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外国人介護士の今後

2023.08.14

【目次】

  1. 外国人介護士受け入れの背景
  2. 外国人人材受け入れ制度の転換期
  3. 外国人介護人材の業務の在り方で検討されるもの


 

1.外国人介護士受け入れの背景

7月24日に厚生労働省にて「第1回外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」が開催されました。[]。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、一時的に下火になっていた外国人介護士の受け入れですが、同感染症の5類感染症への移行や全体的な感染の鎮静化により、再び話題に上ることが増えてきていました。

介護現場における外国人人材の交流は、民間のものを除けば、経済連携協定(EPA)に基づく外国人介護福祉士候補者の受入れから大規模に開始しました。EPAの目的は「日本と相手国の経済上の連携を強化する観点から、公的な枠組みで特例的に行うもの。(労働力不足への対応が目的ではない)」というものであり、受入対象者も、看護学校卒業者、又は四大卒業者であり母国での介護士資格認定者でなければならないという限定的なものでした。外国人介護士の受入が更に大きな広がりを見せるきっかけとなったのが、平成2911月に介護分野が解禁された技能実習制度でした。

技能実習制度は、開発途上国等の外国人を日本で一定期間受け入れ、OJTを通じて技能を移転する制度です。介護分野も技能移転の対象とすることで、日本式の介護を学ぶことを目的として、日本の介護現場で働く外国人人材が一気に増えました。

 

外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会 基礎資料より[]

 

解禁翌年の平成30年から受け入れが開始し、その翌年には認定件数が5倍に膨れ上がり、翌年もさらに増加、新型コロナウイルス感染症の影響がなければ、その後も増加を続けていきそうな勢いでした。

更に、平成31年には深刻化する人手不足への対応として在留資格「特定技能」が創設され、介護分野も対象になりました。「特定技能」は生産性の向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野に限り、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるというものになります。

技能実習制度が、技能移転を目的として来日する方に向けた制度であるのに対し、特定技能は一定の技術と日本語能力について、技能試験をクリアすれば在留資格を得ることができるという制度です。これは結果として、新型コロナウイルス感染症の影響を受け帰国が困難となった在日外国人労働者の受け皿となり、令和3年度以降減少した技能実習生の認定件数に比べ、その後も増加することとなりました。

 

外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会 基礎資料より[]

 

2.外国人人材受け入れ制度の転換期

そういった背景もある中、今年の5月に法務省より「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の中間報告が公表されました。この会議は、両制度の施行状況を検証し、課題を洗い出した上、外国人材を適正に受け入れる方策を検討するというもので、昨年の12月より複数回に分けて実施されてきたものでした。

「技能実習制度を廃止する」というニュースを耳にされた方もいらっしゃるかと思いますが、その提言がなされたのが、この会議においてでした。正確には「制度目的と実態を踏まえた制度の在り方」というテーマにおいて、人材育成を通じた国際貢献という従来の目的に対し「現行の技能実習制度は廃止して人材確保と人材育成(未熟練労働者を一定の専門性や技能を有するレベルまで育成)を目的とする新たな制度の創設(実態に即した制度への抜本的な見直し)を検討」すること、及び「特定技能制度は制度の適正化を図り、引き続き活用する方向で検討し、新たな制度との関係性、指導監督体制や支援体制の整備などを引き続き議論」するという提言によるものです[]

 

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 中間報告書より[]

 

新型コロナウイルス感染症も落ち着きつつあり、制度の開始から数年が経過しそれぞれの実態や課題が見えてきたタイミングで、制度の見直しをおこなうという形になるものでした。いわば、外国人人材を日本に受け入れる上で、新たな転換期を迎えているということができるでしょう。冒頭の「第1回外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」は、特に介護分野における制度の見直しについて「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」を念頭に検討していこうという位置づけのものとなっています。

 

3.外国人介護人材の業務の在り方で検討されるもの

 

