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介護事業所が経営改善を実現する方法

2023.10.30

【目次】

  1. 未来に向けた介護経営
  2. 介護事業における経営改善とは
  3. 売上アップを目指す
  4. コストの効率化


1.未来に向けた介護経営

 秋口に入り、令和6年度介護報酬改定に向けていよいよ議論が活発化してきました。新サービスの創設等、トピックスは多くありますが、今一度、現在の介護報酬の制度の流れについてお伝えできればと思います。

 介護保険制度は2000年より開始され、その後、情勢に応じて様々なテーマが議論の中心となり、様々な変更がおこなわれてきました。近年では「自立支援」「科学的介護」「生産性の向上」といったキーワードが、議論の中心となってきています。

 新しいトピックが出てくる中で、継続して聞かれる話題もあります。「基本報酬の引き上げ」や「処遇改善」等です。「処遇改善」についてはこれまでも繰り返し図られており、昨年には介護職員等ベースアップ等支援加算され、引き続き介護職やそれ以外の職種に関する処遇改善や、加算構造の簡略化等に関する議論がされています。

 一方で、「基本報酬の引き上げ」については、近年の介護報酬改定を振り返っても、厳しい議論となっています。下表から近年の改定率を確認すると、プラス改定の時期もありますが、実質的には処遇改善への取り組みや、新加算の創設等によるものであることが読み取れます。

 

「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」[ⅰ]

 

 社会保障費の増大という背景を考えると、今後もこの傾向は続くでしょう。介護事業を取り巻く内外の環境、つまり、人件費の上昇、エネルギー高、物価の上昇などの中で、事業を継続していくことができるような経営体制を創り続けなければなりません。そういった体制を構築するための経営改善の考え方について、今回お伝えできればと思います。

2.介護事業における経営改善とは

 介護事業における経営改善とは何かを考えてみます。経営に関しては様々な考え方がありますが、ここでは仮に、継続して適正な利益を上げ事業を継続できる状態を維持・拡大していくこととします。赤字事業所の場合はまずは事業の黒字化を、黒字事業所も、社会インフラとしてのサービスの質を担保しながら、現在の利益を維持・拡大していくことを目指すということになります。

 重要なのは、事業継続のために利益を上げることと、サービスの質の両立を目指すことになります。それは、社会的責任はもちろんのこと、介護サービスのビジネス構造にも関係しています。

 

 

「介護事業の構造イメージ」スターパートナーズ社作成

 

 上図の様に、介護事業においては売上を上げるために、様々なコストがかかります。特に、制度ビジネスである介護事業は、顧客数や単価等、通常のビジネスでは自由に設定できるものが、制度による制限が必ず存在します。例えば、人員基準上必要な職員数を確保できなければ、そもそも介護サービスそのものを提供することができないということもありえます。そういった、限られた構造の中で売上とコストのバランスを取って利益の向上を目指していくのが、介護事業所における経営改善の考え方となります。

 また、介護事業所では運営する上で、最低限必要な人員配置や設備が存在するため、現状削減のしようがない、必ずかかるコストというものが存在しています。そのため、利益をあげるためには、まずは売上を伸ばすこと、それも出来る限りコストを上昇させずに、という観点から入ることが大切です。そこから先に、更なる売上のアップやそのための投資等を考えるという手順になります。

 

3.売上アップを目指す

 介護事業所における売上は、シンプルに言えば「利用人数×顧客単価」で表現できます。利用人数は、登録人数や延べ利用回数等、サービスによって算出方法は異なります。顧客単価は、基本報酬と算定加算等によって変動します。

 このうち「利用人数」の増加を目指すために大切な事の1つは「営業活動」です。介護職から管理者になられたという方の場合、「営業のやり方なんてわからない」と不安に思われてしまうケースも多いようですが、介護業界における営業の考え方は、いわゆる通常の営業とは異なります。

 そもとも、ケアマネジャーに営業をおこなったとして、挨拶をしたその場で紹介につながるケースはまれです。実際に紹介をしてもらえるのは、ケアマネジャーが「何らかのニーズを抱えて介護サービスを探しているケース」を抱えており、そのタイミングで「何らかのニーズ」に応えることができる時になります。つまり、営業をおこなう時点で「紹介」につながるかどうかはタイミングでしかない場合が多いでしょう。

