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高齢化社会において患者にヘルステックを活用して薬剤師が役立つこと(セミナーレポート)

2023.12.04

セミナーレポート「高齢化社会において患者にヘルステックを活用して薬剤師が役立つこと」

11月17日に一般社団法人ファルマ・プラス主催によるオンラインセミナー「高齢化社会において患者にヘルステックを活用して薬剤師が役立つこと ―ヘルスケア取組事例とこれからのウェルネス―」が開催された。今回は講演の中から、ヘルステックの世界的な動向と、その流れの中で薬剤師がどのように役立っていくかを中心に内容をご紹介したい。

【セミナー講師と演題】

演題:高齢化社会において患者にヘルステックを活用して薬剤師が役立つこと ―ヘルスケア取組事例とこれからのウェルネス―

講師:三井物産株式会社 ウェルネス事業本部 戦略企画室 シニアコンサルタント 木下 美香氏

《目次》

  1. 高齢化に進む世界と高まる人々の健康意識
  2. 近年のヘルステック動向
  3. 企業のヘルスケア取り組み動向
  4. これからのウェルネス


1.高齢化に進む世界と高まる人々の健康意識

始めに木下氏は、世界全体の平均寿命が延びており、人口増加も穏やかになることが見込まれるため世界的に高齢化が進行していくと示した。高齢化社会では有病率も自然と上がるため、糖尿病患者は2019年から2045年にかけて51%増加、認知症患者は2050年には2018年の約3倍になると見込まれていると説明した。

世界的にみると、健康意識は若い世代を中心に高まっており、遺伝子検査や腸内検査などに積極的に取り組んでいるという。日本においては「健康生活度の向上に意欲がある」と答えた人が6割以上というアンケート結果があるが、実際の満足度とはギャップがあり、健康意識はあるが満たされていない状況であると解説した。

2.近年のヘルステック動向

近年、医療ヘルスケア領域にも、異業種参入が活発化してデジタル化が進み、「質の高い医療や保険サービスの提供」「医療コストの軽減や医療従事者の負担軽減」の2つを両立させるものとしてデジタル技術は期待されていると説明した。企業はサービスの個別化や最適化を行い、リアルタイム性を盛り込むことで行動変容を促す。さらにツールやデバイスからデータを収集・分析・活用してエビデンスを構築し、自社のサービスやソリューションの差別化、競争力の向上を目指していくと述べた。

続いて、具体的なサービスを紹介した。

・医療記録自動生成AIソフト

米国の77%の病院で使用されているツール。膨大な電子・ペーパーワークによる医師の負担軽減のため、診察中の医師と患者の会話データをAIツールで取得して、自動的に患者の医療情報が更新できる。

・デジタルヘルスプラットフォーム(生活習慣病管理アプリ)

糖尿病、高血圧、肥満、高コレステロール、メンタルヘルスに対応可能。糖尿病患者の生活の質向上に取り組む企業が提供しており、高い顧客満足度を実現している。

・その他

光に指を数秒当てるだけで血糖値を測定できる「非侵襲の血糖値モニタリング」や、レーザー、光学センサ、カメラを使用して、脈拍・心拍・呼吸数・血糖値・血中アルコール濃度などを測定できる「非接触モニタリング機器」も開発されている。また、空中給電システムの実用化に向けた動きが日本でも本格化しており、実現するとデバイスの充電も必要なくなると説明した。

3.企業のヘルスケア取り組み動向

ヘルスケア領域におけるデジタル技術の進化により「モノ」消費から「コト」消費へと変化していると述べ、企業は自社の強みを軸として、対応領域を拡大する動きがみられると説明した。例えば、病院内の機器を提供する強みを持った企業が、データを活用したシステムを開発して、患者自身による健康状態の管理や、医療従事者による個別化医療の提供をサポートしている。病院の医療機器と健康な生活者の日常、両方のサポートに対応することで対応領域を拡大して、ユーザーとの接点を深めているという。

4.これからのウェルネス

ウェルネスとは、「心身共により良い状態を目指す積極的な手段や姿勢」のことを指し、ウェルネスの世界市場は4.4兆ドル、2025年には7兆ドル近くにまで成長すると見込まれている。そして、ウェルネス不動産・身体活動・メンタルウェルネスの領域はコロナ禍でも成長を続け、今後も成長が期待されていると述べた。ウェルネス不動産とは、「建築デザインに人の活動に適切な環境条件や、身体に良い影響を与えるとされる仕組みを組み込む形で居住空間が最適化された不動産」のことを指し、デジタルプラットフォームが家のシステムと連動しており、生活リズムに合わせた照明の自動調節、水や空気の正常化・モニタリングなどが可能。

糖尿病治療は2029年にはDOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)による適時適切な予防・治療法が確立すると予測されている。DOHaDとは、「将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定される」とする概念であり、胎児期に低栄養状態だった場合将来糖尿病になるリスクが高いとする報告が多数あり、DOHaDが確立すると予測されるリスクに対して早期介入が行われるだろうと説明した。

また糖尿病の未来の治療としては、「マイクロニードル型貼るだけ人工すい臓」が開発中で、実現すると体内のグルコース濃度に応じてインスリン分泌の自動ON/OFFが可能となり、画期的な治療法になるだろうと期待した。

認知症の未来の治療としては、抗アミロイドベータ抗体があるが、コスト面や検査可能な施設へのアクセス、通院頻度など社会実装に向けた課題が多く残ると説明。新規治療法として磁気刺激治療、低出力パルス超音波刺激治療、電気刺激治療が開発されており、数年後に実現が見込まれるものもあると述べた。

企業はテクノロジーを使いながら顧客体験を提供するが、人による温かさや顧客サポートは不可欠であり、現状、テクノロジーを通して不調に気づいた時、相談する場所が確立していない。今後薬局は、生活者にとって病院に行く前に気軽に相談でき、正しい医療情報の提供を受けられる場としての役割が求められるだろうと期待した。また新しい治療デバイスが実現した場合、薬剤師は日常生活へのアドバイスに加えて、デバイスのトラブル対応など、幅広い介入が求められる。さらに、今後情報格差が広がる可能性を示唆して、薬剤師がヘルスリテラシーの底上げに貢献できると、生活者の支えになると思うと述べ、セミナーを締め括った。

セミナー主催:一般社団法人ファルマ・プラス https://pharma-plus.info/

レポート作成:株式会社エニイクリエイティブ MIL編集部