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介護事業のDX化
2021.11.15
介護事業のDX化
株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
MPH(公衆衛生学修士)
齋藤 直路
- LIFEが本格稼働開始
令和3年度介護報酬改定を受けて、いよいよLIFEが本格的に稼働を開始しています。今後、介護事業を運営していく上では、LIFEの運用および「科学的介護推進体制加算」の算定が重要になってくることが予想されます。「科学的介護推進体制加算」の算定要件となる提出項目については「被保険者番号」等の「基本情報」に加え、「総論」では「既往歴」「服薬情報」「ADL」等、「口腔・栄養」では「身長」「体重」「低栄養状態のリスクレベル」「血清アルブミン値」「口腔の健康状態」「誤嚥性肺炎の発症・既往」等、「認知症」については「認知症の診断」に加え「DBD13」「Vitality Index」の一部項目が必須項目となっています。以前より議論にあがっていた通り「ADL」「栄養・口腔」の状態や「認知症」等の項目について、スクリーニング等を目的としたより詳細な情報の提出が必要となっています。
「科学的介護推進体制加算」は、これまでの自立支援促進を中心に据えた介護報酬改定の流れを汲んだものです。今後も、この流れが継続していくことを考えると、上記の項目については、もしこれまで評価等がおこなえていなかった場合には、今後、評価をおこなうことが必要になると考えられます。
これまで実施できていなかった業務を新たに実施するとなると、いままでの体制に更に業務を上乗せして実施することとなります。これらは今後無視することができない業務となります。いままでの体制に更に業務を追加いていくことを考えると、業務体制の見直しやデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じた生産性の向上が、より重要になってくるものと想定されます。
「厚生労働省からのお知らせ 科学的介護情報システム(LIFE)と介護ソフト間におけるCSV連携の標準仕様について」[ⅰ])
- 記録やコミュニケーションのDX化
まず着手すべきは、記録体制と考えています。令和3年介護報酬改定では、上記の「科学的介護推進に関する評価」に加えて、様々な加算に関する様式をLIFEに提出することが求められています。「個別機能訓練加算(Ⅱ)」であれば「生活機能チェックシート」と「個別機能訓練計画書」の提出をすることが必要となります。「個別機能訓練加算」に限らず、今後は各種加算の様式の提出が必須化されていくものと想定されますので、介護ソフトについては各種加算の様式に対応したものを採用していくことが必要となりそうですし、スムーズに入力ができる体制も整えておくことが重要となるでしょう。
また、入力についての効率化も進める必要があると考えられます。
スマートフォンやタブレットについて既に導入されている事業所も多いかと思いますが、全国のコンサルティングをお手伝いさせていただいている中では、導入した台数が少なく、職員に行き渡らない事業所もあると伺っています。結果、共用のタブレットに入力するためにタブレットまで移動をしなければならないというケースもあるようです。データ入力の時間が増加することを考慮すると、今後は、入力端末の増加も検討に入れる必要が出てくるかと思います。
入力方法についても工夫が可能です。スマートフォンやタブレットを使用したり、パソコンに音声入力ソフトウェアを導入することで、通常の打ち込みの他にも、音声での入力が可能となります。キーボード操作や打ち込みの苦手な方でも簡単に入力ができる上、繰り返し使用することで学習をし、更に入力時間を削減できるというメリットもあります。また、今後、センサーによる自動入力が広まっていくことも考えられます。タブレット等を導入しているにも関わらずなかなか記録時間の削減につながらない事業所では、是非、試されてはいかがでしょうか。
また、記録以外の面でも、様々なツールを活用することで更なる業務の効率化を図る方法もあります。新型コロナウィルス感染症の蔓延以降、対面での研修や会議等が制限を受ける中で、介護報酬改定においても各種会議のオンライン化が認められる流れとなっています。この流れに従って、各種会議をオンラインで実施することは是非推進したい項目となります。事業所間の移動の手間がなく、即座に会議に入れることから、大幅な時間短縮が見込めます。その際には、オンライン会議機能を搭載したビジネスSNSが有用です。会議の際に使用することができるのはもちろん、情報ファイルの共有やコミュニケーションツールとしても使用することができ、スムーズな情報共有にも役立ちます。