介護分野における外国人人材の固有要件について、何が論点になっているのかは「検討に当たっての考え方・検討事項(案)」にまとめられています[]。この中では「検討に当たっての基本的考え方」が示されており、「将来、介護人材不足が見込まれる中で、必要な介護サービスを安心して受けられるよう、介護人材を確保することは重要な課題であり、外国人介護人材の確保・定着及び受入環境の整備を図ることが必要」とされています。こと介護分野においては、将来的な人材不足に対応するための施策として、外国人人材に大きく比重が置かれていることがうかがえます。先の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 中間報告書」では、外国人人材に対する中長期的なキャリアパスの構築や、日本語能力の向上の取り組みの必要可能性について言及されていましたが、こういった面でさらなる手厚さが求められるようになる可能性もあるでしょう。

また、「外国人介護人材については、介護が対人サービスであること等、業務の特性を踏まえた要件を設定しているところ、介護現場からは外国人介護人材の業務拡大を望む意見がある」ともされており、どちらかというと規制緩和の可能性を念頭に議論が進んでいくということが示されています。議論のテーマに挙がっているものについては、導入される可能性も十分にあるのではないかといえると考えられます。

テーマは「Ⅰ 訪問系サービスなどへの従事について」、「Ⅱ 事業所開設後3年要件について」、「Ⅲ 技能実習「介護」等の人員配置基準について」の大きく3つが挙げられています。

「Ⅰ 訪問系サービスなどへの従事について」は、これまで制限されてきた訪問系サービスへの外国人人材の従事について、それらの施設における外国人人材の受入の可否について改めて議論するというものになります。主要なものとしては訪問介護が真っ先に念頭にくるかと思いますが、その他にも、小規模多機能型居宅介護における訪問サービスや、創設が検討されている訪問・通所を一体的に提供する新サービスにおける訪問業務等、その他のサービスにも影響を及ぼすものになります。

但し、従来の特定技能においても「一定期間(6ヶ月間)、他の日本人職員とチームでケアに当たる等、受け入れ施設における順応をサポートし、ケアの安全性を確保するための体制をとることを求める」こととされているため、訪問サービスにおいてもこれと同等かこれよりも更に厳しい条件が適用される可能性があるかもしれません。

「Ⅱ 事業所開設後3年要件について」は、受入施設について、経営が一定程度安定している事業所として設立後3年を経過している事業所が対象となっているものについて、この期間を変更するのはどうかという議論になります。これは主に技能実習を想定した議論であり、技能実習制度を廃止することを念頭に、その要件を緩和するという議論になります。このとき、議論の対象となるのは「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 中間報告書」において言及されていた、育成対象となる「未熟練労働者」になると思われます。その定義がどうなるかによっても、この議論の結論はまた変わってくるでしょう。

「Ⅲ 技能実習『介護』等の人員配置基準について」も、同様に「未熟練労働者」に関する議論になると思われます。議論の主題は「技能実習『介護』等において、就労開始後6ヶ月を経過した者について、介護技能や業務に必要な日本語能力がある程度向上することなどの理由により、介護施設の人員配置基準に算定しているが、その取扱いについてどう考えるか」と設定されています。これも同様に「未熟練労働者」の定義によって左右されることになると思われますが、特定技能に含まれる様な形になるとすると、認められる可能性もある程度高いのではないかと考えています。

 

以上の様に、介護分野における外国人人材の在り方について、いま大きくその制度が変わる流れとなってきています。中長期的な人材不足が懸念される介護サービスにおいては、外国人人材の現場での活躍が今後なくてはならないものになっていくでしょう。その制度の変化に注目し、自事業所では今後どの様に対応していくか、一度検討されてみてはいかがでしょうか。

 


                                                                            

[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34303.html

[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001123771.pdf

[ⅲ] https://www.moj.go.jp/isa/content/001395647.pdf

[ⅳ] https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001123772.pdf

株式会社スターパートナーズ代表取締役 一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表 MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路