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デジタル治療と薬局

2023.12.19

京都府薬剤師会は、高血圧治療補助アプリ「CureApp HT」の導入・運用に薬局薬剤師が介入することの効果について実証研究を開始したと公表した。

誰もが日常的に経験していることだろうが、スマートフォンにアプリをインストールすることとそれを実際に使うこととは意味が全く異なる。筆者自身のスマホにも、インストールはしたもののまったく使用していないアプリはいくつも入っており、つい先日も通勤の行き帰り以外は机に置きっ放しのスマホにインストールした健康アプリがひっきりなしに「もう少し歩け」と指示してくるため、数日で削除したばかりだ。

そこで、治療補助アプリを処方された患者のために薬剤師がインストールの補助を行う、フォローアップを行う、といった「介入」をするということなのだが、まずは処方医とアプリ開発者とがどのような形でアプリの使用にコミットするのか?というエコシステムをまずは確認し、その上で薬剤師のコミットの仕方を考えた方がよいのではないだろうか。

治療アプリの診療報酬上での扱いは、初回などの場合を除けば、

・プログラム加算:830点(C150 血糖自己測定器加算4  月 60 回以上測定する場合 を準用)

※ 6ヶ月を限度に月1回に限り算定

算定要件としては

前回算定日から、平均して7日間のうち5日以上血圧値がアプリに入力されている場合にのみ算定できる。

ただし、初回の算定でアプリ使用実績を有しない場合は、この限りではない。

となっており、メーカーの公式サイトではさらに「特定疾患療養管理料の算定もできます」ということをアピールしているわけだが、「医学的な評価」といった行為ではなく「患者を6ヶ月間ドロップアウトさせないこと」に対して診療報酬が支払われることは一目瞭然だ。

スマートフォンやタブレットでは、誰もが平等に持っている1日当たり87840秒という資源をめぐって様々なアプリが「1秒でも長くユーザーの視線をつなぎとめること」にしのぎを削っており、治療アプリもその競争の中に放り込まれる。したがって、アプリのユーザーインターフェースのちょっとした不便さでもユーザーを遠ざける要因となりえる(臨床試験では、アプリの不具合は治験中に57件生じ、そのうち36件は血圧測定器とのBluetooth接続のトラブルであり、残り21件については記載がないようだ。これらの不具合は、実際の患者にとってはドロップアウトの大きな要因となるはずだ)。

システムを開発する立場にとっては、「システムの問題をユーザーが運用でカバーしてくれる」という対応には悪魔的ともいえる魅力がある。しかし長期的に見れば問題を先送りするだけで、やってはならない対応だ。一例として「ドロップアウト率」に話を限定すると、

(1) ドロップアウトの原因を探り出して改善することはアプリ開発者の責任だ

(2) 「患者をドロップアウトさせないこと」によって診療報酬を得る医療機関の責任だ

のいずれか、または両方であって、アプリ開発者やユーザー(患者・処方医)はそのコストとベネフィットを冷徹に評価した上で開発/撤退、あるいは使用/不使用を決定するというのがシステムの本来の使われ方だ。つまり、この高血圧治療補助アプリのエコシステムには薬局は組み込まれていないわけだが、もし、そこに介入することを目指すのであれば、

(1)の考え方に立つ場合、もしもそこに薬剤師のマンパワーを投入することをアプリ開発者が「ソリューション」として選択するのであれば、アプリ開発者が薬局にサポート料を支払うというビジネスモデルを構築するべきだ。

(2)の考え方に立つ場合、プログラム加算の報酬をどう活用して患者のドロップアウトを防ぐかは医療機関の内部の問題で、外部の薬局を使うのであればサポート料を支払ってフォローしてもらう仕組みを考えるべきだ。

いずれにせよ、調剤報酬の仕組みとは馴染まないのではないかと筆者は考える。誤解のないように繰り返すと、「デジタル治療に薬局は関わるべきではない」と言いたいのではなく、「今回のアプリに関しては患者をサポートする形よりもアプリ開発者and/or処方医をサポートする形でコミットするほうが自然だ」というのが筆者の主張だ。

「薬業時事ニュース解説」

薬事政策研究所 代表 田代健