新事情について様々な講演が行われた。
本稿では、フォーラムの演題の中から神戸市立医療センター中央市民病院院長補佐の橋田亨氏による特別講演『ロボットとDXを使って薬剤師の未来を拓く』を紹介したい。
【目次】
- 病院でのタスク・シフティング
- ロボット調剤導入
- RPA(Robotic Process Automation)を用いた業務効率化
- ファーマシスト・サイエンティストへの期待
- MIPD(Model-informed precision dosing)を活用した薬物治療支援
1.病院でのタスク・シフティング
橋田氏は神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部での取組みを紹介するにあたり、まず「デジタル改革とタスクシフト」を推進していることに触れた。
デジタル改革としては、ロボットやIoT技術を活用し、薬剤業務の効率化と安全性の向上を目指している。そして、薬剤業務の効率化により生まれた時間を使って医師や看護師の負担軽減につながるタスク・シフティングを実施する。そのために、薬剤師が実際に行っている業務を見える化し、情報の共有と透明性を向上させて病院全体で活用するという考え方を説明した。
2.ロボット調剤導入
薬剤部では2011年に注射薬の取り揃えから投与までのデジタル化・ロボット化を行なった。一連の流れとしては、ロボットが注射薬の払い出しを行い、薬剤師が監査した後でロボットがベッドサイドまで運ぶ。投与時もIoTを活用し、患者や薬剤の間違いがないことを確認しているという。
そして、2017年には抗がん剤調製ロボットを導入。ロボットの操作は非薬剤師が担い、全体の確認を薬剤師が行うフローとなっており、現時点において抗がん剤調剤件数のうち41%をロボットが行っている。
2021年には、調剤室をロボット化した。錠剤・外用剤のうち8割がロボットの中に組み込まれ、自動ピッキングと在庫管理をロボットに任せているという。
ロボット調剤の導入前後をデータで比較すると、調剤エラーが86.7%減少、規格違いや他薬の調剤件数は0、薬剤師の作業時間は処方せん1枚当たり60秒から約20秒に短縮したことが分かる。
3.RPA(Robotic Process Automation)を用いた業務効率化
院内全体でもDX化をすすめており、事務的な操作や電子カルテの操作など定例的なコンピュータ作業をソフトウェアにより自動化している。各部署において、「シナリオ」と呼ばれる自動化ワークフローを動作させており、薬剤部でも7本のシナリオを実行している。
例えば、抗がん剤や免疫抑制剤を使っている患者は定期的にB型肝炎の検査を行う必要があるが、医師が見落とす可能性もあるため薬剤師による調剤前チェックが必要だった。このプロセスをIoT化したことにより、業務が効率化された。
薬剤師がどのような業務に時間を使ったかを集計した「タイムスタディ結果」によると、病棟業務が32.2%と最も多いという結果が出た。また、注意が必要な薬を使っている患者の検査値確認やインタビューを診察前に行い、事前に処方提案するなどの外来業務に7.6%使えていることが分かった。
このように薬剤師であることが必要な業務に時間が使えているのは、薬剤師以外のスタッフがロボットオペレーションを行っているためであると説明した。
4.ファーマシスト・サイエンティストへの期待
薬剤師のマンパワーをどこに使うのが有用かという問題について、1つは前述の病棟業務や薬剤師外来などが挙げられ、もう1つの活用方法として薬学の専門家(ファーマシスト・サイエンティスト)としての活躍が挙げられる。
ファーマシスト・サイエンティストとは、臨床の現場にいながら、医療の発展に向けた研究者としても活躍できる薬剤師のことをいう。
具体的には、電子カルテ等の情報から薬学的専門性に基づいた介入方法を検討・提案して、介入の効果を評価する。得られた成果を医師と協働で作成したプロトコールに反映して、新たな薬剤業務として実施する。実施する中で医療現場における課題を見出す…というサイクルで、実臨床における医療薬学を実践することであると示した。
研究は大学と連携して行うこともある。大学では、臨床の問題点を解決するための基礎的な研究の他に、キットがまだ作成されていない最新の薬剤において患者の血中濃度を測定し、薬物動態を解析する研究などが行われている。
実際に重症患者のコロナ治療薬として使用されたアビガン(一般名:ファビピラビル)の血中濃度推移を測定したデータを示し、経管投与したアビガンの血中濃度は抗ウイルス作用を発揮するために必要な濃度を下回っていることが明らかになったと説明した。
5.MIPD(Model-informed precision dosing)を活用した薬物治療支援
橋田氏は、医療DXにより得られた既存の母集団データや臨床データは、異なる集団(体の大きさや腎機能・肝機能の違いなど)に対する新しい治療指針や新しい臨床研究のデザイン、個々の患者の投与設計に使えると紹介した。
医療DXとロボット調剤によって薬剤師としての新しい仕事、薬学の新しい医療への貢献が見えてくる。そのうえで、院内の電子カルテがロボット調剤に不可欠だったように、電子的に使える処方情報が普及すると飛躍的に物事が進むのではないかと橋田氏は述べ、講演を締めくくった。
筆者:株式会社エニイクリエイティブ MIL編集部