最近では採用場面においても、オンライン面接を導入している事業所が増えています。現在の状況下で、面接のために介護事業所を訪問することに抵抗を覚える方も少なからずいらっしゃいます。そういった方々にとっても、オンライン面談の実施はより応募をしてもらいやすくなるというメリットが見込めます。
- 他のDX化の事例と生産性の向上
上記に挙げた以外でも、様々な面でのDX化が検討可能です。
入所施設であるならば、見守りセンサーの導入が考えられます。今回の介護報酬改定では、見守りセンサーの100%の導入等によって人員配置要件や配置加算の緩和等を通じ、夜勤の人員を減らしたり、従来より少ない人員で加算を算定することができます。また、実際に導入することで、訪室回数の削減などにつなげることができれば、他の業務に充てる時間も確保することが可能となります。
訪問系の事業所では、訪問スケジュールを自動作成するクラウドサービスも登場しています。これまでは利用者やヘルパーの状況全体を理解した担当者が、相当の時間をかけながら作成されていた事業所も多いかと思います。この時間を短縮することは、事務的な時間を削減することだけでなく、訪問シフトの作成をおこなえる人材の時間を有効活用できるという観点からも注目に値します。
インカム等を活用したリアルタイムの情報共有の取り組みも進んでいます。例えば入浴介助をおこなう際、前の利用者の入浴が完了していない場合にもおおよその時間で誘導をおこない、結果として誘導した職員と利用者はその場で少し待たなければならないというケースも多くありました。わずかな時間ではありますが、こういった時間の積み重ねが積み重なると大きなロスとなってしまいます。インカム等でリアルタイムに連絡を取りながら、誘導のタイミングを適正化し無駄のない行動をとれるようにすることで時間のロスを削減することができます。
他にもAIケアプランの導入によるケアプラン作成の時間削減や、最近ではサーマルカメラを利用した体温測定と職員の出退勤管理を連携したシステムなども登場していきています。こういった様々な機器の導入を通じて少しずつ業務時間を確保することで、新しい体制に対応することが可能となります。
特に昨今は新型コロナウィルス感染症の影響もあり、こういった効率化の取り組みは比較的職員にも受け入れられやすい土壌が生成されています。是非、取り組みをご検討いただければと思います。
- DX化による採用への可能性
DX化は生産性の向上にも有効ですが、今後、採用面でも影響を及ぼしてくることが予想されます。厚生労働省による「令和3年12月度厚生労働省 職業別一般職業紹介状況」によると介護分野の有効求人倍率は依然3.82と高い水準にありますが、これは昨年対比で「-0.17」ポイントとなっております[ⅱ]。ひたすら上昇を続けていた近年ではまれな傾向です。
また、総務省統計局による「労働力調査(基本集計) 2021年(令和3年)12月分結果」から業種ごとの就業者人口の推移を見ると、農業、林業、製造業、宿泊業、飲食サービス業、サービス業を中心に就業者数が減少し医療、福祉関連では昨年対比で就業人口が16万人増加するなど、他分野から人材が流入していることがわかります[ⅲ]。
「労働力調査(基本集計) 2021年(令和3年)12月分結果」(総務省統計局)[ⅲ]
また、DX化以外の面でも、感染症対策の様々な取り組みを伝えることは有効です。緊急時に職員は事業所の対処能力を注視しますので、しっかり対応をしている事業所だと伝えることができれば、それだけでも他の事業所との差別化につながります。
例えば、感染予防の徹底は絶対事項となりますが、それに加えて職員の頑張りに報いる姿勢を示すため危険手当の支給をされている場合は是非記載しましょう。また、実際に他分野での雇用が減っていることから、緊急時に雇用が脅かされたりや所得が減ってしまうのではないかという不安もあります。発熱等で職員が出勤停止としたなった場合の扱いをどうするのか、休業手当の支給があるかや、年次有給休暇利用を推奨することをしているか等、事業所としてどの様な方針を取っているかも伝えましょう。この辺りは、専門家も交えて相談しながら、明確な指針を出すことが重要です。
コロナ禍における介護報酬改定は、大きな時代の転換点になると考えています。それに伴い、介護事業所としての在り方も大きく変化する時期に差し掛かっていると考えています。将来を見据えた対応と事業所の変革を是非進めていただければと思います。
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[ⅰ] http://www.roken.or.jp/archives/24039
[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_23556.html
[ⅲ] https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html