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介護報酬改定主要テーマに関する議論が開始

2023.09.25

【目次】

  1. 介護報酬改定に関する議論が本格化
  2. 「認知症への対応力強化」
  3. 「医療・介護連携、人生の最終段階の医療・介護」
  4. 「新しい複合型サービス」
  5. その他の議論


1.介護報酬改定に関する議論が本格化

8月30日に第222回社会保障審議会介護給付費分科会が開催されて以降、98日に第223回、915日に第224回が開催されました。

議題についても、これまでサービス種別ごとの論点の整理が中心であったところから「地域包括ケアシステムの深化・推進」「自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進」「介護人材の確保と介護現場の生産性の向上」といった、今後の介護保険制度の主要テーマが中心となってきました。秋口に入ってから、令和6年度介護報酬改定に関する議論がいよいよ本格化してきたといえるでしょう。

こと「地域包括ケアシステムの深化・推進」については、第222回、第224回でそれぞれ議論されています。議題を更に細分化すると、「認知症への対応力強化」「医療・介護連携、人生の最終段階の医療・介護」「新しい複合型サービス」といった内容が主要テーマとなっています。今回は「地域包括ケアシステムの深化・推進」にフォーカスして、上記のテーマを中心に、主要な議論について解説していきたいと思います。

 

2.「認知症への対応力強化」

「認知症への対応力強化」についてのポイントは、LIFEと連動した認知症の方の行動・心理症状への対応や、中核症状を含めた評価の検討です。ADLの維持向上や褥瘡ケア等、LIFEの導入に前後して様々なアウトカム評価が導入されている中で、認知症ケアに対する評価は、そのほとんどがストラクチャー(人員配置等の体制)の評価のみにとどまってきました。今後、認知症の方への介入のプロセスや、LIFE項目の改善等のアウトカムが評価される可能性はあるのではないかと考えています。

参考の1つとして引用されている「BPSDの予防・軽減等を目的とした認知症ケアモデルの普及促進に関する調査研究」では、「BPSDの客観的評価」「全人的アセスメント」「PDCAサイクルで繰り返すチームアプローチ」の3つの要素に準じたケアの取り組みを評価しています。結論としては、「尊厳を保持し個別性を重視したその人らしい暮らしを支えるケア」を行うことでBPSD項目の点数が維持または、改善およびQOLの向上が見込めるというもの、また、BPSD25Qshort QOL-Dといった尺度を用いてBPSD評価をおこないPDCAサイクルによるチームアプローチは日常のケアやBPSDの軽減・再発防止に役立つという結果になりました。

 

「認知症への対応力強化」[]

 

論点についても「事業所・施設等における体制構築強化に向けて、どのような方策が考えられるか」「認知症の認知機能・生活機能に関する評価尺度について、今後、介護現場においてどのような活用が考えられるか」といったことが挙げられています。認知症ケアの体制の評価、および認知症の状態の評価尺度の検討が、主要なテーマとなるでしょう。

 

3.「医療・介護連携、人生の最終段階の医療・介護」

「医療・介護連携、人生の最終段階の医療・介護」のテーマに関しては、診療報酬・介護報酬同時改定も見据えた、総合的な議論がなされています。議論が広範囲にわたるので、資料の「現状と課題」「論点」をまずは確認し、そのポイントを把握するのが良いでしょう。ポイントをピックアップすると、介護保険施設において「地域の医療機関と中身のある連携体制を構築すべき」といった指摘や、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の実践やそれを推進するための連携の在り方の模索等が、議論の中心となってきそうです。

地域の医療機関との連携については「名前だけの協力医療機関ではなく 、地域包括ケア病棟や在支病 、有床診など地域の医療機関と、中身のある連携体制を構築するべき」「医師あるいは特定行為の看護師の助言・判断を、高齢者施設の職員がリアルタイムで簡単に受けられるような仕組みがあると良いのではないか」といった「同時報酬改定に向けた意見交換会」における意見が、「医療・介護連携、人生の最終段階の医療・介護」の資料にも掲載されています[]。後述の「感染症への対応力強化」においても、感染症対応を目的として、医療機関との連携を強化し適切な支援や助言を受けられる体制を構築することを評価するべき、という議論がされています。

医療機関から直接助言や支援を受けることができる等、より密接なコミュニケーションや連携体制を構築していくことが、今後、評価されていくという流れになるのではないでしょうか。また、資料内には、連携している医療機関の数や種別に関する調査も掲載されています。まだ方向性については断言することはできませんが、これらが評価の一要素となりえる可能性もあるかもしれません。

「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に関する議論については、近年、看取りをおこなう介護施設が増加してきている背景を踏まえたものとなります。現在、看取りに関する加算の算定要件として、当ガイドラインの実践が位置付けられている形となっていますが、実際にガイドラインに基づいた対応をおこなえている施設の割合というのは、サービス種別によってばらつきがある点が指摘されています。

 

「医療・介護連携、人生の最終段階の医療・介護」[]

 

