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薬剤師とSNS利用

2023.10.24

日本保険薬局協会は9月8日、「管理薬剤師アンケート報告書」を公表した。調査項目としては

・薬局の規模や業態

・休日・時間外対応

・医薬品の安定供給の問題

・SNS等を活用したコミュニケーション

といったものがあり、中には「医薬品の安定供給」の問題に関する当事者の切実な声など、興味深い結果もある。本コラムでは、このうち「SNS等を活用したコミュニケーション」の部分について考えてみたい。

報告書によると、回答した薬局の中でSNS等を活用したなんらかのコミュニケーションを行なっている割合は56%で、行なっていない薬局は44%らしい。

この56%のうち、「双方向のコミュニケーションを行なっている」と回答した薬局は43.5%と大半を占める。

回答者が感じるSNSのメリットは、大まかには

・非同期性(発信者と受信者がリアルタイムで対応する必要がない)

・文字として履歴(ログ)が残る

という2点に集約されるようだ。

逆に、リアルタイムな対応が求められる場合には電話に切り替えるなどの柔軟な運用もみられる。

非同期的コミュニケーションという一般的な技術の方から「患者-薬剤師間のSNS活用」という個別のケースを改めて位置付けると、「薬剤師-薬剤師」間あるいは「患者-患者」間のコミュニケーションがサービスに組み込まれるようになれば、ネットワークは一次関数的ではなく指数関数的に増加することになると予想される。たとえば、患者自身が自分の治療体験をコンテンツ化し他の患者と共有する、逆に患者の情報を薬剤師が共有し服薬指導にフィードバックするといった機能が考えられる。

SNSは爆発的に普及し、大量のリソースを消費するにも関わらず、多くが無料で提供されるのはなぜか?企業としての利益の源泉はどこにあるのか?ということを考えると、利用者による投稿と個人情報を集約して得られる巨大なデータベースの価値がまず挙げられる。

本来であれば、患者が薬剤師とやりとりしたデータは宝の山であり、他のデータと紐づけることにより様々な活用の仕方が可能になる。これはターゲット広告といったSNSにありがちなビジネスモデルだけではなく、特定の薬剤の併用による未知の有害事象の発見や、局地的な疾患の早期検出といった公衆衛生学上の可能性も秘めている。あるいは、テキストデータのパターンから、認知症や癌のスクリーニングが可能になるかもしれない。少なくとも、オンラインで患者が医師に相談する内容と薬剤師に相談する内容とはおのずから異なるはずで、その差異自体にも価値があるはずなのだ。

たとえば、筆者は知人が経営する薬局で運営するLINEの一般向けオープンチャットに誘われ、個人として参加しているのだが、その薬局の患者さんではなさそうな匿名の生活者たちからの相談の投稿をただ眺めていると、OTCの誤用や飲み合わせについての質問など、ただスレッドの中に埋もれさせてしまうのはもったいない(匿名ではなく他の情報と紐づけられていれば、「回答して終わり」ではなく、臨床的な推論をさらに深めることができるのではないか)と感じることがしばしばある。

一方で、薬剤師が現時点で感じている非同期的なコミュニケーションのメリットは、情報の総量がまだ少ないからこそ成り立っているようにみえる。筆者が昭和生まれのアナログ人間だからかもしれないが、「SNSで双方向的に」服薬指導を行う患者数が対面よりも多くなるというような状況になると、メリットがデメリットに逆転してしまう可能性を懸念してしまう。

もしも将来的にSNS経由でのコミュニケーションのボリュームが増えてきたらどう対応するか?あるいは、コミュニケーションの質を落とさずにスケールアップ・スケールアウトするにはどういう段取りを踏むべきか(コールセンターを作る、生成AIを組み込む、など)?ということは今のうちに考えておいた方がよいのかもしれない。

 

「薬業時事ニュース解説」

薬事政策研究所 代表 田代健