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薬剤耐性(AMR)対策 最新動向 2023

2023.10.23

薬剤耐性(AMR)とは、抗菌薬の不適切な使用により薬剤耐性菌が増え、抗菌薬が効かなくなることをいう。2019年の全世界でのAMR直接的原因による死者数は127万人、関連死を含めると495万人が亡くなっており、悪性新生物、虚血性心疾患、脳卒中に次いで4番目に多い死因とされ、世界的な脅威となっている。9月にAMR臨床リファレンスセンターが開催したメディアセミナーにて、AMR対策の最新情報がもたらされたので紹介したい。

【演者】

国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター

  1. 薬剤耐性(AMR)対策の最近の動向 … センター長 大曲貴夫
  2. AMR対策アクションプランの更新と今後の展望 … 薬剤疫学室長 都築慎也
  3. AMRサーベイランスの現在地 … 臨床疫学室 室長 松永展明
  4. 情報・教育支援室の取組み … 情報・教育支援室長 藤友結実子


1.薬剤耐性(AMR)対策の最近の動向

 

AMRにより世界で多くの人が亡くなっており、G7でもその対策が重要視されている。

今年開催された広島G7の宣言にもAMRに関する内容があり、2020年のcovid19流行以降止まっている、AMRを含む重要な保健問題への取り組みを再開すると明記した点がポイント。また宣言には、2024年に開催される「AMRに関する国連総会ハイレベル会合」に向けて、抗菌薬の研究開発を加速させ、抗菌薬を慎重かつ適切に使用するための管理を推進していくことも組みこまれている。

 

2.AMR対策アクションプランの更新と今後の展望

 

抗菌薬の適正使用のために、2016年と2023年にAMR対策アクションプランが作成されている。

2016年のアクションプランでは「2020年までに抗菌薬使用量を3分の2に削減する」と掲げられた。結果として目標は達成できなかったが、2013年と比較すると全体の使用量が28.9%減、特に内服の抗菌薬使用量が激減した。2016年以前から不適切な使用を減らす流れはすでにあり減少傾向だったが、アクションプラン導入後に減少傾向が強まったため導入には一定の効果があったといえる。中でも使用量が激減したのはcovid19の流行が始まった2020年である。風邪(上気道感染症)の患者数と抗菌薬の使用量には大きな相関があり、感染対策や行動制限のために風邪の患者数が減ったことが抗菌薬使用量減少に貢献したと推測されている。

外国のデータでは抗菌薬の販売量が2021、2022年に再増加しているが、日本の販売量は減った状態を維持している。ここ3年間の急激な減少がcovid19によるものであれば、今後の使用量や販売量の動向に注意が必要だ。

2023年に作成されたアクションプランでは「2027年までに2020年の抗菌薬使用量から15%減」の目標を掲げている。2020年に大幅な減少があったことを考慮するとかなり意欲的な目標であり、2020年から2022年にかけても減少傾向にはあるが、5年後に達成可能かの見通しは不透明である。

 

3.AMRサーベイランスの現在地

 

2019年に全世界で、AMRが直接的な死亡原因となったのは127万人で、2013年の1.8倍。

AMRは人間の対策だけでなく、家畜やペット、水産、農業、環境など様々な分野へのワンヘルス・アプローチが重要となる。さらに、世界、国、地域、病院など対称軸によって評価や対策をするために必要な情報は異なるため、全ての目的を果たすデータの取得は困難である。しかし近年、分野ごとのリスクが分かってきた。

例えば、病院での抗菌薬使用量と近隣の下水や河川に含まれる抗菌薬の量に相関があることが論文で発表されている。治療後に体内で代謝できなかった抗菌薬が環境に排出されたり、病院の処理方法に問題があったりする可能性が示唆されており、環境から人間に薬剤耐性菌が入ることもあるため適正使用が求められる。

外来感染対策向上加算の新設や、感染防止対策加算の見直しなど、地域単位で医療の質向上を目指す流れができている。感染対策連携共通プラットフォーム「J-SIPHE」では院内のAMR情報を可視化し、院内および地域のAMR対策をサポートしており、参加する施設は2000以上で、ほとんどの施設が加算を算定している。病院でデータ入力するとJ-SIPHEにより図や表にして反映され、量だけでなく質の可視化分析も可能。

診療所版J-SIPHEもあり、病院と同じスキームでサポートされ、地域やグループでデータを活用して、抗菌薬適正使用の推進に役立てられている。

因果関係はこれから解析される部分も多いが、様々な分野においてデータが取得できるようになったことが大きな一歩である。AMR臨床リファレンスセンターでは今後も多角的な情報を元に、効果的なフィードバックを実施し、行動変容につながる対策を推進していく。

 

4.情報・教育支援室の取組み

 

一般市民を対象とした抗菌薬意識調査の結果、抗菌薬に対する理解不足の現状が分かっている。例えば、自己判断で処方通りに飲まない人が3割おり、薬剤耐性や薬剤耐性菌という言葉を聞いた事のない人が6割を超えている。

今後、一般市民に抗菌薬や薬剤耐性菌に関する基本的な知識が普及するような取り組みが必要で、特に不適切な使用が多い若年層や小さな子供を持つ親などをターゲットとして、ターゲットに応じた啓発を行っていく。

その1つとして川柳やアニメのコラボで啓発キャンペーンを実施。2023年11月には昨年に続きアニメ『はたらく細胞』とコラボした啓発用資材を用意している。薬局を通じて一般市民に渡せるため、薬局・薬剤師もこうした問題に意識して取り組んでいく必要があるだろう。

 

筆者:株式会社エニイクリエイティブ MIL編集部