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ADMEと相互作用の基礎

2024.01.09

12月15日、一般社団法人ファルマ・プラス主催によるオンラインセミナー「ADMEと相互作用の基礎」が開催された。今回は講演の中から、薬物の体内動態と各過程における注意が必要な相互作用を中心に内容をご紹介したい。

 

【セミナー講師と演題】

演題: ADMEと相互作用の基礎

講師:川内薬剤師会理事 九州保健福祉大学大学院医療薬学専攻 山口裕次氏

■ADMEとは

山口氏は、医薬品には様々な剤形があるが、本セミナーでは内服薬のカプセル剤・散剤・錠剤について説明すると述べた。

ADMEとは、吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)の頭文字からきており、薬物の動きをイメージするための指標である。ADMEはそれぞれ以下の部位と要素が関係している。

・吸収:小腸(薬物代謝酵素やトランスポータ)

・分布:血液(血清タンパク質)

・代謝:肝臓(薬物代謝酵素、抱合)

・排泄:腎臓(トランスポータ)

※()内は注意が必要な要素

医薬品は2種類以上が同時に使用されるケースが多く、医薬品数が増えるに従って有害反応リスクが高まることが分かっており、その要因として薬物相互作用が考えられていると説明した。

 

■ADMEそれぞれの相互作用

・吸収(Absorption

吸収過程における相互作用は、消化管内pH変化、吸着やキレート形成、消化管運動機能の変化、小腸における代謝やくみ出しの変化、小腸における担体介在吸収の阻害の機序を考える必要がある。担体介在吸収の阻害として、グレープフルーツやオレンジのジュースがOATPsを阻害して、フェキソフェナジンの消化管吸収を大きく低下させる例などがある。

 

・分布(Distribution

分布過程では、輸送担体の阻害、血漿タンパク結合の置換の機序を考慮する必要がある。例えば、シクロスポリンには薬物トランスポータのOATP2を阻害する作用があり、OATP2で分布される薬剤の血中濃度が上昇する。OATP2で分布される代表的な薬剤としてスタチン類が知られており、併用すると腎機能悪化を伴う横紋筋融解症等の重篤な副作用が起こる可能性がある。現在日本で使用されているスタチン類は6種類あり、ピタバスタチンとロスバスタチンは併用禁忌、他は併用注意に分類されていることを説明し、併用注意薬剤を使用する場合は危険因子となる腎機能低下の有無を確認することが薬剤師には求められる。

 

・代謝(Metabolism

代謝過程における相互作用には、競合阻害、不可逆的阻害、非特異的阻害がある。

不可逆的阻害の中のMBI阻害は、薬物がCYPで代謝されて、その代謝物がCYPと共有結合して解離複合体を形成し不可逆的に阻害する機序。体内から阻害剤が消失しても、代謝阻害作用が持続するため注意が必要であり、代表薬剤としてエリスロマイシン、クラリスロマイシン、パロキセチンを紹介した。

「覚えておくと使える代謝阻害薬」として、経験を踏まえて以下の薬剤を紹介した。

・エリスロマイシン、クラリスロマイシン

・アゾール系抗真菌薬

HIVプロテアーゼ阻害薬

・ニューキノロン系抗菌薬

・フルボキサミン

 

・併用禁忌

また、代謝過程では代謝誘導による相互作用もある。

例えばタバコはCYP1A2を誘導する作用があり、CYP1A2で代謝されるテオフィリンの血中濃度が低下するため、喫煙者がテオフィリンを服用する場合は回避策としてテオフィリンが増量されることが多いという。テオフィリンを増量している患者が禁煙したり、入院などで喫煙できなくなったりした場合、テオフィリンの血中濃度が上昇してテオフィリン中毒を起こす可能性があるため注意が必要。

アルコールはCYP2E1を誘導するため、飲酒量が多い人はCYP2E1で代謝される局所麻酔が効かないことが知られているという。

「覚えておくと使えるCYP誘導薬」としては以下を紹介した。

・リファンピシン

・カルバマゼピン

・タバコ

・アルコール

・併用禁忌

 

・排泄(Excretion

排泄過程には、腎排泄による尿細管分泌阻害、尿細管再吸収阻害の相互作用がある。

■薬物相互作用に関する医師の認知度

続いて山口氏は、薬物相互作用に関する医師の認知度を示した。「〇〇と××の相互作用について知っているか」と医師に確認したところ、組み合わせによって認知度は異なるがいずれも100%ではなく、内科医と外科医でも認知度は異なると説明した。薬の効果については医師が判断するが、薬の体内動態を知る専門家は薬剤師であると述べ、相互作用の認知度が高いかどうかではなく、医師が知らない可能性はあると考えて情報提供する価値はあるとした。

 

■まとめ

最後に山口氏は、薬物相互作用のメカニズムが解明され、相互作用が生じる生体分子(受容体、酵素、トランスポータなど)が明確になっていくとして、相互作用のメカニズムを学ぶことは有害事象の回避や生じた相互作用に対処するためには必須であると考えを述べた。そして薬剤師が薬物相互作用に関する情報を、患者、医師、他職種スタッフに提供することは、薬を効果的かつ安全に使用する医薬品適正使用につながると述べ、セミナーを締め括った。

(レポート作成:株式会社エニイクリエイティブ MIL編集部)

 

医療安全に資するうえで、薬物の相互作用チェックは薬局における重要な役割です。本セミナーの内容は知識として押さえておくべき重要な内容でした。薬剤に関する情報も日々変化しており、薬剤師のスキル向上と情報収集は安全安心な薬物療法を行うためにも非常に重要です。

弊社の「MAPfor PHARMACY DX」は検査値に基づいて最適な投与量や禁忌などを自動的にチェックする機能を備えるなど、患者さまの安全を考慮しつつ、効率性を重視した設計になっています。円滑な患者対応を行うための業務体制をお考えの際はぜひご相談下さい。(EM-AVALON編集部より)