これについては、将来的に原則化される等、より強く推進される可能性も考えられます。例えば、運営基準上に位置付けられ、未実施に対する減算が実施されるなどの場合です。あくまで仮説ではありますが、求められている流れを考えると、現在、実施できていない施設も、将来的な実践の準備を進めておく必要があるのではないでしょうか。

 

4.「新しい複合型サービス」

「新しい複合型サービス」は、令和6年度介護報酬改定における最も大きなテーマの1つとなります。その趣旨は「単身・独居や高齢者のみの世帯の増加、介護ニーズが急増する大都市部の状況等を踏まえ、柔軟なサービス提供によるケアの質の向上や、家族負担の軽減に資するよう、地域の実情に合わせて、既存資源等を活用した複合的な在宅サービスの整備」するというものです。

当新設サービスが、訪問や通所サービスを複合したものになるであろうことは周知のところですが「柔軟なサービス提供によるケアの質の向上」や「既存資源等を活用した複合的な在宅サービス」である点がポイントとなります。全く新しいサービスが展開されるということよりも、既存サービスに新たな要素や柔軟性を付加することで、地域における介護資源の拡充を目指すというところが趣旨になると見て良いでしょう。

そのメリットとして期待されているところは、かなり具体的に絞り込まれており、下記のスライドにもある通り「訪問サービスと通所サービスを通じて、切れ目のないケアを受けることができる」「通所で明らかになった利用者の課題を訪問でフォローするなど、より質の高いサービスが受けられる」「キャンセル時にサービス内容を切り替えるなど、状態の変化に応じた柔軟なサービスが受けられる」といったものになっています。

 

「新しい複合型サービス」[]

 

訪問および通所サービスの連携をより高めてケアの質を向上させるとともに、キャンセルや利用変更等の対応をより簡略化できることが期待されています。

また、資料では訪問介護事業所や訪問介護員の不足についても言及されています。

 

「新しい複合型サービス」[]

 

複合的にサービスを運営することでマンパワーのより効率的な活用を図り、訪問サービスにおける人材不足へ対応するという狙いもみることができます。小規模多機能型居宅介護の様に、一体的にサービスを提供する中で、必ずしも訪問スタッフに資格が求められないケースもあります。今後の議論も待たれるところではありますが、人員要件についても、ある程度緩和されたものとなるのではないでしょうか。

 

5.その他の議論

「地域包括ケアシステムの深化・推進」では、上記の他にも「感染症への対応力強化」「業務継続に向けた取組の強化等」といったテーマで議論が実施されています。この2つのテーマについては、前回改定では大テーマの1つとして設定されていましたが、今回改定では「地域包括ケアシステムの深化・推進」の中に含まれることとなりました。

「感染症への対応力強化」については、新型コロナウィルス感染症の蔓延を受けて、前回改定では施設サービス以外にも、感染症対策に関する委員会の開催、指針の整備、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等が経過措置期間付きで義務付けられました。今回の議論では、より効果的な感染症対策を実施することを目的に、医療機関との連携を強化し適切な支援や助言を受けられる体制を構築することを評価するという意見も出ています。これは、介護報酬上に加算等の形で盛り込まれる可能性が高いのではないでしょうか。

 

「感染症への対応力強化」[]

 

また、直接の介護報酬改定の議論からは逸れますが、冬の感染拡大に備え、高齢者施設等における施設内療養に関する支援の形についても議論されています。10月以降、補助単価や評価期間の見直し等、やや支援内容は緩和されることになりそうですが、体制そのものは来年の春までは継続する見通しとなっています。

「業務継続に向けた取組の強化等」については、業務継続計画の策定や研修、訓練(シミュレーション)の実施が経過措置期間を設けた上で義務付けられたところです。議論の進展は本格的な運用が始まる来年度以降になるとは考えられます。ただ、現時点でも、努力義務である近隣住民との連携について、「防災訓練に地域住民が参加している割合は『9.2%』であった」という調査結果が示されており、資料の「現状と課題」でもその点について触れられています。今後、整備そのものの推進以外にも、地域連携が求められることになっていく可能性もあるでしょう。

 

以上、大枠ではありますが最新の議論についてまとめさせていただきました。他、今回より以前の審議会においてですが、小規模多機能型居宅介護に関して、利用が進まない背景の1つとして「利用者が現在のケアマネジャーを変えたくなかった」点が審議会資料に挙げられており、小規模多機能におけるケアマネジメントを居宅介護支援事業所も担当できるようにするか、その在り方についても議論の俎上に上がる等、大枠に加えてサービス別の仔細な議論も、徐々に出てきています。

介護報酬の改定は、大きな方向性を捉え、対応していくことが重要となります。認知症ケアで今後重視される点、感染症対策に係る医療機関との連携等が「地域包括ケアシステムの深化・推進」のポイントになると考えていただけると良いかと思います。

今後も、議論の進捗を追いながら、ポイントを抑えて解説をさせていただければと思います。

 


                                                                  

[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001140075.pdf

[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001140076.pdf

[ⅲ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001140077.pdf

[ⅳ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001146551.pdf

介護報酬改定主要テーマに関する議論が開始

株式会社スターパートナーズ代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表

MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路