- 医科
- #新薬情報
【押さえておきたい新薬情報】アトピー性皮膚炎の第4の外用薬(PDE4阻害薬)
2023.08.07
この記事は…
大学病院で医薬品情報を担当していた薬剤師が、年に4回承認される新薬のなかから話題の新薬をピックアップ。その特徴や作用機序、必ず押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。
2022 年 6 月、アトピー性皮膚炎の新たな外用薬として、モイゼルト®軟膏(一般名:ジファミラスト)が発売されました。PDE(ホスホジエステラーゼ)4阻害薬は、経口薬として乾癬治療薬のオテズラ®錠(一般名:アプレミラスト)がありますが、外用薬としては国内初となります。
アトピー性皮膚炎(AD:アトピック・デルマタイティス)は外用薬による治療が基本で、治療目標として炎症や掻痒を速やかに鎮静する「寛解導入」と、症状が安定している状態を保つ「寛解維持」があります。強力な抗炎症作用があるステロイド外用薬は、寛解導入の第一選択薬になります。長期連用により、顔の赤み(毛細血管拡張)や皮膚が薄くなる(皮膚萎縮)などの副作用があり、顔面等にはミディアム(Ⅳ群)以下が推奨されます。免疫抑制薬のプロトピック®軟膏(一般名:タクロリムス)は分子量が比較的大きく、正常な皮膚からは吸収され難いという利点があります。ステロイドのような切れ味はありませんが、経皮吸収の良い顔面や頚部の難治な皮膚炎には有用です。皮膚の厚い体幹や四肢では効力が落ちます。炎症の急性期に使用すると高頻度に灼熱感等が発現し、びらんや潰瘍面には使用できません。2020年に発売されたヤヌスキナーゼ(JAK:通称ジャック)阻害薬のコレクチム®軟膏(一般名:デルゴシチニブ)は、低分子薬で吸収も良好です。安全性が高く、皮膚刺激感はほとんどありません。アトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏と並び、標準治療の1つに位置付けられています。
第4の外用薬として登場したモイゼルト®軟膏は、低分子薬で透過性にも優れ、副作用の少ない薬です。プロトピックやコレクチムと違い、使用量に上限がありません。PDE4は顆粒球、リンパ球、マクロファージなどの免疫細胞に存在し、炎症性サイトカインを調節しています。細胞内セカンドメッセンジャーであるcAMP濃度が低下すると、炎症性サイトカインが増加し、抗炎症性サイトカインは減少して、炎症などの過度な生体反応を引き起こします。ADでは、cAMP濃度が低下し、炎症性サイトカインが過剰となっています。作用機序は、cAMPを分解するPDE4を選択的に阻害することで、cAMPの濃度を増加させて、アトピー性皮膚炎の炎症を抑えます。ガイドラインによる評価はこれからですが、ステロイドからの切替薬として、寛解維持期に有用な選択肢になると期待されます。免疫細胞に作用するため、毛包炎やざ瘡などの皮膚感染症には注意をします。
商品名 |
モイゼルト®軟膏0.3%、1% |
一般名 |
ジファミラスト |
会社名 |
大塚製薬 |
薬効分類名 |
ホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害薬 |
効能・効果 |
アトピー性皮膚炎 |
用法・用量 |
成人には1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布する。 |
妊婦 |
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、投与しないことが望ましい |
小児等 |
2歳未満の幼児を対象とした臨床試験は実施していない |
副作用 |
色素沈着障害、毛包炎、そう痒症、膿痂疹、ざ瘡、接触皮膚炎 |
薬価 |
0.3%1g142.00円、1%1g152.10円 |
使用に際しては、添付文書を必ずお読み下さい。
PDE4阻害薬(モイゼルト軟膏)の作用機序
アトピー性皮膚炎治療薬(外用薬)
商品名(一般名) |
分類 |
小児 |
主な副作用 |
フルメタ軟膏、他 |
ステロイド |
2歳未満 |
皮膚萎縮、毛細血管拡張 |
プロトピック軟膏、同小児用、他 |
カルシニューリン阻害薬(免疫抑制薬) |
2歳以上
|
熱感、疼痛、そう痒感 |
コレクチム軟膏 |
JAK阻害薬 |
2歳以上 |
毛包炎、ざ瘡、刺激感 |
モイゼルト軟膏 |
PDE4阻害薬 |
2歳以上 |
色素沈着障害、毛包炎 |