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「介護DX」書籍著者による!介護事業所におけるDX化と生産性向上
2023.12.11
【目次】
1.「介護DX」の背景~介護事業所の経営状況~
介護事業所のDXといっても、何から検討してよいか分からないかもしれません。または、すでにある程度実施していてよく分かってると考えているかもしれません。本稿では、まず生産性向上が求められる背景の確認、取り組みの考え方について検討していきます。詳細と具体的事例の無料オンラインセミナーも実施しますので、ぜひご参加ください。
11月10日に開催された第38回介護事業調査委員会において令和5年度介護事業経営実態調査の結果についての案が提出されました[ⅰ]。今回の調査の結果の概要によると、全サービス平均での令和4年度の収支差率は、前回調査の令和3年度の収支差率に比べ、0.4%のマイナスとなっています。特に、特別養護老人ホームや介護老人保健施設は-2%を超えるマイナスとなっており、他にも特定施設入居者生活介護やグループホーム等、入所系の施設が前回調査からマイナスとなっている傾向があります。
マイナスとはなっていない訪問介護や通所介護といった在宅サービスにおいても、売上や延べ利用者数については前回調査よりも減少しています。利用者1人当たり収入の向上と支出である介護事業費用を全体的に抑える経営努力を通じて、収支差率を維持しているという状況が見えました。
介護サービス事業所の運営はいま、非常に厳しい状況に立たされています。環境要因による物価高や人件費の高騰、採用難は直接的に事業所の経営を圧迫します。また、売上の確保についても、法改正の影響を受けるとともに、利用者の確保にも苦労する事業所も増えてきています。
こういった状況を打破するためには事業所の収益構造を適正化する必要があります。まずは法改正の方向性を正しく理解し、加算の適正な算定を通じて単価を確保することです。それを実現するためには、適正な人件費コントロールや、作業を効率化するためのICT導入も含めたオペレーションの整理等も必要になってくるでしょう。また、地域において選べる事業所になるための、差別化戦略も必要になってくるでしょう。
今回はこの中で、特にオペレーションの改善に関して、介護事業のDX化と生産性の向上という観点について、解説をしていきたいと思います。
2.まず大切なのはスタッフの理解を得ること
DX化を実現するために大切なのは、トップの推進はもちろんのこと、スタッフの理解を得ることです。DX化を進めようという提案が事業所の中で出たとしても「・・・ただでさえ人が足りてないのに・・・」「これ以上新しいことなんてできない・・・?」「ロボットなんてとんでもない。利用者さんを守らなきゃ!」といった反対意見が出ることが想定されます(声にでるかどうかは別として)。
これは、「DX化=機械化=介護は人の手じゃなきゃできない」という誤解からくるものです。本来の意図としては、介護以外の業務を効率化し、時間の余裕を生み出すことで、その余った時間でより介護の量や質を向上させようという取り組みなのです。これは「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版」においても下図の様に示されています[ⅱ]。
「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版」[ⅱ]
理解してもらうためには、まずは「介護の質を上げることがDX化の目的である」ということを、スタッフと共有するための説明会を実施することが良いでしょう。事務所内にICT機器を導入したり、ソフトを活用して勤怠管理を効率化したりしていきながら、介護サービスの品質が向上し、お客様の満足度が上がるという点について認識してもらうこと等を盛り込みます。
また、可能であるならば実際にDX化に成功している施設を見学することも有効です。利用のイメージがわき、導入が難しいというメンタルブロックを外すことができます。導入の具体的なプロセス、体制、メリット、スタッフ・お客様の声などがわかるので、前向きに取り組む機運につながることが期待できます。
3.まずは「仕事を減らす」
DX化に具体的に着手する段階になったら、現場の状況を加味した取り組みが実施できる現場のメンバーを含めたワーキンググループを組織します。特定のスタッフに負荷がかかることを避けるために、複数のメンバーを選出すると良いでしょう。委員会とすると、業務効率化委員などの名称で5~6名を選定すると良いでしょう。
また、新しいことをはじめるにあたって重要なのは、現在の仕事を減らすことです。いままでと同じ業務量に新しい取り組みを付加したとしても、現場の負荷がより大きくなってしまいます。現在の業務状況を一度棚卸し、オペレーションの見直しと共に、どの仕事の優先順位を下げる(上げる)かを検討しましょう。
オペレーションの見直しをおこなう上では、下記の様な1日を10分刻みで記録していくことができる帳票を準備しスタッフへ配布、その数日間の実施業務を時系列で記録していきます。これを、同一の日に勤務したスタッフ全員分を取りまとめることで、事業所でおこなわれている業務の流れ全体を見える化することができるようになります。
「オペレーションの可視化の帳票イメージ」(スターパートナーズ社作成)
オペレーションの見直しをおこなった際に、無駄な時間や過度に負荷の大きい時間があれば、業務の省略や、反対にDX化の優先課題として設定することが可能になります。
どの部分のオペレーションを改善していきたいかが見えてくれば、DX化の対象も明確になってきます。対象となる分野についてはインターネット等で検索、資料請求等をワーキンググループメンバーがおこない、商品の選定をおこなっていきます。コストや性能を比較するとともに、自社の課題とマッチしたものであるのか、現在のスタッフでも使えるようなレベルの操作方法なのか、サポート体制はしっかりしているか等、より多角的に検討し判断していく必要があります。デモンストレーション等も適宜おこないながら、慎重に判断していきましょう。
また、これに先立ってクラウドの利用や音声入力、ビジネスチャットなどお金をあまりかけなくてもできることから導入するのも1つの方法です。様々な文書データをクラウド上に保存すれば、情報の共有化を図ることができ、音声入力を活用すれば、書類作成にかけていた時間を削減できます。スタッフにとっても大がかりなものより、こういった身近なところでの導入を通じて、その恩恵を実感できればよりポジティブにDX化に取り組む土壌ができるでしょう。
以上、介護事業所におけるDX化と生産性向上について解説してきました。本テーマにつきましては、2024年1月18日に開催される無料オンラインセミナー「介護事業所におけるDX化と生産性向上」にて更に詳しく解説します。ご興味をお持ちの方は、是非、ご参加ください。
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[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36276.html
[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
株式会社スターパートナーズ代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム代表理事
脳梗塞リハビリステーション代表
MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路