• 介護/福祉
  • #介護DX
  • #改定情報

令和6年度介護報酬改定の見通し~居住系・施設サービス~

2024.01.09

【目次】

  1. 報酬改定の大まかな方向性が決定
  2. 居住系サービスに求められる医療連携
  3. 科学的介護推進の流れは継続
  4. 処遇改善や職場環境に関する変化


1.報酬改定の大まかな方向性が決定

12月18日に第236回介護給付費分科会が開催され、審議報告の最終案のとりまとめに関する議論がおこなわれました。これまでの各論は「令和6年度介護報酬改定に関する審議報告(案)」として取りまとめられ、次期介護報酬改定の大筋がまとまりました。

今回は1.59%のプラス改定とする方向であることが報じられています。これには介護職員の処遇改善として0.98%を加えてものとされており、主として自立支援関連や生産性向上の取り組み関連等、新たな加算の創設される分野において、特にプラスが期待されるのではないかと考えられます。

また、今回は診療報酬改定と同時の改定となり、改定の施行時期を4月からとするか、医療との連携を考慮して6月とするかの議論もおこなわれていましたが、医療との関連が深い訪問看護や訪問・通所リハといったサービスについては、施行時期を6月とする形になっています。また続報がありましたらこちらで整理してお伝えします。

さて、本コラムにつきましては、前回は、在宅サービスを主として解説しましたが、今回は、施設サービスを中心として主要な改定点について解説します。

2.居住系サービスに求められる医療連携

大きな流れの1つとして挙げられるのは、「居住系サービスにおける医療ニーズ対応の強化」になります。特定施設入居者生活介護においては、夜間看護体制加算の要件が変更となり、従来の体制より更に配置基準を強化して「夜勤又は宿直の看護職員の配置」をおこなうことを更に評価する区分が設定されることとなります。また、入居継続支援加算の見直しがおこなわれ、従来はたんの吸引等を必要とする利用者の割合のみが要件とされていたところ、尿道カテーテル留置、在宅酸素療法及びインスリン注射を実施している状態の者が追加されることとなりました。

認知症対応型共同生活介護においては、医療連携体制加算の見直しがおこなわれ、体制要件と医療的ケアが必要な者の受入要件を分けて評価を行い、医療ケアが必要な者の受入要件については、対象となる医療的ケアを追加する見直しを行うこととなりました。

これはいずれも、医療的ニーズのある要介護認定者の受入を、介護施設において強化していくという方向性に即したものとなります。介護付き有料老人ホームやグループホームにおいても、今後、これらの機能が強く求められることになっていくと考えらえられます。これにともない協力医療機関との連携体制の構築も求められることとなり、相談体制の確立、協力医療機関との年1回以上の緊急時対応の確認および自治体への報告等が求められます。

特別養護老人ホームや介護老人保健施設においても上記に加え、入院が必要と認められる利用者の場合、それを原則的に受け入れることのできる協力医療機関の確保が必要とされるようになります。これには3年間の経過措置が設けられますが、それでも大きな変更点であることは間違いないでしょう。

また、感染症対応力の向上を新たに評価する加算も導入されます。感染症の診療を実施する医療機関との連携体制の構築に対する評価や、施設内で感染した高齢者の療養の受け入れに対する評価なども今後されるようになります。

3.科学的介護推進の流れは継続

施設系、入居系サービスにおいては、新たに認知症の対応に関する加算が創設されます。認知症の行動・心理症状(BPSD)の発現を未然に防ぐため、または出現時に早期に対応するための平時からの取り組みを推進するというものになります。BPSD の予防に資する認知症介護に係る専門的な研修等を修了している者の配置、評価指標を用いたBPSD の評価、チームケアに関する計画の作成や定期的な評価・見直しなどが評価されます。

これは、LIFEに関連して唯一直接的な加算と結びつかなかった認知症の分野において、特にBPSDに関連した取り組みを評価するという流れになります。今後、経過を踏まえつつ、大きく強化されていく分野の1つになるのではないかと考えています。

また、LIFEに関連しては、特別養護老人ホームおよび介護老人保健施設において、個別機能訓練加算(Ⅱ)の変更がなされます。口腔衛生管理加算(Ⅱ)及び栄養マネジメント強化加算を算定していることや、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の情報を関係職種の間で一体的に共有しLIFEを活用していることなどを要件として、機能訓練の取り組みを更に評価する区分が創設されることとなります。

自立支援について、機能訓練単体ではなく口腔衛生や栄養状態含め、総合的に介入することの重要性が近年の報酬改定においては強調されてきたところですが、ついにそれを強く評価する姿勢が打ち出されたと見えることもできます。この流れは今後、施設系サービスに限らず広がっていくのではないかと考えています。

その他、科学的介護推進体制加算等、LIFE関連の加算におけるデータ提出の頻度について、多くが6ヶ月から3ヶ月に短縮される、アウトカムを評価するADL維持等加算について、ADL利得要件について従来の「二」から「三」に引き上げる、つまりより高いアウトカムを求めるようになることから評価も更に高いものとすることが想定されるなど、科学的介護に関連した取り組みに対する評価も引き続き継続しています。今後も、これらの継続的な取り組みが評価の中心となる流れは、続いていくのではないでしょうか。 

4.処遇改善や職場環境に関する変化

大きな変化の1つとして、処遇改善加算の一本化も挙げられるでしょう。介護職員等ベースアップ等支援加算を基本として従来の処遇改善加算や特定処遇改善加算等が統一されるものになります。それぞれの要件を残しつつ、職種による配分ルールは廃止、月額賃金の改善に充てる金額も計算方法が変わる等の変更点があるので注意が必要です。また、職場環境等要件について、生産性向上及び経営の協働化に係る項目が強化されるとともに、各区分の実施事項の項目数によって加算区分が変更となるなどの点も確認しておきましょう。

生産性の向上に関してはこれ以外にも今回改定の大きなテーマの1つとなっています。まず、3年間の経過措置期間をもって、利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の設置が義務付けられます。これは従来は、生産性の向上に関して、見守り機器の設置等を通じた各種要件の緩和を受ける場合、必要とされた取り組みでしたが、これを多くのサービスで義務化することとなります。つまり、今後は生産性向上のための取り組みを、基本的な取り組みの1つとして求められるようになってくると考えられます。

この委員会の設置を要件として、見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入し、生産性向上ガイドラインの内容に基づいた業務改善を継続的に行い、業務改善の効果を示すデータの提供を行った場合、これを評価する新たな加算が設けられます。これまでは人員配置要件の緩和等、間接的な評価だったものが、業務改善への取り組みそのものを評価する流れとなりました。これは大きな変革となるのではないかと考えられます。生産性向上の取り組みは、今後も、大きな軸の1つであり続けるでしょう。

 

以上、簡単にではありますが今回の改定の主要なテーマについていくつか解説しました。介護施設における医療ニーズ対応、科学的介護、生産性の向上等、変更点は多様ではありますが、その中心となっているのは従来から中心になると思われていたテーマばかりです。これらに対する取り組みは、いきなり現れたものではなく、ずっと介護保険に関する議論のなかで語られてきたものになります。

今後も、これらは主要なテーマであり続けるでしょう。報酬改定のタイミングだからこそではありますが、それだけに限らず、継続的に対策を考え続けることが、今後も介護保険サービスを継続していく上で、重要な姿勢となるのではないでしょうか。

 

以上

株式会社スターパートナーズ代表取締役

一般社団法人介護経営フォーラム代表理事

脳梗塞リハビリステーション代表

MPH(公衆衛生学修士)齋藤直路