 そのため、「何らかのニーズを抱えて介護サービスを探しているケース」が発生した時に「あの事業所が対応できたな」と思い出してもらい、かつ「一度相談してみよう」と思っていただけるような信頼関係を築くことが重要になります。

 

 この時、「何に対応できるか」を明確にしておくことが重要です。そのためには、まず自事業所が「どんな方が対象なのか」を明確にしておくことが必要です。この対象は、広すぎてはいけません。より範囲を絞ることが大切になります。その上で、そういった方々の悩みに、どの様に応えることができるかを形にしていきます。

 例えば、現状が機能訓練を目的としたサービスの場合、機能訓練を目的としているというだけでは範囲が広いといえるでしょう。そこからさらに「歩行訓練をしたい人」と絞れば、他のサービスと比較されたとき、歩行訓練というメニューが刺さる人にはより興味を持ってもらいやすくなります。そういった絞り込みを行った先に、例えば「歩行特化コース」等のサービスを設定すると、その強みがより鮮明になります。

 この様な形で、自社サービスがどんな方の役に立てるのかをより鋭くし営業力を磨いていくことで「利用人数」の増加を図ります。

 

4.コストの効率化

 「顧客単価」については、平均介護度の上昇や新加算の算定等によって上がります。平均介護度については介護サービスの種別やコンセプトによっても異なるので、適正なものの定義というのは難しいでしょう。自事業所をベースに考えていくのが良いです。

 加算の算定については、今後の介護報酬改定の流れを考える上では、決しておろそかにできるものではありません。目標としては、算定が可能な加算を全て算定するということになりますが、コストと単位のバランスが見合わないケースもあり、現実的に難しいと感じられることもあるかもしれません。

 そのため、営業の強化と、可能な範囲での加算の算定をまずはおこなって、コストをかけずにある程度売上を伸ばした後、コスト対効果の高いサービスやツールの検証・活用等をおこなうなどの手段で、コストの効率化を図っていくという形になります。こうすることで、更に一段上の売上を目指していくということができるでしょう。

 

 まずお勧めなのがオペレーションチェックです。これは、「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版」においても推奨されているもので、事業所の全職員の業務内容を10分刻みで1日を通して記録し、それをまとめて事業所全体で1日を通して誰がどの業務をどの程度おこなっているかを可視化するものです。[ⅱ]

 

 

「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版」[ⅱ]

 

 この作業をおこなうことで、実際の事業所の流れが目に見えるようになります。こういった基礎資料を基に議論を開始することで「記録に時間がかかっているとは思っていたが予想以上だった」「一部の利用者の介護では2人介助となることで、想像していたよりも他業務を圧迫していた」等、現状を正しく把握することができるようになり、課題を適切に抽出することが可能となります。これらの具体的な方法は拙著「改革・改善のための戦略デザイン 介護事業DX(秀和システム)」に書かせて頂きました。

 そうすると次に、例えば下記を参考に、現在の課題に応じた機器の導入を検討することが可能です。これが、コストの更なる効率化につながることになります。

DX化を進める際の課題と方法例」

(「改革・改善のための戦略デザイン 介護事業DX(秀和システム)」より作成)

 

 また、近年では、加算の算定をサポートするサービス等も増えてきています。これまで算定が難しかった加算を算定し、効率化しつつかつ売上をアップさせるということも可能です。こういったサービスを活用することで、まずはコストを抑えながら売上を向上させつつ、ケアの質を落とさずにより効率的に利益をあげ、事業を継続していくことが可能な経営体制を目指すことができるようになるでしょう。

 

 介護サービスは地域にとって必要とされるサービスです。地域貢献としての意義はもちろんのこと、事業を継続し、より多くの方をサポートすることも、その重要な責務といえます。経営を健全化していくことも重要なテーマとなりますので、本稿をご参考にしていただけましたら幸いです。

  


[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000727135.pdf

[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf

介護事業所が経営改善を実現する方法

株式会社スターパートナーズ代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表

MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路