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【押さえておきたい新薬情報】腎性貧血治療薬(HIF-PH阻害薬)マスーレッド錠

2023.10.10

この記事は…

大学病院で医薬品情報を担当していた薬剤師が、年に4回承認される新薬のなかから話題の新薬をピックアップ。その特徴や作用機序、必ず押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。

2019年11月、世界に先駆けて腎性貧血治療薬(HIF-PH阻害薬)のエベレンゾ錠(一般名:ロキサデュスタット)が発売されました。その後も次々と開発され、2021年4月には、5剤目となるマスーレッド錠(一般名:モリデュスタットナトリウム)が上市されました。  

腎性貧血は、以前は重症例では輸血しか治療法がありませんでした。1990年代にエリスロポエチン(EPO)注射薬が登場すると大きく進歩しました。しかし、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)は、すべて注射剤で、ESA抵抗性を有する患者や注射時の疼痛、高額な薬剤費などの課題も残りました。

ヒトは酸素量が少なくなったときに、順応する仕組みを持っています。アスリートが酸素の少ない高地でトレーニングを行うのは、酸素を運ぶ赤血球を増やし、身体の持久力を高めるためです。2019年、米英の3名の研究者が「細胞が低酸素を感知し、応答する仕組みの発見」によって、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。低酸素状態のときにエリスロポエチン遺伝子を活性化するタンパク質「HIF(低酸素誘導因子)」や酸素濃度に応じてHIFの量を調節する酵素「PH(プロリン水酸化酵素)」を同定した功績です。HIFがHIF -PHの働きで水酸化されると、それを目印にプロテアソームがHIFを分解します()。HIF -PHを抑制すると、酸素濃度に関わらず低酸素応答が活性化されます。HIF-PH(ヒフ・ピーエイチ)阻害薬は、エリスロポエチンの産生誘導だけでなく、赤血球の材料となる鉄代謝の促進作用があります。開始用量は、透析の有無、ESAによる前治療の有無、ESAの投与量等により異なります。また、定期的にヘモグロビン濃度(Hb)を測定する必要があります。相互作用は、鉄剤や下剤などの多価陽イオン含有製剤との併用で血中濃度が大きく低下します(併用注意)。ESA の副作用として、貧血改善に伴う血液粘稠度や血圧上昇が知られています。このため血栓塞栓症や高血圧などの既往症がある人では注意が必要です。さらに、がんや網膜疾患など、血管新生が疾患の増悪に働くような病態では、新たな副作用の可能性も否定できないので、適応の可否を慎重に判断します。なお、日本腎臓学会HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendationでは、「ESA と HIF-PH 阻害薬の併用は想定されておらず行うべきではない」とされています。 

 

商品名

マスーレッド

一般名

モリデュスタットナトリウム

会社名

バイエル薬品

警告

 

本剤投与中に、脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓等の重篤な
血栓塞栓症があらわれ、死亡に至るおそれがある(略)。

適応症

腎性貧血

用法・用量

1日1回食後に経口投与する(8段階で調整)

注意が必要な既往症

脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓、高血圧症、悪性腫瘍、増殖糖尿病網膜症、黄斑浮腫、滲出性加齢黄斑変性症、網膜静脈閉塞症、中等度以上の肝機能障害

妊婦

妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこと

相互作用

多価陽イオン含有製剤、UGT1A1阻害薬など

副作用

血栓塞栓症、間質性肺疾患、網膜出血、血圧上昇、がんの増悪による症状など

薬価

5mg:44.00円、12.5mg:92.90円
25mg:163.80円、 75mg:403.60円

使用に際しては、必ず添付文書をお読み下さい。

HIF-PH阻害薬の作用機序

HIF-PH阻害薬

商品名(一般名)

会社名

用法

相互作用(併用注意)

エベレンゾ錠
(ロキサデュスタット)

アステラス製薬

週3回

多価陽イオン含有製剤
リン結合性ポリマーなど

ダーブロック錠
(ダプロデュスタット)

GSK/協和キリン

1日1回

CYP2C8阻害薬
リファンピシンなど

バフセオ錠
(バダデュスタット)

田辺三菱製薬

1日1回

多価陽イオン含有製剤
プロベネシドなど

エナロイ錠
(エナロデュスタット)

日本たばこ産業/鳥居薬品

1日1回
食前/就寝前

多価陽イオン含有製剤
リン吸着薬など

マスーレッド錠(モリデュスタットナトリウム)

バイエル薬品

1日1回
食後

多価陽イオン含有製剤
UGT1A1阻害薬など

 


筆者:浜田康次 一般社団法人日本コミュニティファーマシー協会理事
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