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「医療DXに関するスタッフ教育」(前編)
2023.12.18
【目次】
1.クリニックを取り巻く環境の変化
医療界では、政府主導のもと「医療DX」の推進が急ピッチで行われています。その背景には、超高齢社会に伴う医療介護需要の増加や、少子化による労働生産人口の減少(人手不足)、コロナ禍で露呈したデジタル化の遅れなどの課題があります。
また、患者のデジタル化への要求も高まっており、例えば、クリニックの「長い待ち時間」に対しては、Webから予約できないかという要望が生まれ、「紙の問診票」に対してはスマホから問診票の入力、定期的な来院が面倒なので、オンライン診療、そして、窓口での支払いは現金ではなくキャッシュレスを希望するなど、多岐に渡るデジタル化ニーズが表出化しています。
さらには、「働き方改革」が2024年には医師に適応されることとなり、医療界全体の長年の課題である長時間労働など、スタッフの労働環境をめぐって新たな変化が求められています
2.改めて医療DXとは何か
クリニックを取り巻く様々な課題に対する解決策として、医療DXへの期待が膨らんでいます。そもそも「医療DX」とは、医療分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)のことで、医療の現場において、デジタル技術を活用することで、医療の効率化や質向上を目的に推進されているのです。
そのような状況を受けて、クリニックもいま業務効率化・生産性向上に取り組むために、デジタルツールを活用した業務改革が必要となっています。しかしながら、DXに取り組むといっても院長がデジタルツールを導入すれば、それで終わりではありません。デジタルツールを活用し、業務変革につなげるためには、スタッフを巻き込む必要があり、医療DXに関するスタッフ教育がいま必要不可欠となっているのです。
3.医療DX教育の範囲
さて、医療DXの教育は、何から始めればよいのでしょうか。まずは、政府の進める医療DX施策の理解から始め、それと共にクリニックで利用されている様々なデジタルツールの関係性について説明を行う必要があります。これを行うことで、クリニックのデジタル化の事前準備をスムーズに進めることが可能となります。
また、デジタル化は近年ではクラウド技術が主流になりつつあり、便利になった反面、サイバーセキュリティの意識が重要になっています。医療界でも続々とサイバーテロによる事件が報告されており、その脅威および対策についての教育も合わせて行う必要があります。
さらに、電子カルテなどのデータベースに登録されている情報は最も機密性の高い情報とされており、2023年に個人情報保護法が改正され、診療所においても個人情報保護が義務付けされています。スタッフ全員が医療機関で取り扱う情報についての取り扱い方針を理解する必要性が出てきています。
4.医療DX政策の勉強会
2023年6月2日に開催された医療DX推進本部において「医療DX推進に係る工程表」が示され、各施策の具体的な実施時期が公表されました。
政府が進める医療DXは、「全国医療情報プラットフォーム」「電子カルテ等情報の標準化」「診療報酬改定DX」の3本の柱があります。「全国医療情報プラットフォーム」については、新たに「電子カルテ情報共有サービス」を創設し、まずは3文書6情報(診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報、処方情報)について、医療機関間や医療機関と薬局との間で情報共有・交換する仕組みを構築するとしています。
それに伴い「電子カルテ情報の標準化」を進める必要があり、電子カルテや薬局システムにおいて標準規格(HL7 FHIR)の対応が今後必要となります。
「診療報酬改定DX」については、診療報酬改定時に、医療機関やシステムベンダが短期間で集中してシステム改修等の作業に対応することで非効率が起きています。その改善を目的に、全国統一の共通的な電子計算プログラムである「共通算定モジュール」の開発を進め、2026年度において本格的に提供するとしています。なお、標準様式を実装した「標準型レセプトコンピュータ」についても、標準型電子カルテとの一体的な提供も行うことが考えられています。
このような政府が進める「医療DX政策」について、院内で勉強会を行うことで、医療DXの対応がスムーズにできるようになります。オンライン資格確認で経験したように、政府は医療DXを推進するために、補助金を新設し、診療報酬の評価を行い、いずれは義務化するというプロセスで普及を進めます。この流れをスタッフが理解しておくことは大切だと考えます。
医療DXの勉強会を行うに当たっては、講師は院長自らが行っても良いですし、事務を指名して講師を担当してもらうか、外部の講師を招聘しても良いと思われます。